ESG情報開示義務化の波やデータドリブン経営に対応。今求められる経営管理とは?

サステナブルな社会の実現に向けた「SDGs」の取り組みが広がるなか、機関投資家の間では、環境問題や社会問題などに対応する企業に投資を行う「ESG投資」も拡大している。

そうした背景のなか、企業ではESG関連の非財務情報の開示が求められるようになってきた。すでにEUでは、域内の資産運用会社においてESG関連の情報開示の義務化が始まっており、日本国内でもその動きは本格化してきている。金融庁はサステナビリティ開示のロードマップを発表し、開示情報の充実化に向けた取り組みを行う予定だ。岸田首相も企業に対して、2023年度から非財務情報にあたる人的資本の情報開示を義務付ける方針を示した。

一方でESG関連の情報開示では、現場だけでなく取引先など幅広く情報を集める必要がある。また、主に経理部が管理している財務情報以外にも、各部門にまたがる非財務情報も収集しなければならない。

とはいえ、細分化された取引先や各部門からデータを収集するのはなかなか大変な作業だ。各現場のシステムがバラバラで、「情報の粒度が合わない」「そもそも元データがない」「正確性が怪しい」といった課題もある。

そんな課題を解決しながら、財務情報と非財務情報を一つのプラットフォームに統合して開示することが可能となるソリューションが、ウォルターズ・クルワーから発表された。

オランダ発のグローバル企業である同社は、これまで全世界1700社以上が導入する経営管理システム(CPM)である「CCH®Tagetik」の提供を通じ、経理・経営企画・ビジネスリーダーの意思決定をサポートしてきた。

CCH®Tagetikは企業のあらゆる情報を統合的に一元管理することが可能で、財務データだけでなく、ESG経営に必要な非財務データも取り込めるのが大きな特徴だ。日本ではトヨタ自動車や本田技研、リコー、大塚ホールディングスなどを中心に、大手企業が導入。日本の売り上げTOP10企業のうち、半数の5社が採用し、年々拡大を続けている。

さらにここにきてウォルターズ・クルワーでは、昨今のESG対応へのニーズの高まりを受け、新たに「経営管理&ESG部門」を設立。金融庁のロードマップにおける要件などに迅速に対応できるよう、新機能「CCH®Tagetik Corporate Performance Management」を、日本市場に向けて拡充することも発表した。

ここからは、4月18日に行われた当日の記者発表会の模様をお届けしたい。

コロナ禍を経てデータドリブン経営へのシフトが加速

記者発表会の第1部では、経営管理&ESG部門のCEOに就任したカレン・アブラムソン氏が、「経営管理システムの世界的な需要と企業経営の最新動向」について紹介した。

経営管理システムの需要は世界的に高まっており、実際、CPM市場の成長率は7%と拡大を続けており、とくに日本では10%の成長率が見込まれていると話す。

その背景には、コロナ禍で過去の経験則で経営判断ができなくなったことから、あらゆるデータをリアルタイムに収集・分析し、予測を立てて実行していく「データドリブン経営」への全世界的なシフトがあると言う。

加えてESG関連の情報開示はリスク報告や規制に対応するだけでなく、競争力につながると感じる企業は増えており、「ESG経営は“オプション”ではなく、大企業が存在感を示すために“必須”の時代」だと力強く述べた。

ウォルターズ・クルワー 経営管理 & ESG 部門 Chief Executive Officer カレン・アブラムソン氏

ただ、ステークホルダーからESGに関する情報開示が求められているなか、どうやってデータを収集・分析し、報告するのか、現状はESGデータが「つぎはぎ」であるために非効率であると話す。だからこそ、財務と非財務にまたがるESGデータを効率的に収集、分析、報告できるCCH®Tagetikのようなソリューションが必要だと語った。

ESGは単なる規制やトレンドではない。この局面を企業成長のチャンスと捉える

第2部ではウォルターズ・クルワー CCH® Tagetik 日本 マネージングディレクターの箕輪久美子氏が、日本における経営管理システムの需要や必要性について触れた。

箕輪氏自身、20年以上の間、経営管理ソリューション分野に属しているが、ここ数年でとくにデータドリブン経営を支えるための経営基盤ニーズが急速に増しているのを実感しているそうだ。

ウォルターズ・クルワーが実施した「2022年 CPMグローバル調査」の結果でも、90%がパンデミックやサプライチェーンの混乱により、経営管理プロセスに複雑さが増したと回答。95パーセントは経営管理の仕組みに不満があると回答しており、マネジメント層から見ると、意思決定に必要な情報がないという声をよく聞くと言う。

さらに、国内でもESG関連の情報開示の動きが本格化してきている。その例として、金融庁が発表したサステナビリティ開示のロードマップでは、遅くとも3年以内に有価証券報告書での開示が求められることについて述べた。

法定開示となるために当然正確性が重要となるが、必要なデータは現場だけでなく、取引先など幅広い。また各部門にまたがる非財務情報のデータを集めてくる必要があるなど、とても大変な作業だと話す箕輪氏。そこで、こうした経営情報をワンプラットフォームで管理できるのが、CCH®Tagetikが持つ価値だと紹介した。

ウォルターズ・クルワー 経営管理 & ESG 部門 CCH® Tagetik 日本 マネージングディレクター 箕輪 久美子氏

日系の大手グローバル製造業では、バラバラにある200以上の異なるシステムから財務情報だけでなく非財務情報も含めた情報を、CCH®Tagetikという1カ所に集約している例もあるそうだ。さらに収集したデータを組み替え、整合性チェックを行いながら、原価分析やシミュレーション、CO2排出量分析なども実現していると言う。

さらに、今回発表した「CCH®Tagetik ESG&Sustainability Performance Management」では、ESG関連の情報開示要件に対応したフレームワークがすでに用意されているのが特徴だ。これにより、ESGデータの効率的・効果的な開示が可能となる。当日は、例としてCO2排出量分析のシミュレーション結果が示された。

また、箕輪氏は同社が提供するESG経営の段階的なアプローチも紹介。

まず第1フェーズでは、情報開示や分析をより効率的に実施。第2フェーズでは

ESG指標と事業計画を連携させながら、実際の事業活動のなかで、ESG目標達成のPDCAを回していく。そして、第3フェーズは規制対応にはとどまらず、新しい時代のなかで成長し続けるためのビジネスモデルを再構築していく。CCH®Tagetikはこれら全体のフェーズを、ワンプラットフォームで支援していくと話す。

ESGの事業投資判断は、なかなか過去の経験が活かせない領域だ。そして10年、20年、30年といった中長期の視野で見ていくことが重要である。そのなかでこれまで以上に、過去のデータを活用した将来予測が重要となるとも述べた。

最後に箕輪氏は、「ESGはもはや単なる規制やトレンドではありません。新しい社会の中で、この局面をチャンスと捉え、日本企業がどんどんイノベーションを起こして世界をリードしていけるようにしっかりと支援していきたい」と話を締め括った。

サステナビリティに対する取り組みが企業価値を高める

第3部では、パートナー企業を代表し、EYストラテジー・アンド・コンサルティング 代表取締役社長の近藤聡氏が、持続的成長の実現に向けた経営管理システムの必要性を紹介。

世の中的に、長期的な企業の価値向上を支えるESG投資がスタンダードになるなか、企業としてもESGへの対応や情報開示が求められている現在。近藤氏は機関投資家への開示だけでなく、「従業員や消費者社会から見ても、その企業がサステナビリティに対してどんな取り組みを行っているのかが企業価値につながります」と述べる。

その事例として挙げたのが、ユニリーバだ。

同社は株主に対する配当を基本的には下げ、サステナビリティに対する投資を増やしていく、もしくは従業員に対する投資を増やしていくと表明。一時的な株価の低迷を招いたものの、中期的に見るとユニリーバの株価は上がってきている。

また、そもそもどんな情報の開示が必要なのか、具体例も提示した。

例えば社会的価値では、カーボンニュートラルに向けた対応など環境への配慮や、サプライヤーの人権が尊重されているかなどの観点が挙げられる。

人材価値では、最近「人的資本」という言葉をよく聞くが、従業員のエンゲージメントがどれだけ高いかなどを可視化する必要があるだろう。わかりやすい例としてダイバーシティ&インクルージョンにおいては、日本国内でも企業が2023年6月ごろ公表する2023年3月期の有価証券報告書から「女性管理職比率」などを記載することも義務化される。

そして顧客価値では、顧客満足度やイノベーションに対してどれぐらい投資をしているかなどの可視化が必要だと言う。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役社長 近藤 聡氏

こうした異なる種類の情報を「明日提示しなさい」と言われても、すぐに出せない企業がほとんどだろう。情報を開示して報告するまでのインプットのプロセスが多岐にわたるからこそ「CCH®Tagetikのような統合プラットフォームがないと、とてもじゃないけど情報開示には対応しきれない」と、近藤氏は話した。

コロナ禍で将来の予測が難しいことを痛感した今。先が見えない変化の激しい時代に持続可能な会社運営を行っていくためにも、CCH®Tagetikを基盤とした経営管理を行いながら、データドリブン経営を実行していく必要があるのだろう。

文:吉田 祐基
写真:西村 克也

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