米航空大手、サステナブル取り組み加速
政府による優遇策の導入や観光客の意識変化を背景に、米航空産業ではサステナビリティ関連の取り組みが活発化している。
2023年1月には、米デルタ航空がサステナブル旅行を促進するイノベーションラボ「Sustainable Skies Lab」を開設。革新企業への投資に加え、コラボレーションなどを通じて、航空産業のサステナビリティ促進を目指すという。
具体的な取り組みとしては、短期では使い捨てプラスチックの廃止、地上オペレーションの電力化、また長期ではサステナブル航空燃料、新しい推進技術、水素関連技術の開発などが含まれる。
このデルタ航空の取り組みを主導するのは、同社の最高サステナビリティ責任者パム・フレッチャー氏。過去には、ゼネラルモーターズでEVシフトを進めた経歴を持つ。
一方、もう1つの米主要航空会社ユナイテッド航空では、エアタクシーの導入に向けた動きを加速している。
現在までの情報によると、同社はエアタクシー開発企業Eve Air Mobilityに1500万ドルを投資、また同社のエアタクシー200台を購入する契約を締結している。この契約には、さらに200台購入するオプションも含まれている。
Eve Air Mobilityは、ブラジルの航空機開発エンブラエルの子会社で、電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発。ユナイテッド航空へは、2026年のデリバリーが予定されている。
ユナイテッド航空はこのほかにも、別の電動垂直離着陸機開発企業Archer Aviationに1000万ドルを投じ、100台のエアタクシーを発注するなど、航空モビリティの電動化で目立った動きを見せている。
航空企業の動きを加速する政府支援
米航空業界でサステナビリティ取り組みが活発化している背景には、米政府の優遇策がある。
その優遇策とは、2022年8月16日にバイデン大統領の署名により発効した「インフレ削減法(The Inflation Reduction Act)」だ。
様々な条項が盛り込まれた法律だが、特に二酸化炭素排出の削減に向けたクリーンエネルギーの開発・普及に重点が置かれ、その予算額は4000億ドルに上る。
このうち航空関連分野には「Sustainable Aviation Fuel and Low-Emissions Aviation Technology Grant Program」のもと2億9700万ドル(約393億円)が配分される見込みだ。
具体的には、サステナブル航空燃料の研究開発や生産への資金提供に加え、航空会社がサステナブル航空燃料を実際に導入した場合、1ガロンあたり最大1.75ドルの税額控除を受けられるなどの優遇策が含まれる。バイデン政権は、今後8年で航空関連の二酸化炭素排出量を20%削減する方針だ。
米政府による優遇政策が開始されたことで、デルタ航空やユナイテッド航空に加え、他の航空会社でもサステナブル取り組みが活発化している。
2023年3月には、米航空大手の一角JetBlueがShell Aviationと共同で、ロサンゼルス国際空港でのサステナブル航空燃料の供給量を追加で増やす計画を発表した。2023年上半期中に、ロサンゼルス国際空港でJetBlue機へサステナブル航空燃料の供給を開始する予定という。
サステナブル航空燃料(sustainable aviation fuel = SAF)とは、安全性や性能に影響を与えることなく、既存の航空機でも使用できる航空燃料のこと。農業廃棄物や使用済み食用油などから生成され、石油ベースに比べプロダクトサイクルにおける温室効果ガスを大幅に削減できるとして注目を集めている。
Shellは、サステナブル航空燃料の販売比率を2030年までに10%に高める計画だ。
消費者意識の高まり
各航空会社によるサステナブル取り組み加速のもう1つの要因として、消費者意識の高まりも挙げられる。
米コロラドを拠点とする使い捨てプラスチックの代替品開発を行うFloWaterが2023年2月に発表した消費者意識調査によると、旅行に際し、サステナブルな選択肢を選ぶ消費者の割合が60%近くに上ったことが明らかになった。またサステナブルな選択肢に対し、より多くの費用を支払っても良いと考える割合も30%以上であることが分かった。
この調査は、年収10万ドル以上の消費者を対象に実施されたもの。被験者の年齢は18〜60歳と幅広いが、30〜44歳が68%以上を占めており、概ねミレニアル世代の声を反映する調査となっている。
FloWaterは、調査結果を受け、この10年で消費者意識が大きく変化したことを示すものだと指摘。数年前に実施された複数の調査でも、環境取り組みの重要性を理解する消費者は少なくないことが示されたが、サステナブルな選択肢に発生するプレミアム(追加費用) に対して、実際に支払ってもよいと考える消費者の割合は少なかったという。しかし、今回の調査では、その状況が大きく変わりつつあることが示されたと説明している。
米国では、2021年11月に発表された「Aviation Climate Action Plan」に沿って、2050年までに航空産業の温室効果ガスをネットゼロにするという大きな目標が掲げられている。上記で触れた電動エアタクシーの導入やサステナブル航空燃料の開発・生産に加え、今後は新しい航空機やエンジンの開発、オペレーションの刷新などが進められる見込みだ。
文:細谷元(Livit)