高層ビル群を背景に浮かび上がるように現れる湖。豊かな水を湛えた水面には、こんもりと茂った樹々が浮かんでいる。
ここは中国東中部の南昌市にある南昌市魚尾公園。敷地の広さは約51ヘクタール、東京ドーム約10個分だ。ちょっとした夢を見ているような不思議な風景だが、実在する都会のオアシスとして、地元の人たちの憩いの場になっている。
そんな場所が、2017年に再開発されることになった。中国の建築会社Turenscapeは自治体と協力し、ここを新地区全体の開発の場として利用できる場所にしようと決めたのだ。
再開発のポイントは、汚染物質の処理、洪水対策、レクリエーション機能の三点。まず、石炭灰は、「チナンパ」とよばれる、かつてアステカ王国で行われていた農法をヒントに、養殖池の堤防の土と混ぜ合わせて、小島をつくる材料として活用された。湖に浮かぶ小島の数々は、この石炭灰のアップサイクルというわけだ。また、増大する都市部からの汚染物質にも対応するため、段状の人工池がつくられ、濾過機能も整備された。
南昌市は、人口620万人をかかえる、中国中部第三の大都市だ。中国最大の淡水湖である鄱陽湖の西岸に位置し、モンスーンの時期には、毎年のように洪水に悩まされている。さらに近年は気候変動の影響によってその傾向はますます強まっている。そのため、再開発にあたっても、増減する水に対応できるようにすることは必須だった。
そこで遊歩道は、毎年発生する大雨の際には浸水するよう設計された。穴あきのアルミニウムが使われているため、水が抜けやすく、泥なども洗い流しやすい。さらには20年に一度の大洪水も想定し、歩行者や自転車道が嵩上げされているほか、100万平方メートルの雨水の流入を受け入れられる構造も整備されている。
また、市民が自然に触れ合えるような憩いの場づくりも重要だった。そこで、樹々が茂った小島をつなぐように遊歩道がはりめぐらされ、人々が散策しながら気軽に自然にふれられるように設計されたのだ。
モダンでありながらも、どこか古代中国の庭を彷彿させるようなデザインの展望台からは、大都会とは思えないような風景が楽しめ、都会の喧騒を忘れるにはぴったりなオアシスになっている。
汚染地の環境再生をはかりながら、気候変動にも適応し、さらには人々のウェルビーイングをも実現する南昌市魚尾公園。さぞやコストがかかったのではないか、と思うかもしれないが、再開発の予算は1平方メートルあたり4米ドル(525円程度)と低予算におさまったという。
まちをどう再開発するか。これは国や地域を問わず万国共通の課題だ。再開発前の課題は場所によって異なっても、南昌市魚尾公園を例にとると、これまでのような、経済一辺倒ではなく、環境保全と人の健康や安全の増進といったウェルビーイングをコンセプトに据えることが、成功のカギと言えるのではないだろうか。
南昌市魚尾公園はまちの新たなランドマークとなり、再開発の触媒となっている。その意味では、環境社会面だけの効果だけではなく経済的な波及効果もあると言えそうだ。
【参照サイト】Nanchang Fish Tail Park
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(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:汚染されたごみ捨て場を「浮遊する森」に。中国の生態系回復プロジェクト