ブロックチェーンなどのテクノロジーを活用することで、ビッグテックによる中央集権的な管理ではなく、複数のユーザーが相互に接続されたネットワークによる管理を行うことが特徴とされるインターネットの新しい形「web3」。
このweb3を取り入れる動きは、さまざまな分野のサービスで活発になっているが、オンラインライブストリーミング・プラットフォームの世界でも、web3技術の導入が始まりつつある。
アメリカの人気ラッパー、スヌープ・ドッグが共同創業者として名を連ねるライブストリーミングアプリ「Shilller」のほか、初の完全分散型ライブビデオストリーミング「Livepeer」、映画・エンタメDeFi・NFTプラットフォームとの提携を発表した「Beem」など、既存プラットフォームと異なる特徴で注目されているweb3ライブストリーミングプラットフォームを紹介する。
大手SNSがリードしているライブストリーミング
オンラインライブストリーミングは、様々なイベントが中止となり、外出も制限されたパンデミックを経て、これまで以上に世界中の人々の関心を惹きつけている。
ゲームコンテンツの視聴、インフルエンサーとの交流、コンサートなどのバーチャルイベントへの参加、ライブショッピングなど、幅広いコンテンツをライブストリーミングを通じて楽しむ人は増え続けており、各プラットフォームには新機能が次々に登場。昨年には、Facebook、Instagram、TikTokにライブショッピングが実装された。
今年中には、米国における視聴者数が1億6,340万人にのぼるとの予測もなされているライブストリーミングだが、その主要なプラットフォームは現状、Facebook、Instagram、YouTube、Twitchなど、ビッグテックが運営するSNSや動画サイトがリードしている。
スヌープ・ドッグ共同設立のweb3のライブ配信「Shiller」
そんな状況の中、比較的新しい動きが、web3、すなわち分散型インターネットのライブ配信プラットフォームだ。
中でも今年リリースの「Shiller」は、米有名ラッパーのスヌープ・ドッグが共同設立者の一人となっていることもあり、なにかと話題になっている。
実業家でもあるスヌープ・ドッグは、昨年からweb3関連事業を相次いで開始しており、昨年夏のMTVビデオミュージックアワードでも、ブロックチェーン企業ユガラボ(Yuga Labs)と提携して行った、メタバースとリアルを融合させたステージでのエミネムとのパフォーマンスが話題となった。
Shillerのようなweb3ライブ配信サービスを特徴づける点は、クリエイターにとってコンテンツ収益化の在り方が変わるところだ。Shillerでは、承認申請が通ったクリエイターは、コンテンツを収益化するための一連の独自ツールにアクセスできるようになる。
「Shiller」の提供するクリエイター収益化ツール
Shillerが提供するクリエイターの収益化ツールのひとつはトークンゲートだ。
これは、特定のNFTを所有しているユーザーに限定商品、ディスカウント、商品の優先的な購入の機会を提供するもの。また、コマースサイトの商品の共有やNFTのプロモーションなどの機能も備えている。
加えて、視聴者からチップやバーチャルギフトを受け取り、それを現金化したり、絵文字やチャット、画面分割、投票、ゲームなどを通じて視聴者とクリエイターが交流する機能も実装予定だ。
Shillerは今年1月のローンチを予定していたが、4月まで延期するとのアナウンスがなされている。
初の完全分散型ライブビデオストリーミング「Livepeer」
このようなweb3ライブ配信プラットフォームは、Shiller以前にもリリースされている。
中でも、中央管理者を持たない完全分散形ライブビデオストリーミングの元祖だとされているのが、2017年開始のニューヨーク発ライブ配信ネットワーク「Livepeer」だ。
Livepeerは、分散型ネットワーク技術の活用により、従来のような運営会社による動画のホスティングや保存を行わないことで、動画配信機能の質の高さを保ったまま、コストを大幅に削減し、従来のストリーミングサービスと比較して高い収益性をクリエイターに提供することを目指している。
映画・エンタメDeFi・NFTプラットフォームと提携する「Beem」
Livepeerがローンチした翌年の2018年には、web3動画ライブストリーミングインターフェイス「Beem」が設立された。
Beemは昨年、映画・エンタメDeFi・NFTプラットフォームである「Mogul Prodution」との提携を開始、コンテンツ視聴とクリプトトークン支払いを統合することを試みている。
この統合により、Beemユーザーは、Mogul独自のトークンであるSTARSで支払いを行い、プラットフォーム上で直接web3コンテンツを利用することができるようになる。
同時に、Mogulを利用する映画プロデューサー、アーティスト、クリエイターは、Beemを使って、トークンゲートイベント、ライブ体験、上映会などを行うことができるようになる。
web3とクリエイター・エコノミー・ムーブメント
このようなweb3ライブ配信プラットフォームのサービスリリースは、web3によって生じうるクリエイター・エコノミーの変化の一端ではないかとも言われている。
これまでのプラットフォーム運営会社による中央集権的な管理から、ユーザーによる分散型の管理に移行しようというweb3の動きは、動画やライブ配信などのコンテンツクリエーターに、コンテンツの完全な所有権とそこから生まれるマネタイズを提供する可能性を秘めている。
プラットフォームのアルゴリズムやルールの突然の変更により、アカウント停止や再生回数の激減が生じるといった不安定な立場に置かれてきたコンテンツクリエイターにとって、web3プラットフォームは自分のコンテンツのコントロールを取り戻し、さらなる収益化の可能性が高まる点が魅力と言えるだろう。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)