ドローン市場は本格成長期へ。国産ドローンで世界に飛び立つACSLのグロース戦略

レベル4開始でドローン市場は本格成長期に突入

2010年以降、低価格化と性能向上により、民間レベルでも普及を見せ始めた無人飛行機(ドローン)。国はその安全飛行と利活用拡大を図る為、航空法でドローンの許可・承認制度(平成27年改正)、登録制度(令和2年改正)など、段階的に環境整備を進めてきた。2015年に設立された官民協議会では、「レベル1(空撮や点検などを目的に機体を目視しながらの手動操縦)」、「レベル2(アプリによる自動操縦。大規模な点検や農薬散布など)」、「レベル3(離島や山間部などの無人地帯における補助者なしの目視外飛行」と、飛行形態に応じたレベル分けや、運航ルール、機体認証や操縦ライセンスなどが設けられた。そして2022年12月。航空法の改正により、有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行を指す、新カテゴリの「レベル4」飛行が可能となった。

これにより、市街地や山間部、離島などへの郵便や衣料品、食料などの配送、災害時の救助活動や救援物資輸送、建築分野の測量や森林調査など、活動領域が一気に広がり、よりドローンが我々の生活空間に身近となる。物流の無人化という大転換期も視野に入り、ドローン市場はまさに本格成長期を迎えたと言えよう。

令和2年6月 国土交通省航空局 「無人航空機に係る制度検討の経緯について」より

国産ドローンで市場を牽引するACSL

そんな中、いち早くレベル4対応機体の開発と申請を進めているのが、国産ドローンメーカーの株式会社ACSL(本社:東京都江戸川区、代表取締役社長:鷲谷聡之、以下、ACSL)だ。

2013年に前身となる「株式会社自律制御システム研究所」として誕生した同社は、16年に計量・測量を目的とした産業用ドローン「PF1」を発表し、17年には画像認識(Visual-SLAM)により飛行する自律制御を開発し、商品化。18年には日本郵便株式会社のドローンを用いた郵便局間輸送に対して機体提供し、法改正後、国内初の「レベル3」飛行を成功させ、ドローン専業メーカーとして世界で初めて東証マザーズに上場を果たすまでになった。

ACSLが2016年に発表した次世代産業用ドローン・プラットフォーム機体「PF1」(同社プレスリリースより)

その急成長を支えるのが同社の技術力だ。その核となるのが、独自開発の制御技術。人間の「大脳」にあたる部分で環境変化を能動的に獲得、分析し、自律神経となる「小脳」では非線形制御であらゆる条件下の飛行をコントロールする。これらにより、多様な用途で高い性能と安全性、信頼性を獲得した。また迅速な試作から大量生産までをカバーする技術力、社内外にハードウェア、ソフトウェア、航空力学、画像処理、人工知能、製造技術等、幅広い技術カバレッジを持つことで、ワンストップでの技術ニーズに応えることができるのが強みだ。

ドローンの「大脳」「小脳」を独自開発し、顧客の要望に対して最適な制御技術を開発・組み合わせることが可能に。(同社HPより)

これらに下支えされ、19年に高速飛行時のフェールセーフ機能や強度・防塵・防水性能を向上させ、より幅広い用途に応用可能となった産業用ドローン「PF2」を、20年にはより小型の「Mini」を発売し、災害時の偵察や支援物資輸送、ビジネスでの物流・宅配など、ドローンの活用範囲を飛躍的に拡張させた同社は、21年6月に、レベル4に対応したドローンの開発及びドローン配送の実用化に向けて、日本郵便株式会社及び日本郵政キャピタル株式会社と資本業務提携契約を締結した。両社は、ドローン等の自動配送による「配送高度化」をはじめとして、先端技術による配達ネットワークの高度化に向けた検討と取り組みを継続的に推進し、ドローンによる郵便物や荷物の配送の実用化を目指す。さらに、ACSLは同年12月よりコンピュータセキュリティの国際規格(ISO15408)に基づいたセキュリティ対策を施し、データの漏洩や抜き取りの防止、機体のハッキングへの耐性を実現し、カメラのワンタッチ切り替え等を備えた小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」の受注を開始するなど、量産化と社会実装を通じてマーケットでの存在感を高めている。

2022年12月、資本・業務提携した日本郵便に向け導入が発表された次世代の物流専用ドローン(中央)。ACSL・鷲谷 聡之代表(左)と日本郵便・金子道夫専務(右)

世界に羽ばたく国産ドローン

ACSLは国内だけでなく、海外進出も積極的だ。インド市場は2021年時点で推計8.9億ドルの規模がある一方、22年からは安全保障上の懸念などから、外国製ドローンの完成品の輸入が禁止となり、国内でドローンを販売するためにはインド生産、かつ型式認証を取得することが必要となった。これまで中国メーカーが約6割のシェアを占めてきた市場において、ACSLは21年9月に現地合弁会社「ACSL India」を設立して、中国製ドローンの置き換え需要を早期に刈り取る事業戦略を立てた。ACSL Indiaは、22年5月、ニューデリーで開催された「Drone Festival of India 2022」において、ACSL製の国産ドローンを初展示。展示ブースにはインドのモディ首相も視察に訪れたほか、来場者からは「コスト効率の高い日本の技術はインド経済に好影響がある」などの反響もあり、ACSL製のドローンへの関心の高さをうかがわせた。こうした活動により、同年11月にはインド企業より約1.4億円の大型案件を受注。受注を受けたドローンはACSL Indiaで生産を実施し、Make-In-India に適合するプラットフォーム機体として 2023 年に納品予定だという。

また22年9月にアメリカ・ラスベガスで開催された「COMMERCIAL UAV EXPO」では、ACSLが展示した小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」に注目が集まった。データの漏洩や抜き取りの防止、機体の乗っ取りへの耐性を実現したセキュリティの高さが経済安全保障のニーズに対応していることもあり、多くの米国企業が興味を示した。中でも公共施設のインフラ点検用ドローンの販売等を手掛ける「General Pacific」社からは実際のドローンの飛行性能や撮影画像の質を確認したいとの要望があり、デモンストレーションを通じて、「実務適用が可能」という高い評価と共に、購入意思も確認することができた。

さらにACSLは23年1月に192か国の加盟国を持つ国連専門機関、万国郵便連合(Universal Postal Union、以下、UPU)の諮問委員会にドローン関連企業として世界で初めて加盟。

これにより、世界各国におけるドローンを活用した郵便・物流サービスに関するシステムやガイドラインなどの標準化、日本がこれまで実施してきたドローンを活用した郵便・物流サービスに関する実証を、各国と連携しながら展開ができ、情報収集・発信が可能となる。

UPU事務局長の目時 政彦氏からは「ドローンデリバリーを日本郵便社と連携しながら実装に向け取り組むACSL社には、実証実験による知見が多く蓄積されており、これから国際郵便における各種課題の早期発見や対策の検討などに一緒に取り組んでいける存在としてとらえている」と加盟を歓迎されるなど、同社への期待度は高い。

ASCL代表取締役社長の鷲谷 聡之氏は「昨今のeコマースの発達と普及により、世界各国が抱えるラストワンマイル配送の課題は、決してそれぞれの国だけの課題ではなく、国際的な課題として捉えて、解決に取り組んでいかなければいけないと感じた。ドローンの活用はそうした課題の解決に貢献できる」とUPU加盟を契機と捉えており、海外進出についても「持続可能なグローバル・メーカーになるため、インドやアメリカのマーケットを中心に力を入れ、将来的には東南アジアでの展開の糸口を見つけたい」と継続して注力していくという。

インド・ニューデリーでおこなわれた「Drone Festival of India 2022」では、ACSL Indiaのブースにモディ首相も来訪。2022年7月
アメリカ・General Pacific社での「SOTEN」デモンストレーションの様子
UPU目時政彦事務局長(右)を表敬訪問

透明性を高め、社会からの信頼獲得へ

「常に最先端の技術を開発し、社会に実装していくことで持続可能性や生産性を高め、危険で厳しい仕事から人々を開放する」というゴールを掲げるACSLは、「本格的な成長フェーズに入った今、包括的・定性的な強みやステークホルダーに知っていただきたい情報の発信を抜本的に強化すべき」と考え、22年11月に初の統合報告書を発行した。

報告書では経営の方向性として、初期に注力した実証実験を中心としたソリューションビジネスから、量産メーカーへと舵を切ったことや、2030年の売上高1,000億円以上、営業利益100億円以上、年間生産台数3万台を実現し、社会インフラ解決のグローバル・パイオニアを目指す「マスタープラン」が発表されたほか、ロボティクスカンパニーとしてドローンのみならず、UGV(無人地上車両)市場にも進出することを視野に、スタートアップ企業のREACT社と資本業務提携をおこなったことが明らかにされた。主に建設や農業など、屋外での活用を視野に入れており、今後は連携して新製品をリリースする予定だ。

また、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みと情報発信の強化も重要な課題と捉えた。

社会面では、多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させる考え方、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をベースにその先にあるフェアネス(平等性)を重視。外国人従業員も全体の24%を占める職場環境を実現した。また社会貢献では、地方自治体や自衛隊などと災害協定を結び、災害発生時にはドローンによる状況調査をボランティアで実施している。

環境面では、海ごみ削減プロジェクト「Debris Watchers」に参加して海岸に打ち上げられたゴミの状況をドローンで撮影するなどの実証実験に参加するほか、日本郵便とは、軽貨物車からドローンへと輸送手段を置き換え、CO2排出量を低減する実証実験を行った。ガバナンス面では、2022年度から社外取締役を1名増員し、2名体制とした。今後は女性役員や外国人社外取締役の登用も進めていくという。

ドローン市場本格成長にアクセルを踏むACSL

数多くの地道なトライアンドエラーを重ねて磨き上げた最先端技術により、人類の活動の基盤となる社会インフラの進化を推し進めてきたACSL。鷺谷代表は「レベル4」飛行が施行された2022年12月を「我々、ドローンメーカーにとって大きな節目」と捉え、今後のビジョンについて次のように語った。

「レベル4に相当する第一種の機体・型式認証取得のためには、ドローンの信頼性を上げて人々の頭の上を飛んでも安全だということを示す必要があります。2023年3月の認証取得を目指し、専用機の開発と各種試験、認証取得のためのプロセスを進めています。

 レベル4が実現すれば、物流の無人化のみならず、インフラ点検のやり方が大きく変わると考えています。周囲に人の多い首都高速道路の点検すらドローンでできるようになり、本当の意味でのドローンの社会実装の始まりになるのではないでしょうか。社会実装が進めば、社会インフラに革命を起こし、重労働で危険な業務を無人化していくという我々の目標に近づけます。それが中長期的には社会に持続可能性をもたらし我々が30年後に夢見る、先進国の人口減をロボットがカバーしつつ新興国には飛躍の機会を提供する“平ら”な社会の実現へとつながると思うのです」

社会にとって欠かせない仕事が、もっと効率的になるスマートな社会へ。ACSLは地に足をつけて、ドローンを飛躍させていく。

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