男は仕事、女は家庭。2023年現在において、この文字面に強い違和感を覚える人は少なくないだろう。

総務省の調査によると、父親が育児をする時間は年々増加しているものの、母親に比べて父親が育児に関わる時間はおよそ4分の1にとどまる(※1)。この差を埋めるべく、政府がさんきゅうパパプロジェクトとして男性の休暇取得を推進するなど取り組みを行っているが、実際には父親が育児を「できる」環境はまだまだ整っていないのが現状だ。

正社員として働く男性のうち、37.5%が「育児休業制度の利用を希望したが、利用できなかった」と回答している(※2)。男性が育児をすることが想定されていないため、父親と子どもだけでいると「今日はお母さんは?」などと聞かれることもあるようだ。妊娠期から自らの身体の変化を通して赤ちゃんをリアルに感じながら母親になる準備を徐々にはじめる女性と違い、男性は身体の変化もなく、妊婦についての知識や育児に必要な基礎知識を学ぶ場も少ないため、準備不足な状態のまま父親になることが多い。

そうした状況を踏まえ、「父親が育児をできる社会」を目指して立ち上げられたのが一般社団法人Daddy Support協会(以下、Daddy Support協会)だ。同協会が現在作成しようとしているのが母子手帳ならぬ「父子手帳」だ。父子手帳は、妊娠・妊婦・育児についての基本情報や、父親と母親両者を守るために知っておくべきこと、危なくない育児の基本情報などをまとめた1冊のこと。

現在、父子手帳をつくっている自治体はあるものの、育児を中心とした内容であって妊娠中の女性のからだに関する情報が不足していることや、インターネット上で配布されるため認知されにくいことなどが課題となっているという。そこで、母子手帳を受け取るときや病院を受診した際に受け取れる仕組みをつくることで、妊娠初期から父親がこれらの知識を身につけられる環境を整え、育児に取り組む父親支援の社会システムの構築を目指している。

父子手帳のイメージ

父親は、子どもが産まれたことで「もっと働かなくては!」などと自分を追い込み、病んでいってしまうことも少なくありません。

(ReadyFor 「親の健康を守るために」妊娠期から使える、父子手帳を作りたい! より)

これはDaddy Support協会を立ち上げたメンバーのうちの一人である、ふたりの娘の父親かつ産後うつ経験者の言葉。子どもを産んだ母親の大変さは数多く語られてきたが、父親目線からの育児の困難さに耳を傾ける機会は意外と少ない。

Daddy Support協会は、そうした男性が育児をすることの難しさや、父親が潰れてしまうことの怖さをそれぞれが実際に感じた経験から産婦人科医・男性保育士・そして産後うつ当事者の3名によって設立された。

Daddy Support協会が目指すのは、良い育児をすることではなく「両親が健康に育児をする」ということ。妊娠から出産、育児の段階まで、父親が正しい知識を十分に身につけることで、母親そして父親自身の健康を守ることができる。両親の精神状態は子どもに大きく影響を与えることから、「家族みんなが健康であるために、父親を支援する」ことが、団体のミッションなのだ。

Daddy Support協会は父子手帳の実現に向けて、クラウドファンディングに挑戦中だ。クラウドファンディングでは、父子手帳だけでなく、育児情報を調べられるポータルサイトや教室の設置、父親支援のツール開発・研究も目指している。興味のある方は、ぜひサイトを覗いてみてはいかがだろうか。実体験をもとにした、家族のための父子手帳。この1冊が、父親が育児を「できる」社会への第一歩となることを願う。

※1 令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 | 総務省
※2 平成30年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 報告書 | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
※3 産後、同時期にメンタルヘルスの不調で苦しんでいる夫婦は年間約3万組!?~母子だけでなく、父親も含め世帯単位での支援やアセスメントが必要~ | 国立成育医療研究センター

(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:妊娠期から使える「父子手帳」を。父親が父親を助ける社会システムを考える