NEOM概要と最新動向
サウジアラビアでは現在、政府主導で「NEOM」と呼ばれる巨大都市開発計画が進められている。
この計画では、居住空間「The Line」、港湾地区「NEOM Bay」、空港「NEOM Bay Airport」、工業エリア「NEOM Industrial City」などが建設される予定となっている。
NEOMで最大の目玉となるのは、巨大居住都市The Lineだろう。サウジアラビアの紅海沿岸から内陸砂漠地帯にかけて170キロにわたり一直線に、高さ500メートル、幅200メートルの建物を建設するプロジェクトだ。居住施設に加え、ショッピングモール、レジャー施設、学校、公園などが敷設され、約900万人の居住が見込まれる。170キロ離れた両端は、高速鉄道で20分ほどで行き来できるようになるという。
このThe Lineプロジェクトに関しては、その規模から、不可能なのではないかという疑念の声があがったが、2022年10月時点の情報によると、工事はすでに開始されていることが判明している。
建築メディアdezeenは2022年10月19日、The Lineの建設予定地となっている地区で、ブルドーザーなどの重機による工事が開始されている様子を報じ、地下部分に建設される高速鉄道の基礎工事である可能性を指摘している。
このほかNEOM関連の最新動向としては、2022年12月に、NEOM内に建設されるリゾート島「Sindalah」のデザインが公開された。紅海に浮かぶ84万平方メートルの島に400室のホテル施設、300室のサービスアパート/ヴィラ施設が建設される。完成予定は2024年で、NEOM計画の中で、最初に完成するプロジェクトになる見込みという。
人権問題を内包するNEOMプロジェクト
NEOMに関する進捗情報がいくつか報じられているが、同プロジェクトには複数のリスクが内在しており、今後プロジェクト進捗がスムーズに進むのかどうかは分からないところだ。
1つは、人権に関わる問題/リスクが挙げられる。
2022年10月の報道によると、NEOMプロジェクトを進めるにあたり、サウジアラビア政府は、開発予定地となる場所から多くの住民を追い出したとされている。さらには、立ち退きに反対した3人の住民を死刑にしたともいわれており、この件に対し、欧米の人権団体からの批判が強まり、欧米企業もNEOMプロジェクトへの積極的な関与や投資をできない状況となっているのだ。
NEOMプロジェクトには、建築デザインなどで多数の欧米専門家らが携わっているが、人権問題をきっかけに、同プロジェクトと距離を置く人は少なくない。
2019年には、サウジアラビアのジャーナリスト、ジャマル・カショジ氏の殺害事件を理由に、NEOMのアドバイザリーボードの一員だった英国の建築家ノーマン・フォスター氏が同役職を辞任している。
NEOM、顕在化する政治リスク
人権リスクだけでなく、政治リスクの高まりも欧米やアジアのプレイヤーの積極的関与を遠ざける要因となっている。
政治リスクが高まる要因となっているのが深まりつつあるサウジアラビアと中国の関係だ。
上記で示したように人権問題が指摘されるNEOMプロジェクトでは、積極的な関与を望む欧米企業は少ない。こうした中、サウジアラビア政府は投資/技術を求め、中国や韓国を積極的に引き込もうとしているのだ。
BusinessKoreaによると、2022年12月中国の習近平国家主席がサウジアラビアを訪問した際、中国からの訪問団には中国建設会社が含まれていたという。
NEOMプロジェクトにおける中国の関与が深まれば深まるほど、欧米企業はさらに距離を置くようになることが予想される。また、サウジアラビアと中国の政治関係が深まると、NEOMが米中競争の政争の具になるリスクも指摘されている。
プロジェクトの見通し不透明で懸念噴出
中国とともに韓国もサウジアラビアからのアプローチを受けているようだが、上記以外にもさまざまなリスクが顕在化しており、韓国でも積極的にNEOMプロジェクトへの参加を考える企業は少ないとされる。
BusinessKoreaが現在韓国企業が同プロジェクトに対しどのような懸念を持っているのかを詳しく伝えている。
上記政治リスクのほかに懸念点となっているのが、プロジェクト管理に関するリスクだ。
BusinessKoreaは、韓国建設大手の海外部門責任者の話として、NEOMプロジェクトでは建設スケジュールに加え入札プロセスがまったく公開されておらず、これがプロジェクト参加を足踏みする最大の懸念になっていると伝えている。また、サウジアラビア政府がNEOMプロジェクトの完了時期を2030年としているが、韓国建設会社の見立てでは非常に難しい目標であり、建設時期は延長される可能性が高いという。
プロジェクトの資金についても懸念が噴出している。サウジアラビア政府は、建設会社に建設費用の70%を負担させる考えである一方、投資のリターンをどのように生み出すのか、具体的な計画を策定できていない状況にある。
さらには、170キロに渡り、高さ500メートル、幅200メートルの建物を実際に建設する場合、膨大な原材料が必要となり、材料市場の高騰を引き起こすリスクが懸念される。実際、過去に中国での建設ブームの際、原材料コストが高騰し、中東で建設事業を行っていた韓国企業の間では、コストが収益を圧迫する事態が発生したという。
また、NEOMプロジェクトの建設が本格化した場合、30万人以上の労働力が必要となるが、その労働力の確保についても見通しがたっていない。
文:細谷元(Livit)