世界で急速なデジタル化が進み、社会・経済の重要なインフラになっている。昨年6月にはデジタル庁による「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定され、その機運は社会全体としてさらに高まっている。
しかしスイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2022」では、日本は63カ国中29位と過去最低の順位になっており、さらに同ランキングの評価指標である「企業の意思決定でのビッグデータ」など4つの個別スコアでは、最下位の63位に位置づけられてしまった。他国と比較して、日本のデジタル化は遅れをとっているのが実態だ。
近年では急速に人口知能(以下、AI)を活用できる分野、領域は広がり、クラウドの普及によってサービスの急成長にも柔軟に対応することが可能になった。日本企業もこれらの技術を最大限に活用し、ビジネスを加速させる必要に迫られている。
そしてこのような状況を打破するべく日本企業のデジタル化をサポートするのが、ソニービズネットワークスである。同社は法人向けICTソリューション「NURO Biz」を軸に、ネットワーク、クラウド、AIサービスなどの導入、構築、運用までの支援など、ビジネスに不可欠なIT全般のソリューションを提供している。
今回、同社代表取締役社長である小笠原康貴氏と、開発本部本部長 平山智史氏へのインタビューから日本企業のデジタル化を進めていくために必要なこととは何か。その問いへの答えを探っていく。
日本企業が直面するデジタル化への「壁」
なぜ今、日本のデジタル化は進んでいないのか。要因は複数あるが、そのうちの一つとして、日本企業の新しい技術に対しての保守的な姿勢が挙げられるのではないだろうか。日米企業のDXに関する調査となる「2020年 JEITA/IDC Japan調査」によると、米国企業の経営層は50%以上がDXに積極的に関与しているが、日本企業は40%以下ほどしか関与していないそうだ。
この情報と関連するものとして、小笠原氏は日本と海外でのIT技術を導入する目的の違いについて述べた。
小笠原氏「アメリカなどでは事業やビジネスの戦略のためITに投資する、という目的が多いのですが、日本の場合、どちらかというとコストダウンや、業務効率化のためにデジタル化を推進する傾向が強いです。
AIの活用方法をとっても、日本は業務効率化が目的なら比較的導入します。しかしAIの使い方はそれだけではなく、本来ヒトが見つけられなかった手法や、新しいビジネスを創出するために活用するものです。そして日本ではまだこういった活用のための導入は、なかなか進んでいないように感じます」
またこのように技術の活用方法に違いが生まれる要因の一つとして、小笠原氏は事業会社のIT人材の不足している点を挙げた。
小笠原氏「日本企業内のIT人材は比較的“情シス”のようなポジションにしかおらず、ビジネスを推進するポジションには圧倒的に少ないです。海外の場合、事業を進めている部署にもITスキルの高い人がいるので、その点が大きな違いとしてあります」
小笠原氏が言うように、昨今では企業でのIT人材の内製化の重要度が上がっているが、IT人材の確保は難しいのが実情である。「DX白書2023」によると、日本の事業会社1046社の7割強が、IT人材の「量」「質」それぞれに対して不足していると回答している。また、小笠原氏はデジタル化が遅れていることへの、企業の危機感についても語った。
小笠原氏「それこそ1970年~90年代の物がない時代は、たくさん物を作ることで日本企業が成長して、給与が上がる、というのは普通のことでした。しかし今はもう物が十分に満たされた時代です。そのため昔の時代の成長と同じように成長する、という考え方はもう合っていません。物でこれだけ満たされているので、物ではない世界にいかなければいけないのですが、そこに対して企業は危機感が足りていないように感じます」
デジタル化を加速させるための「存在意義」
時代の急速な変化から、企業はITを活用して新たなビジネスを創出することが必要とされている。そのような状況の中、ソニービズネットワークスはどのようにソリューションを提供しているのか。平山氏はデジタル化を進めたい企業の、その裏にある背景の理解を深めることの重要性を述べた。
平山氏「お客様はクラウドサービスであるAWSやAIを導入すること自体が目的ではなく、導入の背景にある、課題を解決するために検討しています。そのためわれわれはすぐにお客様が求めるサービスを提供するのではなく、背景や課題について一緒に話し、考えることから始めます。
一緒に検討を重ねた結果、提供するものがお客様の求めていたものになることもあれば、われわれが提供するサービスではなくなることもあります。しかし目的の中身をしっかりと把握して、お互い最適解に気付くことができれば、お客様だけではたどり着けなかった、新しいソリューションへアプローチできます」
またデジタル推進する上でのソニービズネットワークスの強みとして、企業にシステムだけを提供するのではなく、自走できる状態になるまで、「アクセラレーター(※)」のような存在として持続的にサポートしている点を両氏は挙げた。
※当記事におけるアクセラレーターは「事業を促進させる支援者」を指す。
小笠原氏「弊社はお客様の課題を解決するためのシステムを導入して終わり、という形のビジネスではありません。それではお客様自身で次の課題に立ち向かっていくことができない。お客様が実際に提供されたサービスやツールを利用し、理解してもらう。そして自身で次に何をするのがいいか気付き、自走していくスパイラルをつくることが重要です。
お客様が利用しやすいサービスやツールを提供し、そして成長をサポートしていく。また、型にはめて納品するということは行いません。今は昔よりも企業寿命や商品寿命が短くなっています。そのため短い寿命を使って新しくシステムを開発するのではなく、お客様をサポートしながら、最適な既存のサービスを組み合わせて提供することで、アクセラレーターのような存在として、企業のデジタル化をサポートしています」
平山氏「新しくクラウドサービスやAIのサービスを入れた後、それによって企業のビジネスを変革していくにはスピード感を持って、お客様自身が対応できるようになる必要があります。やはりお客様自身が実際に触っていかないと分からない部分もあると思います」
またIT人材の採用が難しい現状の打開策として、小笠原氏はITの専門知識がない人でも手に取りやすいサービスを提供し、徐々に企業全体のITスキルを底上げしていくことの重要性を述べた。
小笠原氏「今高度な専門性を持ったITエンジニアは引く手あまたのため、どの企業もなかなか採用ができない。そのためある程度は自分たちで実装し、ITを事業に組み込んでいくことが必要になるので、企業全体のITのスキルセットを上げていくことが求められています。
そこでわれわれは初めての技術に触れる人が簡単に利用できるサービスを提供するようにしています。例えばクラウドではAWSを導入する企業が簡単に利用できるよう、 AWSの導入、運用支援から運用管理、自動化ツールであるクラウドポータルなどを提供する“マネージドクラウド with AWS”というサービスを提供しています。また、AIの予測分析ツールである“Prediction One Biz”も、Excelのように簡単に使用できるように開発しています。新しい技術を導入して利用していく時に、いきなり高度なものを要求しても難しいと思うので、まずは使い始めることができるよう、触りやすいサービスやツールを提供することを大切にしています」
ソニービズネットワークスだからこそ実現できる包括的な支援
求められたサービスやツールを提供して終わるのではなく、次の課題を自身で解決できるよう、企業が自走できるまでの過程もサポートする。またITの専門知識がなくても、簡単に利用できるソリューションを提供し、だんだんとITへの理解を深めてもらう。ソニービズネットワークスはこのように企業のアクセラレーターとして着実にビジネスの土台となるデジタルインフラの整備を推進している。
では、具体的にどのようなITソリューションを提供した事例があるのか。平山氏は近年の自社でのITソリューション提供状況について言及した。
平山氏「われわれのビジネスの中心である高速光回線通信「NURO Biz(ニューロ・ビズ)」は、ここ2〜3年のコロナ禍でのテレワーク実施率の増加もあり、さらに需要が高まっています。そして、お客様の回線が増速し安定化されるとオンプレ(オンプレミスの略称。自社でサーバーの所有や運用を行うこと)にあるサーバーやシステムのクラウド化も進みます。弊社のAWSのマネージドサービスである“マネージドクラウド with AWS”は、初めてクラウドサービスを導入するお客様でも簡単に運用自動化を実現し、セルフ運用ができる機能として提供しており、現在幅広いお客様に利用してもらっています」
またデジタル化を進める上で大きな障害となる、情報漏えいなどのセキュリティリスクへの対策に関しても、ソニービズネットワークスには確かな技術と実績があると小笠原氏は語る。
小笠原氏「弊社はセキュリティエンジニアリングの技術の高さから、国内の企業でも数社しか取得できていない“AWSセキュリティコンピテンシー”の認定を取得しています。ITの知識がそこまでない人が “マネージドクラウド with AWS” を安心して利用できるよう、セキュリティについては、事業として最優先で取り組んでおり、しっかりとしたサポート体制を整えています」
平山氏「弊社からセキュリティ系のパッケージやクラウドポータルを提供する上で、セキュリティについて説明をしても、最初お客様にとっては分からないことが多いです。確かにクラウドの場合、オンプレと違い外部のどこからでもアクセスできるような環境ではあるのですが、逆にオンプレよりもセキュリティを高く保てる仕組みはあります。
その仕組みについてもわれわれがしっかり説明することで、セキュリティの必要性を認識してもらい、一緒に理解を深めていきたいです」
さらにAIでの予測分析を可能にした「Prediction One Biz」も導入する分野の幅を広げている。最近では東京都立大島海洋国際高校の生徒が、就航予測をするために「Prediction One Biz」を利用しているという。
平山氏「大島海洋国際高校ではAIを使える人材を育成したいという意向があったのですが、生徒の方たちはプログラミングの知識がありませんでした。そこでプログラミングをしなくても簡単に使えるAIのツールとして“Prediction One Biz”を導入されました。
生徒たちは大島の地域活性のため、旅行者が旅行計画を立てやすくする目的で船の就航予測などを“Prediction One Biz” で出していたのですが、過去1年分のデータを集めて実施してみたところ、かなり高い精度が出たそうです。今では生徒たちが地域活性のために、就航予測の結果をTwitterに投稿しています。若い生徒たちが予測分析に挑戦し、また活用もしている良い事例だと思います」
上記の事例で紹介されたサービスの他にも、ソニービズネットワークスでは使いやすさが特徴的なクラウド勤怠管理システム「AKASHI」や、体温や体調の報告機能により社員のコンディションを管理、把握できるクラウド型勤務支援ツール「somu-lier tool」などを提供している。
デジタル化への入口を広げるために、幅広いサポートを
急速にデジタル化が進んでいる現代では、日本企業もデジタル技術を活用した新たなビジネスを創出する必要に迫られている。しかし、どのようにビジネスを変革すれば良いのだろうか。こうした変革を実現するためには、外部から寄り添い、ソリューションを提供するソニービズネットワークスのような企業の存在が重要である。
今後の日本のデジタル化への展望として、平山氏は今注目を集めるAIの活用の幅を広げるため、必要とされるデータ管理、前処理の作業について、展望を語った。
平山氏「デジタル化へのアプローチとして、われわれはクラウドサービスやAIなどの簡単に利用できるサービスを提供するところから始めています。しかし予測分析を行う“Prediction One Biz”を導入する上で、必要となるデータ管理、前処理(分析に使用するデータを整え加工すること)の作業の段階ではまだ課題があると感じています。
データ管理をどのように行うのが最適なのか。また管理した上でそれらデータを分析や解析に使用するには、前処理という作業を行う必要があります。データ管理をカタログ管理して使いやすくしたり、前処理の作業を今よりももっと簡単に行ったりすることができれば、企業の中にあるさまざまなデータを分析に活用することができます。
そうすれば現場の人たちがより簡単に分析を実施することが可能になると思います。今後もっとデータ管理や前処理の部分をサポートできるサービスをつくっていきたいです」
また小笠原氏は、日本企業がIT技術を活用することが自然な状態になること、また技術の進化に伴い必要となる、活用する技術の切り替えもサポートしていきたいという。
小笠原氏「今後もこれまでお伝えしていたように、私たちが企業のデジタル化をサポートしていきながら、企業自身がITの理解を深めていくことが重要だと思います。
どんな企業やビジネスでもIT技術やAIを活用することによって成長する要素が必ずあります。例えば金属加工の会社が、ある課題を解決するために金属加工のスキルを磨いていたとして、そこにAIのソリューションを提供した場合、すぐにその課題が解決した、ということは起こり得ると思います。そういった変革が起こせるように私たちがサポートし、新たな気付きを生み出していきたいです。
日本が海外の先進的なエンジニアと戦えるよう、スキルセットを磨いていくのはもちろん大切ですが、私たちはまず日本企業の文化や風土として、IT技術を活用することが当たり前な状態になっていくことをサポートしたいです。またその時の企業の課題解決に必要な技術は何なのか、今投資するべきはプログラミングやサーバーではなく、AIではないかなど、適切な方向にスイッチしていける知識の支援もしていきたいです」
現代に必要とされる、新たなビジネスを創出するためにも、日本企業はデジタル化に向けた対応が求められている。そしてこのような時代にこそ、ネットワークからAIまで幅広くITソリューションを提供し、企業をサポートするソニービズネットワークスのような存在が必要とされている。今後、同社がどのように日本企業のデジタル化に貢献していくのか注目していきたい。
取材・文:片倉夏実
写真:水戸孝造