VR(仮想現実)やAR(拡張現実)が広まりを見せつつあるなか、より現実世界への没入を可能にするMR(複合現実)の開発も進んでいる。同分野への投資も膨らみ、MR市場は2030年までに約1兆円に達する見込みと報じられている。

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MRへの投資が急増、年成長率43%に

アメリカの市場分析会社Market Research Futureの調査レポート「Mixed Reality Market Report: Information by Component, Vertical, Product, and Region – Global Forecast until 2030」によると、MR市場は2022年から2030年の間に年率約43.28%の成長を遂げ、市場規模は92億1,000万ドルに達すると予測している。

市場拡大の要因は、同分野への投資の増加である。ここ数年でハードウェア、ソフトウェア、プラットフォームなどMRの技術は格段に進歩し、イノベーションへの期待の高まりが投資につながっているようだ。

現実世界と仮想世界の融合が加速

XR TODAYによると、MRのテクノロジーの向上は、現実世界とデジタル世界をよりシームレスにする大きな転換点となると、多くの専門家が指摘している。

コンピュータビジョン、グラフィックの処理能力、ディスプレイテクノロジーなどが改善されることで、バーチャルなホログラムが現実世界に入り込み、よりリアルな“複合現実”が実現されるということだ。

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MRに近づけたヘッドセットの発売も相次いでいる。2022年10月下旬、米Metaは最新型ヘッドセット「Meta Quest Pro」を発売。また、ほぼ同時期に中国バイトダンス傘下のPICOも「PICO 4 Enterprise」のリリースを発表した。

いずれもコンシューマ、エンタープライズの両方を意識したヘッドセットデバイスであり、これまでマイクロソフトHoloLensの牙城であったエンタープライズ市場にどう絡んでくるかが注目されている。

高性能エンタープライズ版が続々

Meta Quest ProとPICO 4 Enterpriseは、ほぼ同スペックであると報じられているが、どのように違うか。2つのデバイスを比較してみよう。

まずMeta Quest Proは、Meta Quest2と比べると軽量かつコンパクト。高性能プロセッサSnapdragon XR2+を搭載しており、電力持続性と熱管理が大幅に改善された。また、MRオペレーティングシステムである「Meta Presenceプラットフォーム」を介して、フルカラーのパススルー体験が可能。より鮮明な画像を表示する「パンケーキレンズ」や、直感的に感じられる「TruTouchハプティクス」、装着者の目線や表情を追跡する内向きカメラなどが搭載されている。

ザッカーバーグCEOは、同製品が「まるで職場で同僚とコラボレーションするかのような」体験を提供すると述べ、ビジネスシーンでの利用に適切であることを強調している。

2023年1月に日本でも販売が始まったPICO 4 Enterpriseは、個人向けヘッドセットPICO 4のビジネスユース版だ。1インチあたり1,200ピクセルの4Kディスプレイ、目や表情をトラッキングする3つの赤外線カメラ、8GBのRAMを装備。メガネを着用しながらも装着できる人間工学に基づいたデザインや、3時間もつ大容量のバッテリーも魅力的だ。

PICO 4 Enterpriseの日本販売価格は14万1900円(税込)。一方、Meta Quest Proは発売当初は22万6800円(税込)に設定していたが、3月に入って15万9500円(税込)に値下げを発表。Metaはプレスリリースで「できるだけ多くの人々に手頃に活用いただけるようなハードウェアを作ることを目指している」と説明している。

その他IT大手では、AppleもMR市場に参戦する模様だ。同社が開発するヘッドセットは今春の発表、秋頃からの発売が囁かれている。一部報道によると、AirPodsとの連携やダイヤルでVRと現実世界を切り替える機能があるという。

マーケットの拡大が見込まれるMRだが、今のところまだ一般的とは言い難い。しかし、Appleの参入で情勢が一気に変わる可能性も否めない。今後の動向を注視したい。

注目のMRスタートアップ

MR市場を盛り上げているのは大手だけではない。スタートアップ界隈でもイノベーティブな製品が着々と開発されており、動向によっては今後のMR市場を左右するかもしれない。ここからは、世界の注目MRスタートアップ4社を紹介する。

BioMinds:神経疾患のリハビリ用デバイス

2019年に創業したポーランドのスタートアップBioMindsは、神経リハビリテーションのためのMR療法システムを専門家と共同で開発。脳卒中、脳損傷、多発性硬化症、脳性まひなどによる神経疾患からの回復を目的とし、運動認知療法と心理療法にもとづいたAR/VR環境での代替コミュニケーションを行なっている。また同社は、言語障害を持つ人たちのための社会適応訓練も支援している。

GigXR:XR(拡張現実)による学習促進

ロサンゼルス拠点のGigXRは、医学生にXRベースの学習を提供するEdTech(エドテック)スタートアップだ。同社の製品「HoloHuman」は没入型ホログラムを使用して、人体の解剖図を3Dで表現する。ホログラムには4,500を超える名称が表示され、学生は3Dのバーチャル人体で解剖をシミュレーションできる。これにより医療トレーニング不足を補い、効果的な学習を促すことができる。

Volta:無料のバーチャルライブプラットフォーム

ロンドンのVoltaはバーチャルライブのプラットフォームを開発している。没入型テクノロジーにより、アーティスト、コンテンツクリエイター、プロデューサーは、選択した会場よりリアルタイムの仮想ライブをつくることができる。

また、クリエイターに無料のプラットフォームを開放することで、有料制作スタジオの代替となるサービスも提供している。

2iXR:小売業者向けの体験型マーケティング

スペインのスタートアップ2iXRは、小売企業に体験型マーケティングを提供している。内容は、ARカタログ、バーチャル試着室、MRベースのプロモーションイベントなど。ARカタログは、顧客が商品を仮想空間で見つけられるようにするもので、家具や装飾品、車など幅広いジャンルで活用できる。また、販促イベントではMR環境でのミニゲームやクイズなど、ゲーミング感覚で参加できる企画を開催している。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit