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インドネシアが政府主導で暗号通貨取引所を開設すると言われており、その動向に関心が集まっている。これまでの報道によると、インドネシア政府による取引所開設の噂は過去にもあがっており、今回は1月4日のブルームバーグで報道されたものだ。
クリプト先進国のインドネシア
世界的に見ても国民の暗号通貨への関心が高く、暗号通貨先進国とも言われているインドネシア。現在国民の4.5%が暗号通貨を保有しており、その人数は1200万人と推定されている。
Coincubが発表した2022年代3四半期の報告書によると、国別ランキングで対人口比保有率は世界第9位、2021年の保有者が約730万人であったのに対して、2022年の第3四半期までの増加は約500万人とほぼ倍増、伸び率は高い。同社の見解ではインドネシアを含む極東は2023年、クリプト界における注目の市場となるとしている。
意外な印象のある暗号通貨界におけるインドネシアの存在だが、その実態と背景をあらためて振り返ってみる。
2021年7月の時点でインドネシアは478兆5000億ルピア(約4兆1800億円)の投資額に到達し、これは前年比5倍、1日あたりにして1兆7000億ルピア(約150億円)の取引がある。
また、投資識別番号の統計で同年末には735万人、2020年からほぼ90%の伸びを記録した。暗号通貨保有者の男女比はほぼ半々の51%対49%、また2020年から21年にかけて暗号通貨ユーザー数は500万人の伸びであった。年齢別では大半が18歳から44歳のグループで全体の78%。次いで45歳以上、すなわちインドネシアのミレニアル世代のアクティビティが活発であることがわかる。
インドネシア政府のスタンス
インドネシア当局が暗号通貨およびブロックチェーンの展開に寛容であることも成長の理由だ。
インドネシアでは現在、暗号通貨の取引は「先物取引所での現物商品」とみなされており、付加価値税(VAT)課税対象となっている。しかしながら通常のサービスや商品にかけられる税率が11%である一方で、暗号通貨へのVAT税率はわずか0.1%。さらに昨年新たに制定されたキャピタルゲインに対する所得も課税対象となると発表されたが税率は0.1%、これは株式によるものと同等だ。
課税こそされているが、その他の規制はまだ整備されていないのが現実。暗号通貨の取引は合法であるが、インドネシア金融サービス庁は金融機関による暗号通貨の使用とマーケティングを厳格に禁止。さらに、暗号資産による資産運用が禁止されている程度だ。
なおインドネシア領土内では法定通貨の使用が強制されているため、暗号通貨を取引決済には使用できない。つまり、売買に暗号資産は利用できないと定められている。また国内における暗号資産の取り扱いは、政府の認可を受けた会社のみに制限されている。
暗号通貨のハブを目指すインドネシア
インドネシア政府には国をアジアの暗号通貨のハブにしたいという野心がある。そのため政府主導による暗号通貨取引所開設の噂が度々登場するのだ。
この取引所の開設は、2021年末に達成する予定であったが、手続きの煩雑さに予想以上に時間がかかり2022年末へと修正、持ち越されていた。政府高官は、手続きの煩雑さとともに、政府が非常に注意深く作業を進めているからとしている。
しかしながら2度目に設定した期日もいよいよ過ぎてしまったところで、今回出てきた報道は2023年6月末までの開設というもの。政府側としては、慎重に進め法整備をしており、取引所に介入する業者の選択、次にその企業の認証、さらに最小資本の設定やカストディアンデポジトリー、技術要件について見極めていく必要があるとしている。
インドネシアの暗号資産取引所TokocryptoのCEOパン・シュウ・カイ氏は「政府主導取引所の開設により、暗号通貨セクターへの参加者が増え、機関投資家からの投資も増えると信じている」と話し、「仮想通貨は成長産業。これからますます地元のプロジェクトを目にするようになる」としている。
現在の法規定とイスラム教義の見解
インドネシアでは2022年1月、金融機関が暗号通貨の使用、マーケティング、売買手続きをすることは厳格に禁止されていると再度警告した。一方で同年9月には貿易省大臣が「インドネシア政府は中国のように暗号通貨を禁止することはない」と明言している。
インドネシアでは投機売買による暗号通貨の利用が急拡大しているのに相反して、政府の対応が何度も遅れを見せているのは、政府が本腰を入れて取りかかっているため業務量が膨大になっているからとの見方が大半、必ず実現するとみられている。
取引所の設立に先立って、インドネシアは昨年11月に暗号資産の規制、監督、監視の権限を金融庁に移管する計画を明らかにした。暗号資産は通貨ではなく商品として扱われていたため、これまでは産業省と商品先物取引監督省が監督していたもの。投資家の保護を目的とし、規制を強化していきたい考えだ。
また懸念事項となるのが、イスラム教組織の見解だ。人口の9割近くがイスラム教信者で世界最大の教徒を擁するインドネシアでは、イスラム法最高機関である「ウラマー評議会」の見識も重視される。
ウラマー評議会は、2021年11月に「仮想通貨を支払い方法として使用することは違法」としながらも「資産としての保有は合法」と発表した。これは暗号資産の価値の増減による「ギャンブル性」に注目し、イスラム協議上、許容できないものと判断されたためだ。
政府が開設を目指している取引所は、これまでの5カ所の取引所を包括するもの。国営の取引所はこれによりカストディアンとクリアリングハウスの役割を担う存在になると言われ、円滑な取引と監視役となる予定だ。このクリアリングハウスとは、売り手と買い手の仲介役で円滑な取引を行うもので、カストディアンは売り手と買い手を保護し、資産移動の管理を担う。
暗号通貨取引所及びカストディアンのGeminiの発表したレポートによると、インドネシアの暗号通貨保有者のうち64%の人が通貨保有は「インフレに備えたヘッジ」と回答している。米国での同回答者は40%であった。
クリプトウィンターに高まる期待、見えない先行き
関連法の改正と取引所開設の可能性を踏まえ、市場の期待はさらに高まっている。
またインドネシア政府が、地元発行の暗号通貨にも乗り出すという報道がある。これに課税することによって国の財政を補助するほか、ヤシ油や石炭同様「輸出」による収入も見越している(インドネシアでは通貨扱いでなく商品扱いのため)。国内で承認済み暗号通貨を培い、「価値ある商品」へと展開、同時に課税もできれば、インドネシア産の商品として世界で取引が可能になるとしている。
また、国産の暗号資産が生まれることによって、消費者、潜在的投資家、地元産暗号資産を発展させたいとするステークホルダーが外国からやって来るという試算もある。ただし、決して簡単なことではない。
また一方で仮想通貨を商品の先物取引とみなしているとしながらも金融庁の監視下に置かれることによって、まもなく暗号資産が有価証券と同じ扱いになるのでは、という見方も依然強い。これによってさまざまな規制も生まれてくることだろう。一方政府側も、規制の切り替えには2年程度かかるとみており、今の時点であれこれと推測するのはかなり難しいと専門家が分析している。
クリプトウィンターの時代で、インドネシアの暗号資産への意欲はかなり高い。キャピタルゲインへの税率が0.1%にとどまっているのも、インドネシアくらいだろう。ここに目を付けた外国人投資家の参入もありえる。この流れに乗ってインドネシア政府が優遇策をどの程度引き締めるのか、また好機を逸せずに地元産の暗号資産をどの程度現実化させて盛り上げていくのか。インドネシア政府の手腕を世界中が注視している。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)