ドバイに対抗するアブダビ、約2600億円規模のweb3企業誘致プログラムを開始

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アブダビのweb3企業誘致プログラム

web3投資の加速が顕著となるアラブ首長国連邦(UAE)。UAEによる国家戦略に加え、ドバイによる独自のブロックチェーン戦略やメタバース戦略などで、世界のweb3起業家や投資家を魅了している。

そんな中、UAEの首都アブダビでも2023年2月15日、20億ドル規模の企業誘致プログラム「Hub71+ Digital Asset」が開始された。このプログラムは、アブダビのスタートアップエコシステムHub71が実施するもので、その名が示す通りweb3/ブロックチェーン関連企業の誘致を推進するもの。

対象となるスタートアップは、アーリーステージからユニコーンまで。誘致された企業は、アブダビの国際金融地区にあるビル「アブダビ・グローバルマーケット」に入居することになる。

Hub71には多数のスタートアップが入居しているが、web3企業は少数となっており、この分野を大幅にテコ入れするのが狙いだ。2023年2月24日時点における、Hub71に入居するスタートアップ数は計129社。分野別では、フィンテックが最多となる35社。次いで、ヘルスケアが26社、教育が12社、モビリティが11社、Eコマースが6社と続く。クリプト/ブロックチェーン関連は、3社にとどまる

今回発表されたプログラムでは、最先端のブロックチェーンインフラの提供や現地企業・政府・投資パートナーへのアクセス、またweb3関連のリサーチ支援などにより、世界各地のweb3企業の誘致を促進する。

リサーチ支援は、同プログラムのアンカーパートナーとなるFirst Abu Dhabi Bank(FAB)のリサーチ&イノベーションセンター(FABRIC)が担うことになる。FABは、アラブ首長国連邦最大の銀行。2023年1月末に発表された2022年10〜12月期決算報告では、同期の純利益は前年同期比26%の下落となったが、通年では7%増となる36億5000万ドルに達したことが発表された

アブダビとドバイの競争

今回アブダビが発表した20億ドル規模のweb3企業誘致プログラムは、同じUAEの主要都市であるドバイとの競争関係の強まりを象徴するものといえるだろう。

これまでも金融分野などでの競争関係が報じられてきた両都市だが、web3分野でもライバル関係が顕になっている状況だ。

web3分野に関して、現状ではドバイが先行、これにアブダビがキャッチアップする構図になっていると見るのが妥当と思われる。

指標の1つとなるのがweb3スタートアップのエコシステム規模だ。

web3プラットフォームCrypto Oasis Ecosystemが2022年10月時点までのUAEにおけるweb3エコシステムの現状をレポートにまとめている。

このレポートによると、UAEには現在1400社以上のweb3関連企業が集積している。このうち、34%(約476社)がノンネイティブ、66%(約924社)がネイティブに分類される。ノンネイティブとは、web3企業ではないものの、周辺インフラ、コンサルティング、財務などでweb3関連のプロダクト/サービスを提供している企業。同レポートでは、IBMやKPMGなどが該当するとされる。一方ネイティブとは、ブロックチェーン/分散化テクノロジーをベースとする純web3企業のことを指す。

これらのweb3企業の集積度合いに関して、大きくリードしているのがドバイとなる。

現在UAEの中で、web3企業最大の集積地となっているのが、ドバイにあるDubai Multi Commodities Center(DMCC)だ。DMCCだけでweb3関連企業が489社も入居している。内訳は、ネイティブが460社、ノンネイティブが29社。UAE全土におけるネイティブweb3企業数は、約924社となるが、実にその50%がDMCCに集積していることになる。

このほかドバイでは、Dubai International Financial Center(DIFC)で84社、International Free Zone Authority(IFZA)で150社、Dubai World Trade Centerで48社と複数の集積エリアが確認されている。

一方、アブダビの最大集積地となっているのが、冒頭でも触れたアブダビ・グローバルマーケットビルだ。同レポートによると、ネイティブ32社、ノンネイティブ16社、計48社が集積している。主だった集積地はこのビルに限れており、ドバイとの差は歴然としている。

政策面でも、UAE全土を対象とした「Emirates Blockchian Strategy (エミレーツ・ブロックチェーン戦略)2021」という国家戦略が進められている一方、ドバイは独自に「Dubai Blockchain Strategy(ドバイ・ブロックチェーン戦略)」や「Dubai Metaverse Strategy(ドバイ・メタバース戦略)」を立ち上げ、web3領域における取り組み加速している。

アブダビのweb3セクター活性化で、10億ドルファンドも始動

web3領域におけるアブダビの動向としては、2023年1月に明らかとなった、10億ドル規模のweb3ファンドも注目されるところ。

これはアブダビ拠点のVenom Ventures Fundによるスタートアップ投資を促進する取り組みで、特にアブダビのweb3セクターを活性化させることが狙いとなっている

投資対象となるのは、シードフェーズの企業から、シリーズA、B、C、そしてIPOまでと幅広く、フェーズに応じて2万5000〜20万ドルの投資を見込んでいる。web3領域の中でも特に、支払い、アセットマネジメント、金融サービス、ゲームが注力分野になるという。

Chainalysisの分析では、2022年のクリプト市場で最大の成長率を記録した地域は、UAE、エジプト、トルコなどを含む中東・北アフリカ(MENA)だったことが判明した。クリプト取引量は前年同期比で48%の増加となった。UAEはこのMENA地域への玄関口となるため、参入機会をうかがう海外の企業や投資家は少なくないはず。アブダビとドバイのweb3競争は今後さらに激しくなることが予想される。

文:細谷元(Livit

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