「ChatGPT」を活用して課題解決能力を育む、ベネッセ発“プログラミング人材”育成現場の今

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対話型AI「ChatGPT」が話題を集める今、AI技術と共存し、うまく活用できる人材が広く求められる未来が目の前まで来ている。プログラミング教育は2020年に小学校で導入されたことを皮切りに、中学・高校と必修化され、2024年には「情報Ⅰ」として大学入試科目に加わる予定だ。プログラミングは、誰もが当たり前にその基礎を習得する時代へとシフトしている。

しかし、日本のプログラミング人材の活躍の場は、諸外国に比べIT産業に集中している(※1)。プログラミングは課題解決を担うものだが、スキルを持つ者がさまざまな産業に従事していなければ、社会全体でイノベーティブな解決法が生まれづらい状況が続いてしまう。そのため、今後は幅広い分野で活躍できる人材を育てると同時に、日々進化し続ける技術に対応できる世界水準の教育が求められている。

こうしたプログラミング人材の一極集中の改善と最先端の教育が望まれる中、ベネッセが運営するオンラインならいごと「チャレンジスクール」では、中高生向けにプログラミング講座を開講。その活動の一環として、プログラミングを学ぶ中学生が1日でAIアプリの開発を行うイベントを2023年3月18日に開催した。

AMPでは、このITの未来を担う若者の学びの場に密着。AI 技術との向き合い方、これらのプログラミング教育に必要な視点、そして子どもたちの創意工夫を育てるには何が必要なのか——。本イベントの企画担当者へのインタビューを交え、プログラミング人材育成現場の最前線から学んでいく。

「ChatGPT」の台頭で急がれる日本のIT教育の転換

「チャレンジスクール」ではプログラミングのほか、そろばん、習字、ダンス、アート、デジタルクリエイター、探究学習(※)のオンライン講座を設けている。“楽しく学べること”を大切にし、それぞれを専門とする一流のパートナー企業と協業してカリキュラムを開発。子どもを送迎する負担のないオンライン講座で、全国どこからでも受講が可能だ。中でもプログラミング講座は、これからの時代に求められるITスキルを養えることから注目を集めている。

※デジタルクリエイターと⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠探究学習は2023年4月開講

ベネッセの幼児から小学生・中学生・高校生向けのオンラインならいごと「チャレンジスクール

今回のイベントは、株式会社ベネッセコーポレーションが主体となり開催。 同社のチャレンジスクール開発部清水雄樹氏が旗振り役を務め、ノーコードに特化したオンラインサロン「NoCodeCamp」を運営する合同会社NoCodeCampと、職業訓練校に認定されているオンラインスクール「デイトラ」を運営する株式会社デイトラの協力の下に実施された。開催に際し、清水氏は次のようにコメントを寄せている。

「ChatGPTのようなサービスの登場によりAIが読み書きやそろばんのようになるならば、子どもたちへ教育機会を提供することは急務です。技術を活用して課題解決をする面白さを知ることで、未来のイノベーションが生まれると考えています。そして今、日本のIT教育の転換点に立っていると感じ、このイベントをきっかけに新技術を積極的に活用していくムーブメントを起こしたくイベントの開催を決めました」

ベネッセコーポレーション 校外学習カンパニー戦略本部 チャレンジスクール開発部清水雄樹氏

ChatGPTがリリースされたのは2022年11月のこと。それからわずか5カ月ほどでChatGPTを用いたAIアプリ開発イベントを行った背景には、次世代を担う子どもたちにはいち早く最新の学びを提供したいという「チャレンジスクール」の思いが込められている。

また、清水氏いわく、日本のIT教育は指導者不足であることは否めない(※2)という。プログラミングが必修化されたことで国民全体のITリテラシーが高まることが期待できるが、指導者不足が構造的課題として浮かび上がる。そこにAI技術が加わるとなると、さらに指導者は少ない状況だ。

「チャレンジスクール」のプログラミング講座では第一線で活躍している企業・人材と協業し、カリキュラムの開発と指導に当たっている。学校には誰もが学べるメリットがある一方、学校以外での学びの場がないと、より学びを深めたい子どもたちの気持ちに応えられない。IT教育に限らず積極的に学びの機会を生んでいくことが「チャレンジスクール」のミッションだ。

「ノーコード」から始める新時代のプログラミング学習

イベントにはプログラミングを学び始めて半年ほどの中学生が参加。イベント冒頭、AIとはどういったものなのか、架空の存在ではあるがマンガに登場するようなロボットがAI であることや、音声アシスタントやお掃除ロボットなどにAI技術が組み込まれていることなど、身近な例が受講生たちに向けて説明された。そして、インターネットで検索するのが当たり前の世の中になったように、AIに質問をするのが当たり前の未来がやって来ることや、AIは課題を解決するのに役立つものであるとの共通認識を持った上で、AIアプリの開発が進められた。

プログラミングといえば、コード(プログラミング言語)を書いてゼロから構築していくものを想像するが、「チャレンジスクール」では直感的な操作で作成できるノーコードツールを教材として取り入れている。

イベントの前半では、AIとノーコードツールをつなげる事前準備が行われた

清水氏は「プログラミング言語でアプリ開発や、AI活用ができるようになるには長い時間を要します。子どもたちの学びに大切なのは成功体験です。まずは作ったものが動いた瞬間や作ったものを友人と共有する時間を楽しむことが必要だと考えます。そして、学びを深めたくなったときにプログラミング言語にたどり着く。そのようなステップを生み出すためには、ノーコードから始めるプログラミング学習が最適です」と、ノーコードを採用する理由を明かした。

「チャレンジスクール」の教材として使用されたのは、NoCode Japan株式会社が提供するノーコードのアプリ開発ツール「Click(クリック)」だ。カスタマイズ可能な機能やテンプレートを利用して、簡単にアプリを作ることができる。受講生たちはChatGPTを用い、それぞれが自ら考えた課題を解決できるAIアプリを開発した。

まずはソフトウエアを連携できるAPIを使用し、ClickとChatGPTをつなげることからスタート。その後、おのおのが作りたい内容を組み込んでいく流れだ。初期設定から個別の開発、そして最後の発表までを1日で終えるカリキュラムである。

「これまでは、それなりにプログラミングを学んできた人でなければ、技術を活用して実生活の課題解決を経験することが難しい状況がありました。しかし、ノーコードから始めるプログラミング学習は、プログラミング教育の課題を根本から解決できる可能性があります」と清水氏は語る。

イベント前半、受講生たちは講師のサポートを受けながらChatGPTのAPI連携方法を学んでいった

成功体験を子どもたちに。学びや遊びを広げるAIの可能性

講師のサポートの下、皆が集中力を切らすことなく開発作業に没頭していた様子が印象的だ。イベントの後半では、初期設定を済ませたAIアプリを誰もが使えるものへと実装していく。対話型のChatGPTが使用されるため「質問の入力→答えを表示」が前提となる。鍵になるのは「何を質問したいか?」だ。そこに課題解決能力を養う学びがある。

AIアプリをどのような見え方にするか、自らレイアウトを考える受講生

イベントの最後には、一人ずつ開発したAIアプリの発表を行った。

4月に中学2年生となるシズナさんが開発したのは、単語や文章を入力すると正しい敬語に直してくれるAIアプリ「美しい敬語を使おう」だ。丁寧語・尊敬語・謙譲語と三つのカテゴリに分ける工夫も見られ、日本の文化を表現したいことからアプリのトップ画面には和風のデザインを施した。履歴機能や削除機能も実装されている。シズナさんは、中学に進学して敬語を使う場面が増えてきたことから、このアプリの開発を思いついたという。

シズナさんが作成したAIアプリ。丁寧語・尊敬語・謙譲語の3種類の敬語を回答するアプリを作り上げた

そのほか、年号と国名を入れるだけでその年の時事が表示される「ちゃちゃっとHISTORY」や、文章を添削してくれる「添サクッ」、答えからクイズの問題を生成する「クイズ作成アプリ」が完成した。それぞれに苦手とする学習課題の解決や、友人との交流の場を充実させたいといった思いが反映されたAIアプリである。

そのほか、参加した受講生それぞれが興味関心を持つテーマでAIアプリ開発を進めた。キーワードを入れるだけで簡単にクイズが作成できるアプリや、歴史を手軽に調べられるアプリ、添削ができるアプリなどさまざまなアイデアが形となった。

正しい答えを導き出すためにプロンプト(AIへの指示)の入力を工夫したほか、ネーミングやデザインといった見せ方を考えたり、時間内にアプリを完成させるタイムマネジメントを実践したりと、技術を活用して課題解決をする上で多くの学びがあるイベントとなった。

講師陣は「履歴や削除、ログイン画面など、必要と思った機能を自分でどんどん実装していったのが素晴らしい」「大人と変わらないほど創意工夫ができることに驚いた」と評価。普段からさまざまなIT技術に触れているデジタルネイティブである受講生の吸収力は、私たちの想像を超えるものである。

イベントの最後は一人ずつ開発したAIアプリについて発表し、講師からの評価やアドバイスをもらった

受講生からは「まだ足りない。もっと作り込みたい」「みんなと一緒に使いたい」といった意欲的な感想が語られたほか、「具体的に質問しないと正しい答えが返ってこない」と、現在のAIの特徴を捉えた発言もあり、短い時間の中でAIへのリテラシーが育まれたことがうかがえた。

付き添っていた親御さんからは「実際にどんなことを学んでいるか知らなかったが、最先端のことを学んでいて驚いた」「興味があることには積極的な姿勢を見せていることがうれしかった」といった、子どもたちの成長を喜ぶ声が上がっている。

ベネッセが見据える、プログラミング人材育成の未来

プログラミングを学ぶことのメリットは、課題解決を担う手段や選択肢を手に入れられることだ。しかし、技術を習得する場はあっても、課題解決の方法を学べる場が少ないのではないかと清水氏は指摘する。だからこそ、今回のイベントのように実生活の課題解決に挑む学びの場が必要となる。

「IT領域が課題解決に寄与できることはたくさんあるでしょう。しかし、最新技術に対する知識がなければ、ITを活用した課題解決案が生まれることはありません。そうした中、ChatGPTやノーコードツールは、誰もが使える魔法の道具です。コンピューターに指示を出して、日常を便利にしたり課題を解決したりする。ただ単にプログラミングの知識を積み重ねるのではなく、その先にある『どのように使って何を解決していくのか』を考えることを学びの目的にしなければなりません。

また、インターネット上にうその情報があるように、AIも完璧ではなくリスクがあります。子どもたちに必要なのは使い方を学ぶこと、そして、出された答えに対して『本当に正しい情報なのか?』と疑うリテラシーを育むことです。

そして、私たちはプログラミングの領域で子どもたちが楽しいと思う瞬間は何なのか、必要な成功体験は何なのかを考え続けています。今後も子どもたちが“夢中になれる”こだわりのカリキュラムを組んでいきたいです」

ベネッセでは“よく生きる”を企業理念に掲げているが、最後に「チャレンジスクール」では子どもたちの“よく生きる”をどのように支援していきたいと考えているのかを伺う。

「AI技術と共存していく社会において、技術を活用して課題解決をする力を子どもたちに育むことは、子どもたちの将来の“よく生きる”につながっていくと考えています。また、進研ゼミは子どもたちの『楽しい』『できた』を引き出すことで、学ぶことの面白さを感じていただくサービスです。

チャレンジスクールは教科学習にとらわれない多様な習い事において『楽しい』『できた』と感じていただける体験を届けることで、子どもたちの個性や能力を引き出し、“よく生きる”を支援していきたいです」

インターネットの活用が当たり前の世の中になったように、黎明期にある情報や技術でも、子どもたちが大人になる頃には日常生活や仕事で当然のように使われているかもしれない。そのため、子どもたちには技術を活用して課題解決をする楽しさやその経験を知ってもらうことが大切だ。それが子どもたちの“よく生きる”を体現する社会の一助となるだろう。

【参考リンク】
※1:IT人材が従事する産業(内閣府)
※2:「情報1」の教員不足 国が都道府県などに改善計画の提出求める|NHK|教育

取材・文:安海まりこ
写真:西村克也

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