昨年末に始まったFTX騒動だが、2023年に入っても関連ニュースが続いている。暗号通貨市場の悪材料がまだ出るのではないかとの懸念は払拭されておらず、「クリプトの冬(Crypto Winter)」は依然続くだろうとの意見が優勢となっている。

たとえば米メディア大手Fortuneは、暗号通貨の専門家・起業家デビッド・マーカス氏がクリプトの冬は2023~2024年まで継続する可能性があると語ったと報じている。マーカス氏は、フェイスブックがかつて開発していた暗号通貨Diemの共同開発者であり、現在は暗号通貨スタートアップLightsparkの共同創業者兼CEOを務める人物。

しかし、一部では「クリプトの雪解け(Crypto Thaw)」が始まりつつあるのではないかとの声も出始めており、暗号通貨市場の動向に対する見方は大きく分かれ始めている

クリプトの冬を象徴する暗号通貨企業の破綻とレイオフ

クリプトの冬は簡単に終わらないだろうという意見の背景には、暗号通貨企業における一連の破綻やレイオフがある。

暗号通貨企業の破綻とレイオフは、2022年通年に渡り散見されてきたが、その動きが顕著になったのは、FTXが破綻した2022年11月以降だ。

2022年11月だけでもFTXと深いつながりのある暗号通貨企業BlockFiの破綻が取り沙汰されたほか、Line傘下の暗号通貨取引所Bitfrontが閉鎖を発表、また取引所大手のKrakenが30%に相当する1100人をレイオフすることを公表するなど主要企業の破綻とレイオフが相次いだ。

この勢いは収まらず、翌月12月には暗号通貨取引所Bybitが人員の30%をレイオフ、2023年1月にはFTXの姉妹企業アラメダを顧客としていたGenesisが30%に相当する60人をレイオフ、このほか中国暗号通貨取引所大手Houbiが20%に相当する275人をレイオフしている

また直近では、2023年1月10日に暗号通貨取引所大手Coinbaseが20%に相当する950人をレイオフすることが報じられたほか、1月13日には同業のCryto.comが人員の20%をレイオフする可能性を明らかにするなど、FTX破綻に端を発する連鎖は止まらない状況となっている。

競合がレイオフする中、最大手バイナンスは大幅増員へ

多くの暗号通貨企業がクリプトの冬を乗り切るためレイオフに踏み切る中、大幅増員を計画する企業も存在する。

暗号通貨取引所最大手のバイナンスだ。

2023年1月11日の報道によると、バイナンスのチャンポン・ジャオCEOは、スイスで開催されたCrypto Finance Conferenceにて、2023年中に人員を15~30%増やす計画を明らかにした。

暗号通貨市場における次の強気市場の到来に向け、社内の体制を強化することが人員増の理由という。バイナンスは昨年も大幅な人員増を実施し、社員数は3000人から8000人近くまで拡大したところ。

各暗号通貨取引所における1日あたりの取引量は、2023年1月27日時点で、バイナンスが188億ドルと2位のUpbitの41億ドルを4倍以上上回り、圧倒的な差でシェアトップを維持している。バイナンスの人員増が他の取引所にも波及するのかどうかが注目されるところだ。

強気姿勢のアナリスト、アドバイザーの声

クリプトの冬はこの先も続くとの見解が優勢であるが、強気市場の到来を予想する市場関係者は少なくない。

ロイター通信は2022年12月12日に、強気予測を展開する暗号通貨市場アナリストらの声を伝えている。

VanEckのデジタルアセット部門責任者マシュー・シーゲル氏は、ビットコインは依然1万~1万2000ドルをテストする可能性が残るものの、2023年下半期には3万ドルに到達との予想を展開。

また、他の大手金融機関のアナリストらも、FTX破綻により暗号通貨市場の不備が露呈されたことで、透明性の改善や必要な規制の導入が進み健全なエコシステムが確立されることになり、最終的には市場は上向くだろうと指摘している。

アナリストだけでなく、実際に資産運用に携わるファイナンシャル・アドバイザーらの間でも、強気の姿勢が見られる。

Bitwiseが2023年1月に発表したファイナンシャル・アドバイザーを対象にした意識調査によると、顧客ポートフォリオに暗号通貨を含めるアドバイザーのうち、2023年中に暗号通貨への投資を維持または増やす計画があると答えた割合は80%に上ったのだ。

また顧客から暗号通貨に関する質問が来るようになったとの割合は90%と、顧客の間で関心が高まっていることが示された。

アドバイザーらの63%は、2023年中にビットコイン価格はさらに下落する可能性があると回答。一方、ほぼ同じ割合(約60%)が5年後の価格は今より高くなると予想していることが明らかとなった。

暗号通貨市場は、web3やメタバースと密接に関わる領域。クリプトの冬の終焉や暗号通貨市場の安定は、web3やメタバースにおける発展・普及にかかっているといえるだろう。

文:細谷元(Livit