ニューヨークで初のエアタクシー試験飛行

空の移動の電動化が今後2〜3年で本格的に進む公算が高まっている。各国で、エアタクシーの試験飛行と導入に向けたロードマップ構築が進んでいるからだ。

直近動向としては、2023年2月にニューヨークで米電動航空機開発企業BETA Technologiesが電動垂直離着陸機(eVTOL)である「ALIA−250」の有人試験飛行をニューヨークで行い、無事成功したというニュースが注目された。

この有人試験飛行は、ニューヨーク・ホワイトプレーンズにあるウェストチェスター・カウンティ空港で実施されたが、ニューヨーク大都市圏での電動垂直離着陸機による有人試験飛行としては初の試みという。

試験飛行には、パートナー企業となるBlade Airも参加。Blade Airは、米国、カナダ、欧州、インドの大都市圏におけるエアモビリティ予約プラットフォームを展開している。現在は主にヘリコプターを使用しているが、今後数年で電動垂直離着陸機にシフトする計画だ。BETA Technologiesとともに、2026年までのエアタクシーサービスの展開を目論んでいる

ALIA−250には、乗客向けモデルとカーゴモデルの2種類が存在する。乗客向けモデルは、パイロットを含め6人乗り。両モデルとも最高速度は時速170マイル(約273キロ)に達する。一度の充電で約250海里(約463キロ)の飛行が可能。フル充電にかかる時間は50分、騒音はヘリコプターの10分の1という

BETA Technologiesは、米バーモントを拠点とする2017年創業のスタートアップ。Crunchbaseによると、これまでの調達額は8億8600万ドル。2022年4月時点で、同社の評価額は24億ドルと報じられている

2021年4月、米物流大手UPSがALIA-250を150台購入する計画を明らかにしたほか、Blade Airが20台を購入する契約を締結している。

ALIA-250(BETA Technologiesウェブサイトより)

電動固定翼機によるエアタクシーが先行する可能性

電動垂直離着陸機ALIA−250の展開を目論んできたBETA Technologiesだが、2023年3月、電動固定翼機(eCTOL)の需要が高いこと、また米当局FAAの認証プロセスを鑑み、ALIA−250の後継機である電動固定翼機「CX300」の展開を先行させる計画を明らかにした。

電動垂直離着陸機は、航空機の中でも新しいカテゴリとなるため、当局による認証プロセスが複雑化・遅延する可能性があるとされる。一方、電動固定翼機であれば、既存の固定翼機カテゴリのもとで認証プロセスを進めることができ、認可が降りるまでの期間を短縮できる可能性があるという。

CX300(BETA Technologiesウェブサイトより)

BETA Technologiesは、この新計画のもと、CX300の認証を2025年までに獲得し、同じタイミングで予約注文のデリバリーを実施する計画だ。すでにニュージーランド航空、Bristow Group、United TherapeuticsなどからCX300の注文を受けている。ニュージーランド航空の注文数は、確定分で3台、オプションでさらに20台増える可能性がある。Bristow Gropからの注文は50台分が確定しており、オプションでさらに55台増える可能性がある。ALIA−250の認証はCX300の認証より12〜18カ月遅れる見込みだ

CX300は、ALIA-250をベースとするモデルで、機体フレーム、バッテリー、推進力、システムは同じものが使用されている。現行のCX300モデルの飛行距離は、386マイル(約621キロ)。試験飛行では、同社の充電ステーションネットワークでの複数回の充電で、連続で3500マイル(約5632キロ)の飛行距離を記録したという

シンガポール、ドバイの動向

BETA Technologiesの機体を活用したエアタクシーサービスが米国で登場するのは、早くても2025年となるが、シンガポールでは、それより1年早くエアタクシーサービスが開始される見込みだ。

シンガポール地元紙ストレーツタイムズ2022年2月16日の記事によると、同国ではドイツのVolocopter社の機体を活用したエアタクシーサービスが2024年にも開始される計画という。

計画ではまず、観光地として人気の高いマリーナ地区とセントーサ地区でのサービス開始となり、その後、インドネシアやマレーシアなど近隣諸国にもフライト範囲が拡張されるとのこと。

Volocopterが開発するエアタクシーモデルの1つ「VoloCity」は、時速90キロで、約35キロメートルの飛行が可能だ。もう1つのモデル「VoloConnect」は、時速180キロで、100キロメートル以上の距離を飛行できる。

一方、ドバイでは2026年のエアタクシーサービス開始に向けた取り組みが進められている。まずはドバイ国際空港、ダウンタウン地区、パーム・ジュメイラ、ドバイ・マリーナの4カ所を結ぶフライトサービスが開始され、範囲は徐々に拡張される計画だ。

文:細谷元(Livit