暗号通貨市場やNFT市場は「クリプトの冬」と呼ばれる低迷から依然として抜け出せない状況だが、暗号通貨を支える技術であるブロックチェーンへの企業による投資は今後拡大する見込みだ。
スイスを拠点とするブロックチェーン企業のCasperLabsと米国の調査会社Zogby Analyticsが今年1月12日に発表した、米・英・中を拠点とする企業のブロックチェーンに関する意識調査によると、90%近くの回答企業がすでに何らかの形でブロックチェーンをビジネスソリューションとして導入しており、87%が今後1年間にブロックチェーンに投資する予定であると答えていた。
このようなポジティブな回答が多くみられた一方で、ディベロッパーの知識が限定的であることなど、ブロックチェーン導入の障壁も示されたこのレポートをはじめとする海外の調査を参考に、2023年の企業のブロックチェーン導入センチメントを紹介する。
これまでにないビジネスソリューションをもたらすブロックチェーン
中央管理者を必要とせず、コンピュータの分散ネットワーク上で追跡可能かつ改ざん不可能な方法で保存された情報の台帳であるブロックチェーン。
ブロックチェーンはその特性から、データ漏洩やデータ改ざんからの保護、優れたコピー防止とデジタル認証の提供、システムの低コスト化への貢献、ネットワークの一部に不具合が生じた場合でもシステムを維持可能など、企業にとって有用なソリューションの数々を提供する技術として期待されている。
ビットコインなど暗号通貨の基盤技術としてのイメージが現在でも強いブロックチェーンだが、昨年10月に発表されたブロックチェーン採用分析プラットフォームBlockdataのレポートによると、6つの主要セクターの時価総額上位100社の上場企業のうち、44社が現在何らかの形でブロックチェーンを積極的に自社のビジネスに活用しており、様々な分野のビジネスで急速に導入が進んでいるテクノロジーだといえるだろう。
次々とブロックチェーンを導入する大手企業
Blockdataの調査によると、ブロックチェーンのビジネスへの活用をリードしているのは、米国や中国本土と香港に本社を置いている企業が多く、業界としてはテック、メディア、テレコム業界の企業が36%を占め、トップとなっていた。
例えば、メタはInstagramのNFTサポート、セールスフォースはユーザーがマーケティングやブランディングのためにNFTを管理できるサービスをブロックチェーンを活用して開発している最中だ。また、ベライゾンはブロックチェーンセキュリティ「Guardtime」をベースとしたプラットフォームを自社のセキュリティに活用している。
他の業界でもペイパル、ビザ、ウォルマート、マクドナルド、ナイキなどがブロックチェーンを導入。ウォルマートは、ブロックチェーンを利用して支払・受取の際の紛争や手作業を減らしている。スーパーマーケットのような身近なサービスにおいても、ブロックチェーンが存在感を示すようになっている一つの事例といえるだろう。
CasperLabsによる企業のブロックチェーン意識調査
先月発表された、スイスのブロックチェーン企業Casper Labsによる米国、英国、中国の603社の企業を対象にした調査でも、調査に参加した企業の90%近くの企業が何らかの形でブロックチェーン技術を導入していると回答していた。
ブロックチェーン導入の目的は、セキュリティ要件を満たすため(42%)、コピープロテクトを管理するため(42%)が最も多かったが、業務改善やイノベーション支援関連への活用という回答も多く、ブロックチェーンがビジネスの様々な側面で有用な技術であることを示す結果となった。
具体的には、40%が社内業務ワークフローの構築、 34%がサプライチェーンの効率化、30%がソフトウェア・アプリケーションの開発、 21%が契約管理、11%が雇用と採用にブロックチェーン技術を導入していた。
多くの企業がブロックチェーンソリューションへの投資に意欲的
この調査では、ほとんどの企業(87%)が、今後1年間にブロックチェーンに投資する予定であると答えており、このうち可能性が「特に高い(very likely)」の割合は、中国で55%、米国で48%、英国で42%と、特に中国企業でブロックチェーンソリューションへの投資に対する高い意欲が示されていた。
リセッション懸念がある昨今の情勢においても、テクノロジー予算を増やすとの回答割合が81%と高く、このようなテクノロジー予算の活用によってブロックチェーン技術の導入が進められる可能性も示唆されていた。
ブロックチェーン導入の障壁も示される
この調査では、ブロックチェーン導入の障壁として、ビジネスリーダーと開発者の両方に、ブロックチェーンに関する知識の不足が存在していることも示された。
たとえば、回答者(企業の意思決定者)の大多数がブロックチェーン技術の知識に自信を感じていると自己評価している(73%)にもかかわらず、その54%は「ブロックチェーン」と「クリプト」という言葉を相互に置き換え可能な言葉として捉えていた。
他の課題としては、ディベロッパーの専門知識が限定的であること(25%)、利用可能なツールの不足(24%)、互換性に対する懸念(20%)、ブロックチェーンに対する疑念(18%)などがあることも判明しており、今後積極的にブロックチェーンがビジネスに活用されるためには、これらの障壁を取り除くことが求められているようだ。
それでも、回答者のほぼ全員が、同業他社がどのようにブロックチェーンを活用しているかについてより理解が深まれば、自社にブロックチェーンを採用する可能性が高まると回答していた。
企業による導入がブロックチェーンのさらなる普及の推進力に
この調査を行ったCasper LabsのCTO兼共同創業者であるMedha Parlikar氏はこの調査の総括として、「新しいテクノロジーを主流にするためには、ビジネスへの導入がしばしば主要な推進力となるが、ブロックチェーンも同様だ」と述べている。
また、「このレポートから得られる最も重要な示唆は、企業、政府、ウォール街(金融)が、ブロックチェーンは現在の技術スタックを解体して置き換えるためのものではなく、既存のインフラ内でより効率的に運用するためのものであると認識していることだろう」と、2023年以降のビジネスへのブロックチェーンの活用と普及に希望を抱かせるコメントもしている。
2022年から2030年の間に、85.9%もの年平均成長率(CAGR)を達成するとの予想もなされている世界のブロックチェーン技術市場。
これから、各国のビジネスシーンにどのようなソリューションを提供してくれるのか期待が高まる。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)