UAE初のweb3専門経済特区、企業のビットコイン支払いを検討
アラブ首長国連邦(UAE)やドバイでは、この数年メタバースとweb3の企業・投資を呼び込むさまざまな取り組みが展開されている。
その一環として、同国にあるweb3経済特区では、法人の支払い手段として暗号通貨を取り入れる議論が進んでいる。企業登記やオフィス賃料など、法人運営にかかる諸経費をビットコインなどの暗号通貨で支払えるようになる可能性が高まっているのだ。
この議論が進められているのが、このほどドバイやアブダビに続きweb3企業の誘致策を発表した首長国のラス・アル=ハイマ(Ras Al Khaimah = RAK)。
UAEは、7つの首長国(emirates)からなる連邦国家だが、世界的に広く知られているのは、首都アブダビと同国最大都市のドバイだろう。このほか、シャールジャ、アジュマーン、ウンム・アル=カイワイン、フジャイラという首長国が存在している。ラス・アル=ハイマはその1つだ。
「Emirates Blockchain Strategy 2021」など、UAEが国家全体としてweb3分野の戦略を進める一方、各首長国でも独自の戦略やイニシアチブが開始されており、首長国間でweb3企業の誘致合戦が激しくなりつつある。web3関連企業の集積度合いを見ると、現在ドバイが先行、これにアブダビが続く状況だが、これにラス・アル=ハイマが参戦する格好となる。
ラス・アル=ハイマは、2023年2月27日に開催されたweb3イベントBlockchain Life 2023で、デジタル/バーチャル資産分野に特化した経済特区「RAK Digital Asset Oasis(RAK DAO)」の創設計画を明らかにした。UAEには、様々な経済特区が設けられているが、web3専門の特区としては初の試みという。
この経済特区では、メタバース、ブロックチェーン、ユーティリティトークン、バーチャル・アセット・ウォレット、NFT、DAOなどweb3関連企業の誘致を目指し、アドバザリーサービス、アクセラレーター、インキュベーション、サンドボックスなど様々なサービスや優遇措置が提供されるという。2023年4〜6月期より、企業からの申請受付を開始するとのこと。
UAEの経済特区(free economic zoon)では通常、外国企業であっても100%の所有権を保持することが可能で、法人税を含め独自の法規制が適用される。
ラス・アル=ハイマがweb3スタートアップに有利な理由
ラス・アル=ハイマのweb3経済特区における暗号通貨支払いの可能性を模索しているのが、ドバイを拠点とするweb3分野専門の弁護士イリーナ・ヒーバー氏だ。
ヒーバー氏はCointelegraphの取材で、適切なパートナーが確保でき次第、法人の暗号通貨支払いの実行可能性を確認すると述べた上で、支払いにはビットコインのほか、いくつかのステーブルコインも選択肢に入ると語っている。
また同氏は、法人による暗号通貨支払いが実現するには、適切なテクノロジーだけでなく、法規制基盤が必須であると説明した上で、UAEではすでに必要な基盤は揃っていると指摘。実行まではそれほど時間を要しないであろうことを示唆する発言を行っている。
UAE経済省によると、同国には40以上の経済特区(Free Zone)が存在する。これらは、特にweb3に特化した経済特区というわけではなく、幅広い領域を対象にするもの。ドバイやアブダビに集積している多数のweb3企業もこの枠組みの範疇にあるものと思われる。
ヒーバー氏は、この現状がweb3企業にとって非効率な状況を生み出していると指摘する。多目的な枠組みであるものの、web3分野のバリューチェーンをすべてカバーしておらず、また経済特区ごとの異なるルールも相まって、web3企業の事業に制限がかかることもあり、対応にコストと時間を要してしまうケースが非常に多いというのだ。
この点、ラス・アル=ハイマのweb3経済特区は、創設当初からweb3に特化、web3分野のバリューチェーンを網羅しており、効率的な事業運営が可能になるという。ヒーバー氏は、ラス・アル=ハイマの物価水準がドバイより50%低いことを鑑みると、新設されるweb3経済特区は、スタートアップにとって非常に有利な場所になるだろうと述べている。
先行するスイスの「クリプトバレー」
ヒーバー氏がラス・アル=ハイマのweb3経済特区の暗号通貨支払いの可能性を模索する上で、参考にしているのがスイスの事例だ。
スイスでは、一部の自治体において数年前から暗号通貨支払いの試みが実施されており、ラス・アル=ハイマもスイスに続き、同様の取り組みを実施する構えだ。
スイスでは、2014年にチューリッヒで同国初のビットコインATMが設置されたのを皮切りに、2016年にはツーク州で行政サービスに対してビットコインによる支払い受付を開始、また国内1000台以上の切符販売機でビットコイン支払いの受付が開始されるなど、5年以上も前から、暗号通貨を支払い手段として取り入れる試みが数多く実施されてきた。
こうした試みの多くは現在も継続されている模様だ。ツーク州の行政ウェブサイトを確認すると、2021年2月時点において同州で納税義務のある個人と企業は、ビットコインとイーサリアムにより、税金を支払うことができるとの記載がある。
また、同ページは2023年3月1日に、暗号通貨による納税限度額が増えるという情報とともに更新されており、暗号通貨による支払いが拡大していることが示唆されている。限度額が増えたことで、納税者は150万スイスフラン分まで、暗号通貨で支払えるようになったという。
2020年9月時点の報道では、暗号通貨による支払い限度額は10万スイスフランだった。
ツーク州は、一連の暗号通貨取り組みから「クリプトバレー」と呼ばれ、web3界隈でも注目される存在。UAEのラス・アル=ハイマはツーク州に続き、中東のクリプトバレーとなることができるのか。今後の動きが注目されるところだ。
文:細谷元(Livit)