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急騰した2月のNFT市場と論争の火種
クリプトの冬といわれる状況下、NFT市場も低迷を続けていたが、2023年2月の取引高が前月比で117%上昇したことが明らかになった。
DappRaderのデータによると、NFT市場の1月の取引高は、9億4100万ドルと10億ドルを下回っていたが、2月には20億4000万ドルと2倍以上に急騰したのだ。昨年のステープルコインの暴落以来で、最高値を更新した形となる。
2月の取引高急騰に寄与したのが2022年10月に登場したばかりの新興NFTマーケットプレイスBlurだ。これまで市場シェアトップを誇っていたOpenSea(2017年ローンチ)の取引高を超え、一気にトップに躍り出た存在として注目を集めている。Blurの2月の取引高は11億3000万ドルと市場全体の半分以上を占める。
このBlurの台頭で、NFT市場では新たな論争が巻き起こりつつある。
それは、NFTの価格操作を目的に行われる仮想取引(wash trade)の定義についてだ。
仮想取引とは、同一のウォレット、または個人・グループが所有する複数のウォレット間でNFTを売買し、あたかもNFTが活発に取り引きされている状況を作り出し、他の購入者を引きつける行為を指す。仮想取引では通常、高い値段が設定されるため、それに伴いマーケットプレイスの取引高も高くなる。市場を操作する行為であり、オーガニックな取引ではないことから、一部のデータプラットフォームでは、仮想取引と疑われる行為がある場合、その取引高を全体の取引高から除外するケースも出ているのだ。
問題は、市場プレイヤーの間で仮想取引に関する全会一致の定義が定められておらず、混乱が生じていることだ。データプラットフォームごとに、同じ取引でも、通常取引として取引高に含めるところと仮想取引として取引高から除外するところが混在する状況となっている。
BlurにおけるNFT取引の多くを仮想取引として、取引高データから除外したのが主要データプラットフォームの1つCryptoSlamだ。
同社は2023年2月24日、Blurでの「市場操作の疑い」があるとして、5億7700万ドル分の取引高を除外する方針を発表した。
またDecryptoが報じたところでは、2月27日時点でこの額は8億2400万ドルに増加。これらは、Blurでの取引高が急騰するきっかけとなったBLURトークンのエアドロップが実施された2023年2月14日以降の取引高となる。この期間のBlurにおける総取引高は10億2000万ドル。実に80%以上が仮想取引とみなされた格好だ。
なおCryptoSlamでは、Blurがローンチされた2022年10月からの累計データはまだまとめられていないという。
一方2月14~27日の同期間、OpenSeaでは2億4600万ドルの取引高を記録したが、このうち仮想取引とみなされたのは660万ドル相当と、全体の2.5%にとどまる。
CryptoSlamがBlurの取引のほとんどを仮想取引とみなした一方、DappRadeは現在のところ、Blurにおける取引を仮想取引と分類しない方針を明らかにしている。
DappRaderのリサーチ部門トップ、ペドロ・ヘレラ氏はDecryptoの取材で、Blurにおける入札ロジックが、DappRaderが定める仮想取引のロジックとは異なると指摘。その上で、現在Blurの取引データを分析しているが、仮想取引としてフラグを立てることはないだろうと述べている。
変化する仮想取引の定義
DappRaderのほかにも、Blurの取引の大半を仮想取引ではなく適切(legit)な取引として取引高に含めるデータプラットフォームがある。
web3データアナリストHildobby氏がまとめた、Duneプラットフォームだ。
同プラットフォームの評価軸で見ると、2022年10月のローンチから2023年2月27日までのBlurにおける仮想取引高は、3億4500万ドルとなり、総取引高に占める仮想取引の割合は14%にとどまる。
Duneプラットフォームでは、仮想取引を構成する4つの要素を定義している。
1つ目は、NFTの購入者と販売者が同一のウォレットを使用している場合。2つ目は、複数のウォレット間で、同一のNFTが売買されている場合。3つ目は、1つのウォレットが同一のNFTを3回以上購入している場合。そして4つ目が、購入者と販売者のウォレットが、同じウォレットから資金を供給されている場合だ。
この定義でBlurとOpenSeaにおける2023年3月1日の日次取引高を見ると、Blurが5330万ドル、OpenSeaが1261万ドルとなり、仮想取引を差し引いた額でもBlurの取引高がOpenSeaを大きく上回ることになる。
他のプラットフォームでは、Blurの取引の大半が適切なものとされる一方、CryptoSlamではなぜ取引のほとんどが仮想取引とみなされるのか。
CryptoSlamの共同創業者、ランディー・ワシンガーCEOがDecryptoに語ったところでは、以前CryptoSlamの仮想取引を定義付ける要件は、Duneプラットフォームとほぼ同じだったが、現在新しい種類の仮想取引を選別するために、定義の範囲を拡張したという。定義が拡張されたため、これまでの条件では仮想取引とはならなかった取引も仮想取引とみなされるようになった。
定義が拡張されたことで、NFT資産のステータスを考慮せず、NFTトレーディングプールに流動性をもたらしているトレーダーの取引が新たな仮想取引として分類されるようになった。つまりは、特定のNFTコレクションに限定した取引ではなく、最近取引されたNFTと「実質的に同一」の資産、または同様のリスクプロファイルを持つ資産を取引している場合、仮想取引と分類されるのだ。
濃厚になるアマゾンのNFT参入、続報
NFT市場の仮想取引に関する論争は始まったばかり。どのような決着を見るのか分からないが、大手企業のNFT参入の憶測が相次いでおり、そうなると市場規模は必然的に拡大していくものと思われる。
2023年1月末にアマゾンのNFT参入の可能性を伝える報道が注目されたが、3月7日に新たな情報が追加された。
1月に情報筋の話として第一報を報じたBlocksworksは3月7日の記事で、アマゾンは現実世界の資産と紐付けられたNFTを購入できる仕組みを導入する計画であると伝えたのだ。この仕組みが完成次第、少なくとも米国のアマゾンプライムユーザーに新サービスの情報を配信するという。
The Big Whaleによると、新サービスのローンチ時期は4月24日の見込み。一方、Blocksworksは情報筋の話として、遅くて5月までには発表される可能性があると報じている。
時期尚早といわれるが、「クリプトの春」の到来は予想より早いのかもしれない。
文:細谷元(Livit)