イーロン・マスク氏、ChatGPTの競合プロダクト「TruthGPT」開発へ。AIは人類を抹殺しない? テーマは宇宙の本質を理解すること

マスク氏、TruthGPTの開発計画を明らかに

米テスラ社CEOのイーロン・マスク氏が、ChatGPTに対抗する新たなAIチャットボット「TruthGPT」の開発計画を進めていることが明らかになり、話題となっている。

この情報が明らかになったのは4月17日。マスク氏は、フォックスニュースのタッカー・カールソン氏によるインタビューで、OpenAIとグーグルに対する第3の選択肢を作り出すために「真実を追究するAI」を開発すると発言したのだ。

同インタビューの中でマスク氏は「真実の追求を最大化するAI、TruthGPT、の開発を進める計画がある。このAIは、宇宙の本質を理解しようとするもの。宇宙を理解することに関心を持つAIは、私たち人類を抹殺する可能性が低く、安全性を確保する最善の手段と思われる。なぜなら、私たちは宇宙の一部であり、興味深い存在であるから」とTruthGPTのコンセプトを説明した。

マスク氏は、ChatGPTを開発したOpenAIの創業メンバーの1人であるが、2018年にOpenAIの役職を辞職。それ以降、公然とOpenAIへの批判を続けており、上記インタビューでも、OpenAIに対する批判を展開した。その1つは、OpenAIが「政治的に正しく(politically correct)」なるように、AIをトレーニングしているというもの。これによりAIは真実を示さなくなる(untruthful)と、マスク氏は指摘している。

OpenAIでオープンなAI開発を志向していたマスク氏

OpenAI創業当時、マスク氏はAI開発で先行していたグーグルなどの巨大企業が集中管理するAIではなく、オープンなものにしたいという考えから、オープンソースかつ非営利での開発を志向、実際社名にもそれが反映された形となった。しかしこの点についてマスク氏は2023年2月のツイートで、現在のOpenAIが「クローズドソース」となり、「マイクロソフトによって実質的にコントロールされている」と批判していた。

上記インタビューの中で、マスク氏は、AIが世論を操作できるほど強力なものになっており、「文明的破壊」を引き起こす可能性があることにも言及、規制が必要であるとの見解も述べている。

インタビューで明らかになったのは、TruthGPTのコンセプトや開発背景であり、具体的な詳細情報は明らかにされていないが、おそらくOpenAIのChatGPTやグーグルのBardなど、大規模言語モデルをベースとするチャットAIサービスになるのではないかとの見方が有力だ。

この分野は、すでにChatGPTが大きな市場シェアを獲得したものと思われるが、後発でも影響力を持つことは不可能ではないと見られている。テッククランチのデビン・コールドウェイ氏は先週、自身の記事の中で、OpenAIを脅かす上で、マスク氏が先端技術を開発する必要はなく、影響力を持つのに必要なのは数十億ドル、マスク氏にとっては十分支払える額だと指摘している。

マスク氏、連邦AI規制当局の創設を提案

上記タッカー・カールソン氏によるインタビューでは、マスク氏はAIに関する脅威や懸念を示した上で、米国におけるAI規制の導入を提唱しており、これをきっかけに米国ではAI規制の議論が活発化する可能性がある。

マスク氏が提唱したのは、米連邦航空局(FAA)のような連邦AI規制機関の設立だ。米連邦航空局が航空宇宙産業と連携し、関連技術の開発を推進してきた方法を、AI産業にも応用すべきと主張している。まず、AI規制機関は、AI技術に関する洞察を得て、その後AI産業から意見を募り、ルール・規制を策定することで、安全かつ有益な形でAI開発を促進できるだろうと述べている

マスク氏は、2023年3月22日に発表された「AIの開発中止」を呼びかける公開状に署名をした著名テックリーダーの1人。マスク氏のほかにも、AIの脅威やリスクを訴えるテックリーダーは数多く存在する。

公開状は、マサチューセッツ・ケンブリッジの非営利団体「Future of Life Institute」によって発行されたもの。OpenAIが開発した最新の大規模言語モデル「GPT-4」以上の能力を持つAIの開発を少なくとも6カ月間、停止するよう呼びかけている。同団体は、マサチューセッツ工科大学の宇宙論研究者マックス・デグマーク氏、スカイプの共同創業者ヤン・タリン氏らが創設。過去に、マスク氏やアルファベット傘下のAI企業ディープマインドに対し、AIを活用した殺傷兵器システムの開発を行わないことを約束させた。

Future of Life Instituteは公開状で、「この一時停止を利用して、AI研究所や独立した専門家らは、高度なAIを安全に設計・開発する一連のプロトコルを共同で作成し、実行することを求める」と主張、また「これらのプロトコルは、独立した外部専門家によって厳格に監査され、監督されるべき」で「プロトコルに従うシステムが合理的な疑いを超えて安全であることを保証する必要がある」としている。一方、これは一般的なAI開発の停止を意味するものではなく、予測不可能なブラックボックスモデルが拡大することを止め、危険を回避することが目的であるとも述べている。

この公開状には、マスク氏に加え、アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアック氏、2020年の大統領選の候補者アンドリュー・ヤン氏、スチュアート・ラッセル氏、ジョシュア・ベンジオ氏、ゲイリー・マーカス氏、エマド・モスタク氏など多数の著名起業家やAI研究者、政治家らが署名、現時点では2万7000人以上の署名が集まっている。

4月14日の最新報道によると、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は、同公開状に対し、一部同意すると発言。ただし「どこで一時停止が必要かなど、技術的なニュアンスが欠けている」とし、公開状が求めるやり方は最適なものではないと指摘している。

マスク氏の言動、マイクロソフトとの関係にも影響

マスク氏のOpenAI批判は、OpenAIに多大な投資をしているマイクロソフトとの関係にも影響を及ぼしている。

マスク氏は4月20日、自身のツイートで「彼らはAI開発で違法にツイッターのデータを活用している。訴訟の時間だ(They trained illegally using Twitter data. Lawsuit time)」 とツイート。これを受け各メディアは、マスク氏がマイクロソフトを訴える可能性があると報じているのだ。一方CNBCは、マスク氏は実行しないことをツイートすることでも知られており、現時点では訴訟の事実は確認されていないとしている。

このマスク氏のツイートは、マイクロソフトが同社が提供する広告プラットフォームからツイッターを排除することを明らかにしたことを受けてのもの。同プラットフォームは、フェイスブック、インスタグラム、リンクトインなどのソーシャルメディアアカウントを一括で管理し、広告キャンペーンを実行できるもの。

Mashableは、マイクロソフトが同プラットフォームからツイッターを排除した理由について、ツイッターのAPIアクセスコストが高騰しているためとしているが、AIをめぐる論争が影響していないとは言い切れない。少なくともマスク氏は、マイクロソフトの決定に対しAI開発でのデータ学習問題の提起で応酬しており、今後マスク氏とOpenAI、さらにはマイクロソフトとの競争・論争は激化することが見込まれる。

文:細谷元(Livit

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