フランスの天気予報、「明日の雨の理由」を気候変動の観点から解説へ

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「初桜折しもけふは能日なり」と松尾芭蕉が詠んだように、桜は私たちに、春の訪れや新しいことの始まりへの期待など、温かく心踊る気持ちを抱かせてくれる(※1)。

日本には、美しい自然の移ろいを繊細にとらえた七十二候(しちじゅうにこう)と呼ばれる72の季節がある。これは、1年を約5日ごとに分け、変化する天候、植物、生き物の様子を表現したものだ(※2)。古代中国が起源の七十二候は、日本の気候風土に合わせて編纂され、長い間人々の暮らしに寄り添ってきた。

七十二候のなかで、桜前線が北上し、各地で咲き始める頃とされるのは3月25日から29日の「桜始開(さくらはじめてひらく)」だ(※3)。しかし、今年2023年の開花は、3月14日の東京から始まり、15日に横浜、16日に岐阜、17日に名古屋など、各地点で観測史上最も早い開花の観測が続いている(※4)。

気象庁の報告によると、桜の開花日は1953年以降、10年間で1.2日の割合で早まっている(※5)。特に近年は開花の早まりが顕著で、去年は全国48地点のうち28地点で観測史上最も早い開花日を記録した(※6)。今後は、開花日が早まるだけではなく、開花自体が始まらなかったり、満開にならない地域が出てきたりする可能性があるとも言われている(※6)。

このような季節感のずれや、平年の気象との極端な乖離は、近年、世界各地で頻発している。その理由を気候変動の枠組みで紐解こうとする取り組みが、フランスのテレビ局によって始まった。

フランスのテレビ局France 2とFrance 3は、毎日の天気予報を「天気・気候ブレティン」に変更し、予想される天気を伝えるだけでなく、その理由を気候変動の観点から探る。

「単に『明日は晴れか雨か』というだけでなく、その理由を説明するのです」と、ニュースディレクターのアレクサンドル・カーラ氏は述べる。

この新しいアプローチは、気候変動が天気に及ぼす影響をわかりやすく説明することで、深刻化するこの問題に対する人々の意識を高めることを目的としている。番組では、数字やデータ、気温の異常や水位、冬の干ばつなどについても取り上げる予定だ。

もともと地球の天気は常に変動するものであるが、近年、人為的な要因による気候変動によって、その変化が極端になっていると言われている(※7)(※8)。国連組織IPCCの報告書によると、「人間の影響が大気、海洋、及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏、及び生物圏において、広範かつ急速な変化が現れている。」とあり、近年の地球環境の極端な変動は人為的な影響によるものだと断定されている(※9)。

異常気象とそれに伴う災害は世界各地で観測されており、記録的な熱波、洪水、干ばつ、森林火災が頻発している(※7)。世界気象機関(WMO)によると、気象災害の発生件数は過去50年間で5倍近くに増加しているという(※10)。

昨年は、夏場は比較的涼しい英国で、観測史上初めて40℃を記録した(※7)。また、フィリピンでの台風、南アジアや南アフリカでの大雨など、異常気象は各地で多数の死者を伴う災害を引き起こした(※12)。

「天気は気候の直接的な影響」であると強調するカーラ氏は、従来の天気予報のあり方を見直し、気候変動への理解と認識を深めるために新しいアプローチが必要だと主張する。

「これまで通りの予報を続けることはできない。2月にビアリッツで25℃になることを、その理由を説明せずに喜んでいるのは受け入れられません」

また、彼らは番組制作にとどまらず、視聴者とのインターラクティブな取り組みも始める予定である。視聴者やインターネットユーザーはハッシュタグ#OnVousRépond(私たちは答えます)を使って、天気に関する質問をすることができる。

普段は予報を見ても、その天気の要因まで思いを馳せることは少ないかもしれない。フランスのこの取り組みは、明日の天気を、気候変動というより大きな文脈で読み解くきっかけを与えてくれるものだった。

今年、一足早くお花見ができること。それはなぜなのか、この機会に考えてみてはいかがだろうか。

※1 伊賀上野ケーブルテレビ株式会社 「芭蕉と伊賀」
「初桜折しもけふは能日なり」初桜が咲いて天気もよく、(会の発足にふさわしい)良い日である
※2 暦生活「七十二候と旬のおはなし」
※3 暦生活「七十二候と旬のおはなし」
※4 日本気象協会「2023年桜開花予想(第6回)全国 14 地点で過去最早、最早タイの開花 東北以北でも記録的な早期開花の見込み」
※5 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「これまでの気候変動影響(国民生活・都市生活分野)」
※6 地球温暖化で桜の開花に異変!?日本列島でいっせいに開花も?
※7 Extreme weather: What is it and how is it connected to climate change?
※8 気象庁「気候変動」
※9 IPCC 第 6 次評価報告書第 1 作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)暫定訳(2022 年 12 月 22 日版)
※10 The Atlas of Mortality and Economic Losses from Weather, Climate and Water Extremes (1970–2019)
※11 日本財団ジャーナル「2022年に世界で起きた異常気象を振り返る。原因は地球温暖化?私たちの暮らしにある?」
※12 気象庁「2022 年(令和 4 年)の世界の主な異常気象・気象災害(速報)」

【参照サイト】 French TV transforms weather forecasts to include climate change context
【参照サイト】 Les bulletins météo sur France 2 et France 3 évoluent pour mieux expliquer le changement climatique

(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:フランスの天気予報、「明日の雨の理由」を気候変動の観点から解説へ

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