ウェールズにあるがん治療センター(Velindre Cancer Centre)が、「英国で最もサステナブルな病院」に生まれ変わる。設計コンペティションで勝ち残った共同事業体「エイコーン・コンソーシアム(Acorn consortium)」が、2022年11月に発表した。

この病院は、人にも地球にも優しい未来のための施設となる。建物は、サーキュラーエコノミーの原則に基づき、循環し続ける低炭素でバイオベースの材料で建設される。例えば、治療室や待合室には指定木材を、内装材には石灰や粘土を使用する。これにより、患者や施設利用者の癒やしの空間づくりにも貢献することが期待される。

また、太陽光などの再生可能エネルギーを利用したオール電化を計画。冷暖房には地上・空気熱源ヒートポンプを採用。さらに、持続可能な都市排水システムも統合される。そして、将来の治療や機器の革新に容易に対応できるよう「将来世代の福利厚生法」に準拠して建設され、治療施設としての機能も強化される予定だ(※1)。

Image via White Arkitekter

医療業界のサステナブル化は、世界全体のサステナビリティの進展に直結している。なぜなら、現在、ヘルスケアは産業全体の中で環境負荷が非常に高い分野であるからだ。実際、医療業界は世界の温室効果ガス排出量の約4.5%を占めている(※2)。これは、航空業界の約2%よりも高い数値である(※3)。

また、世界経済フォーラムによると、病院は公共建築物の中で最もエネルギー集約度が高く、商業用建物の2.5倍もの温室効果ガスを排出しているという(※4)。そして世界のCO2排出量の約半分は、材料の抽出や供給、機器の製造に起因しており、医療業界は、これらの資源を大量に消費している(※5)。そのため、ヘルスケアセクターで使用されるエネルギーや材料を見直すことは、世界規模でのサステナビリティの向上に大きな意味を持つのである。

生まれ変わった病院は、庭園に囲まれ、ウェールズの自然の景観に優しく溶け込むように設計されている。果樹園や市民農園、ウォーキング・サイクリングエリアなども設けられ、施設利用者の心の健康にも配慮した、快適な空間が提供される予定だ。無機質なイメージのある「病院」を、人と地球への優しさで補完するような画期的な施設となるだろう。

この「最もサステナブルな病院」が、世界のヘルスケアにおける大きな潮流の第一歩となることを期待したい。

※1 Well-being of Future Generations (Wales) Act 2015
※2 Health Care Pollution And Public Health Damage In The United States: An Update
※3 Climate change and flying: what share of global CO2 emissions come from aviation? (航空業界の温室効果ガス排出量について:世界人口の約80%程度が飛行機を利用しないか、利用する余裕がないため、航空業界全体の温室効果ガス排出は約2%と推定されている)
※4 ‘Here’s how healthcare can reduce its carbon footprint’
※5 ‘Here’s how healthcare can reduce its carbon footprint’

【参照サイト】Acorn consortium on board to develop the new Velindre Cancer Centre
【参照サイト】White Arkitekter and Acorn team submits plans for the new Velindre Cancer Centre

(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:英国で最もサステナブルな病院が誕生へ