世界最大級のクリエイティブ・カンファレンスイベント「SXSW 2023」がアメリカ・テキサス州 オースティンで開催された。SXSWはINTERACTIVE、FILM & TV、MUSICの3部門で構成され、テクノロジーを起点に新たなビジネス創出の場として注目されているイベントだ。オースティンのダウンタウン全域に渡って世界中からさまざまな企業・団体が集結し、会期中は多くの参加者で街が賑わう。特徴的なのは、新製品や新サービスを発表する場というよりは、コンセプトやプロトタイプを世界に発信して共創パートナーを募ったり、議論を交わす側面が強く、出展者は複数団体によるコラボレーションで展示をしていることも多い。

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日本からは、ダウンタウンの中心地に位置するオースティンコンベンションセンターで行われたINTERACTIVE部門の「CREATIVE INDUSTRIES EXPO」への参加が目立ち、ヤマハ、電通、日本テレビをはじめ15社以上がブースを構えて、世界に向けたプレゼンテーションを行った。

ヤマハ|「感動」を心理学的・脳科学的に解き明かすインスタレーションを展示

ヤマハ発動機と音楽のヤマハが展示している体験型インスタレーション「What revs your heart and makes waves?」は、科学とアートの融合によってヤマハが思い描く「感動」を解き明かすもの。Mark Changizi(マーク・チャンギージー)博士とカリフォルニア工科大学・下條信輔研究室との2年以上に渡る研究をベースに制作されたプロトタイプだ。人の心をワクワクさせるための要素として、身体を動かすこと、感情を強く喚起すること、そしてその感情を揺り動かして変化させることの3要素をヤマハは提案しており、このインスタレーション体験と体験後のアンケートに答えることによって、どういう理論で作られているかを体験者が知ることができる仕組みだ。

電通|「Unnamed Sensations(まだ名もなき新しい感覚)」をコンセプトに3つの感覚拡張を提案

Hugticsは、メンタルヘルス領域への新提案を行う人工筋肉が編み込まれたウェア型デバイス。ヒューマノイドロボットとハプティックインターフェース分野の研究家である髙橋宣裕氏との共同プロジェクトだ。デバイスを着た状態でトルソーを抱きしめることによって、自分のハグがデバイスを通じて自身にフィードバックされ、”自分で自分を抱きしめる”体験をすることができる。また他人からのハグも直接ではなく、デバイスを通じて間接的に受けることもでき、なんとも不思議な感覚を味わうことができる。ハグをデバイスに記録することで、遠隔地に届けたり、時間を超えて保存・再現することも可能だ。

Phantom Snackは、味覚を拡張した新しい咀嚼体験システムだ。画像認識技術によって人の顎の動きを検知することで、噛んだり咀嚼したりする様子を目の前のモニターと骨伝導イヤフォンを通じてフィードバックし、「チョコチップクッキーをバリバリと食べる」「サラダをザクザクと食べる」といった、食べていないのにまるで食べている感覚を味わうことができる。顎を動かすことで消費されるであろう想定カロリーも画面に表示することで、ギルトフリーな体験を提供する。

Transcentdanceは、ARによって匂いをエンターテインメント化するコンテンツだ。匂いは言葉で言い表すことが難しい感覚であるが、動きのあるダンスと結びつけることで、視覚情報も付加した表現に挑戦している。体験者が匂いを選ぶと、その成分をセンサーが読み取り、AIが解析した匂いの種類や成分比率に合わせて、リアルタイムでキャラクター化された匂いがAR上で自分を取り囲むように踊り出す仕組みだ。

日本テレビ|「近未来のリビングライフのプロトタイピング」を目指し、パナソニックらと共同展示

日テレ共創ラボ「Creative Living lab」がパナソニックと共同で展示しているのは「GORAKURASHI ~HOUSE KEEPING CLUB~」だ。モップがけやぞうきんがけを行うと、その動きに合わせて家具に搭載されたLEDが光り出す。日常の面倒な家事をすべて自動化するのではなく、あえて人の手で行う作業をテクノロジーでサポートすることで、家族コミュニケーション創出や関係性向上などの側面からアプローチし、家事のエンターテインメント化を目指す取り組みである。

日本企業から出展されたプロトタイプのもとへはさまざまな国から体験者が訪れ、開発者たちへのフィードバックと議論が交わされた。SXSW 2023で知らしめられた日本発のテクノロジーが、ビジネスとして世界で飛躍することに期待したい。