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昨年、2022年はステーブルコインの暴落や大手取引所FTXの破綻など、暗号通貨市場を揺るがすさまざまな出来事があった。
「クリプトの冬」とも呼ばれる現状を鑑み、2023年は暗号通貨市場にとってどのような年になるのかという予想が、さまざまなメディアで繰り広げられている。
米国のビジネスニュース専門放送局CNBCは、複数の暗号通貨有識者による今年のビットコイン価格予想を展開、強気予測と弱気予測の両端を伝えている。
2023年の暗号通貨市場はどのような局面を迎えるのか。ビットコイン価格の推移に大きな影響を与えるともされる専門家らの分析と発言をCNBCの報道に基づいて紹介する。
2021年末以降続く「暗号資産・冬の時代」
2021年末以降、暗号通貨市場は3兆ドルから1兆ドル未満へと大きく落ち込み、「暗号資産・冬の時代」と呼ばれる状態にあり、暗号市場全体の指標であるビットコイン価格も約65%下落した。
この状況がいつまで続くかについてはこれまでさまざまな予想がなされているが、少なくとも2022年は前年に引き続き、暗号通貨市場に逆風が吹いた年となった。
アメリカの金融引き締め、そして米ドルと価値が連動するように設計された仮想通貨であるUSTの崩壊を背景とした5月の大暴落や、クリプト関連企業のハッキング被害、そして大手仮想通貨取引所FTXの経営破綻、レンディングサービスの「セルシウス」や、ベンチャーキャピタル「スリー・アローズ・キャピタル」の経営破綻、各種クリプト関連企業のレイオフといった暗いニュースが相次いだことは記憶に新しい。
2023年も暗号通貨市場にとって不安定な年か?
このように暗号通貨市場にとって大荒れの年だった2022年だが、2023年も引き続き不安定な年になることが懸念されている。
昨年末の世界第2位であった暗号資産取引所FTX(とその関連会社)のずさんな資産管理と経営体質による崩壊と創設者の逮捕は、暗号通貨業界全体の信用に大きな衝撃を与え、世界各国で、暗号通貨関連の規制の強化や見直しが進む予想もなされている。
元々規制が厳しい日本などにおいては、規制緩和への動きが減速する可能性があるだろう。
そして、米国をはじめとした世界的な物価高対応のための政策金利の引き上げにより、ビットコインなどのハイリスクな暗号資産から、短期国債などのより安定した資産に資金のシフトが起きている。
さらなる最悪の事態を予想する予測も
前述のCNBCのインタビューによると、暗号市場にとって最悪の事態はまだまだ続くとする識者の声もあるようだ。
ロンドンを拠点とする世界的な金融グループであるスタンダードチャータード銀行の昨年年末の調査発表では、ビットコインが現在の価格から70%の急落となる5,000ドルまで下落する可能性があると指摘がなされた。
同行グローバルリサーチ責任者のエリック・ロバートセン氏は、可能性を否定できない2023年「悪夢」のシナリオでは、「テクノロジー株とともに利回りが急落し、ビットコインの売りは減速するものの打撃は大きい」との予想を示した。
さらに同氏は「ますます多くの暗号資産関連会社や取引所が流動性不足に陥り、さらなる倒産や、デジタル資産に対する投資家の信頼の崩壊につながる」ことも付け加えている。
著名投資家もビットコインに弱気予測
カリフォルニア州に拠点を置くグローバルな運用会社フランクリン・テンプルトン・インベストメンツで、新興国の投資チームをかつて率いて名を馳せた著名投資家のマーク・モビアス氏も、2023年の暗号通貨市場について同様に悲観的な見方を示している。
彼の予想では、ビットコイン価格は今年1万ドルまで下落する見通しだ。
これは金利上昇と米国の中央銀行制度である連邦準備制度(FRS)の最高意思決定機関である米連邦準備制度理事会の一般的な金融引き締め政策に起因するとしており、「金利が上昇すると、ビットコインや他の暗号通貨を保有したり購入したりする魅力が薄れる」とCNBCに語っている。
強気予測をするベンチャーキャピタリストも
一方で、楽観的で強気の予想を示す業界関係者も存在する。
2022年、ビットコインは年末までに25万ドルの価値になるという見方を示していた、米国のベンチャーキャピタル投資家で、フォーブスの2022年の暗号通貨分野の億万長者リストに掲載されたティム・ドレイパー氏は昨年11月、その予測を2023年半ばまで延長し、ビットコインが大幅に上昇するという見方を示した。
彼はFTXの崩壊の影響は限定的なものであり、中央集権化の脆弱性が示されたことは、ビットコインのような分散型のシステムをさらに進めるきっかけになると考えている。
同氏の仮定では、小売支出の80%を女性が支配しているにもかかわらず、現在、女性はビットコイン・ウォレットの7分の1しか持っていないため、そこに起こる変化が原動力となる強気の予測をCNBCに示している。
2024年のビットコイン半減期が影響するという見方も
2024年3月下旬に予定されている、通算で4回目の次のビットコインの半減期が大きくビットコイン価格に影響するという意見もある。
4年ごとに予定されている半減期(ハルベニング)とは、ビットコインの取引が正常に行われたことを承認する作業(マイニング)を行う「マイナー」が受け取るビットコインの報酬が半分になる時期のことだ。
ビットコインマイナーたちは、ビットコイン価格の低迷とマイニングに要する電力コストの上昇により、生産コストが利益よりも大きくなり、マイニングからの撤退を余儀なくされる者も出ている。
暗号取引プラットフォームLunoの企業開発担当副社長Vijay Ayyar氏は、大量のビットコインを蓄え、大きな売り手となっているマイナーたちが保有資産を売却し、市場がこの売り圧力を十分に吸収する地点に到達すれば、底入れ期を迎えていると考えることができると過去の価格データから語っている。
大口保有者「クジラ」が影響を与えるという見方も
昨年、ビットコインの下落を予測したサセックス大学のファイナンス学部教授であるCarol Alexander教授は、2023年、ビットコイン価格が第1四半期に3万ドルを超え、第3四半期か第4四半期には5万ドルになると予想している。
同教授の推論は、仮想通貨取引所FTXの崩壊などによって一般のトレーダーのビットコイン取引量が低迷する中で、暗号資産市場に大きな影響を与える「クジラ(Whale)」と呼ばれる大口保有者がビットコイン市場を支えるために介入する可能性が高いというものだ。
フィンテック企業のRiver Financialによると、最も裕福な97のビットコインウォレットアドレスは、総供給量の14.15%を占めている。
ビットコイン価格を予測することをあきらめた投資家も
ビットコイン価格の予測を諦めたことを明言する投資家もいる。
仮想通貨のレンディングプラットフォームNexoのCEO、Antoni Trenchev氏は、機関投資家の参入が相次いだ2022年の流れを受け、昨年夏に、ビットコインは2023年前半までに10万ドルのピークに急騰すると予測したが、昨年末にかけての数々の波乱のイベントを経て、予想することをやめたと発言した。
英国のオンライン投資プラットフォーム「AJ Bell」の金融アナリスト、Laith Khalaf氏も、暗号通貨市場は投資家の感情に大きく左右されることから、ビットコインの価格を予測しようとする試みは無駄だと指摘、「今年の価格が5,000ドルになっても、50,000ドルになっても驚かない」とCNBCの「Squawk Box Europe」に語った。
有識者の間でも見解が非常に大きく分かれている2023年の暗号通貨市場といえるだろう。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)