INDEX
米国の大手暗号資産取引所、FTXの昨年の破綻は世界中で広く報道されたが、その影響はさまざまな側面に波及しており、クリプトユーザーや投資家に与えた心理的影響も無視できない。
しかし、2022年12月に実施され、このほど発表されたCoinWireによるクリプトユーザーへの意識調査では、FTX破綻の後も、仮想通貨やブロックチェーン、分散型ウェブ関連の動向に、比較的ポジティブな見解を持つ人の割合が比較的多いことが報告されている。
注目された結果の1つは、メタバースの生活への影響に関するもの。しかしこの他にも、現在使用しているプラットフォームや今後期待のプラットフォームなど、クリプトユーザーの見解が幅広く集められた。
このCoinWireによる昨年末の調査に基づいて、2023年に向けたクリプトユーザーの意識・動向を探ってみたい。
FTX破綻は暗号通貨セクター全体に多大なる影響
昨年の暗号通貨セクターにおける一大ニュースとなった、年末のFTXの破産と創業者のフリード氏の逮捕だが、FTXはそのずさんな資産管理と経営体質によって、顧客だけでなく、暗号通貨セクター全体に大きな衝撃を与えた。
これに伴い、クリプトセクター全体がレイオフの動きを強める可能性や、世界各国でクリプト関連の規制強化への動きが強まる可能性も囁かれており、同社の破綻による影響の全体像が明らかになるには、さらに1年かかるとも言われている。
先月の米国最大のスポーツイベント、スーパーボウルでも、FTX、eToro、Crypto.com、コインベースなどのクリプト企業が広告をデビューさせた昨年の様相とは一転し、仮想通貨関連企業4社が約600万〜700万ドルの広告を流すはずだった予定が、FTXの破産申請を受けてすべて立ち消えになった。
「CoinWire」がクリプト市場に対する意識調査を発表
このようなクリプト業界の現状が、ユーザーや投資家の意識・動向にどのような影響を与えているのかについて、昨年末、調査が行われた。
アーリーステージの分散型金融、NFT、Web3プロジェクトに特化したベンチャーキャピタル「TK Ventures」が運営し、仮想通貨関連、ブロックチェーンと分散型ウェブの最新情報の提供を行っている「CoinWire」が、その調査元だ。
この1万人以上のクリプトユーザーや投資家を対象として行われた調査に基づいてリリースされた「Crypto Report 2022」は、昨年の暗号通貨市場の状況、市場動向の分析、関連プロジェクトの資金調達状況に関する包括的な情報に加え、ユーザーや投資家の意識動向もアンケート形式で調査、報告している。
メタバースがエンタメ、ソーシャルライフを変化させる可能性
調査対象者から前向きな回答が多く寄せられたのが、仮想通貨と縁の深い没入型の仮想世界「メタバース」の今後の展開についてだ。
回答者のうち、69%がメタバースがエンタメの形を大きく変え、それに伴いソーシャルライフも変化するだろうと回答。また、65%が、メタバースが社会との交流に対するアプローチの在り方を変えるだろうと予想していた。さらに、ファイナンス、ビジネス、教育分野にメタバースが影響を与えるとの回答も、それぞれ61.2%、49.6%、45%と高い数値を示した。
今年1月にラスベガスで開催されたテックイベント「Consumer Electronics Show 2023」では、メタバースは重要なテーマのひとつであり、薔薇が香るベッド、キャンプ場に漂う焼きマシュマロのような、触覚や嗅覚まで網羅した、より深い仮想世界への没入を可能にする最新の関連技術が公開された。
マイクロソフトが過去5年間で158件のメタバース関連特許を取得し、メタ社をリードするなど、ビッグテックもこの分野には熱意を注いでいる。そして、韓国では仮想空間上に設けた行政プラットフォーム「メタバースソウル」の運用が開始されるなど、政府機関の参入も始まり、メタバースは私たちの生活に徐々に身近な存在になりつつあるようだ。
Web3のゲーム業界での普及には課題あり
ブロックチェーン、トークンなどのテクノロジーを取り入れることで、ピア・ツー・ピアの分散型ウェブ世界を構築しようという「Web3.0」についてはどうだろうか。
調査回答者の約9割がWeb3という言葉を聞いたことがあると答えた一方で、51.4%の回答者はWeb3は誇大に煽り立てられているだけの存在だと考えており、現在のところ、多くの人が懐疑的な見方を示していると言えるようだ。
もっとも、Web3は、2022年の資金調達実施数が最も多かったカテゴリ(33%)であり、昨今の暗号通貨市場低迷の中でもNFT/ブロックチェーンゲーム企業への投資は堅調だ。
この調査でも67%の回答者が、既存のゲーム会社が将来的にWeb3ゲームに高い関心を持つだろうと予想している。しかし、78%が、ゲームプレイでお金を稼ぐことを意味する「Play-To-Earn」がWeb3ゲームを表す用語として最も広まってしまっていることが、既存のゲーム会社のWeb3ゲーム参入を妨げる最大のハードルのひとつとなっていると考えていた。
最も利用されたプラットフォーム、最も関心のあるプラットフォーム
NFT/ブロックチェーンゲーム企業がクリプトの冬においても比較的好調であることを受けてか、ブロックチェーンプラットフォームに関する調査結果でも、ゲーム分野に強いプラットフォームの名前が目立っていた。
最も利用されたプラットフォームの分析では、イーサリアム、BNB Chain、Polygon。DeFiプロトコルに預けられた暗号資産の価値であり、DeFiへの関心を測る重要な指標として用いられる「Total value locked:TVL(預かり資産)」の分析では、イーサリアム、BNB Chain、Tronが上位に名を連ねていた。
一方、最も関心のある新しいプラットフォームには、著名なベンチャーキャピタルから巨額の資金調達に成功し、高いセキュリティへの期待から次世代のブロックチェーンとも言われている「Sui」がトップとなった。
DeFi(分散型金融)に対する不安と期待
ブロックチェーン上に構築された金融サービスである「DeFi(Decentralized Finance)=分散型金融」に対しては、安全性などへの不安と共に、より普及が進むことへの期待が寄せられていた。
DeFiは、銀行や政府などの中央機関を通さずに利用できることで、手数料や利便性の観点から注目されているが、回答者の5人に3人が、DeFiのセキュリティリスクや複雑さに不安を感じていた。
一方で、58%の回答者は、今後の規制整備と資金調達がDeFiの大規模な導入を導くと考えており、「FTXのような中央集権的な仮想通貨企業の破綻により、DeFiの透明性と分散性がより着目される」という、著名投資家のキャシー・ウッド氏がFTX破綻後に示した見解を裏付けるような形になった。
FTX破綻はクリプト業界への信頼に負の影響を与え、投資にも影を落としたと言われている。しかし、昨年末から各国で本格化している関連法規制の整備などにより、混乱が落ち着けば、暗号資産やそれを支えるブロックチェーンなどのテクノロジーに対する前向きな風潮が、今後より強まっていくのかもしれない。
文 大津陽子
編集:岡徳之(Livit)