ツイッターなど大規模な一時解雇(レイオフ)が話題のテックセクターだが、その中でこれまでのところ比較的レイオフの報道が少なかったのがクリプト分野だ。

世界最大規模の仮想通貨マーケットデータ分析会社CoinGeckoによるテックセクターの分野別レイオフ規模調査では、最大規模だったのはレイオフ数1万8486人のコンシューマー事業分野で、これにフードテック、トランスポート分野が続き、クリプト分野は4695人と10番目に位置しているにすぎなかった。

しかし、これは2022年11月13日までのデータであり、その後、12月1日には、暗号通貨取引所大手クラーケンが、全社員の30%にあたる約1100人をレイオフすることが判明、クリプト分野でもレイオフが加速する兆候が見られるようになっている。テックセクターの大量レイオフは、これからも業界全体に波及するのだろうか?

テックセクターで相次ぐ大規模レイオフ

今年は、米国のテック企業のレイオフが次々と報じられた年となり、メタが同社初の大規模レイオフとなる11,000人の一時解雇を発表したほか、ツイッターが収益改善策として従業員数を大幅削減し、集団訴訟にまで発展、最近採用を減らしてきていたアマゾンも会社史上最大のレイオフを実施すると発表した。

前述のCoinGeckoの調査(2022年1月1日から2022年11月13日の間に公に報告されたテクノロジー系スタートアップのレイオフが対象)によると、テック企業レイオフの大半は、GAFAMのようなコンシューマー事業(全体の15.6%)と、それに続く食品、輸送、金融、ヘルスケアテクノロジーの上位5セクターが占めている。

レイオフ数で2位に続くのはフードテックセクター

テック系レイオフの11.1%を占め、コンシューマー事業部門に続く2位となったのが13,203人が解雇されたフードテック業界だ。

トルコで2社目のデカコーンとして話題となり、欧米各国にもサービスを展開している食品配送サービステック企業Getir(ゲティル)が5月、約4,480人の従業員を解雇したことが大きな割合を占めていたほか、アメリカの食品配送テックのGopuff、ドイツ・ベルリン発のオンラインデリバリーDelivery Hero、その傘下のFoodpanda、シンガポールのオンライン取引プラットフォームShopeeでもレイオフが報告されている。

プラントベースフード業界もレイオフを行っており、日本市場にも今年進出したえんどう豆製の代替肉企業Beyond Meatは290人、大豆やじゃがいも製の代替肉を開発するImpossible Foodsは50人をレイオフしている。

日本進出が話題となったプラントベースフードなど、フードテックでもレイオフが進む(ビヨンドミート公式YouTubeチャンネルより)

世界各国の輸送テック企業からもレイオフの報道

2位のフードテックに続いたのが輸送テック部門で、11,619人が解雇され、テックセクターレイオフの9.8%を占めていた。

最もレイオフ数が多かったのは、アメリカで最も急速に成長しているものの、約2,500人を解雇したオンライン中古車販売プラットフォームCarvana。ガラス張りの立体駐車場のような「中古車の自動販売機」で有名になったが、同社の今年のレイオフは輸送テック業界の解雇の21.5%を占めていた。

Uber、また同社と並んでアメリカの2大配車アプリと言われているLyft、インド発でオーストラリアなどにも展開する配車アプリや中古車販売プラットフォームを手がけるOla、インドネシア発で車だけでなくバイクタクシーやデリバリーなど幅広く手配できるGojekといった配車サービステック企業も、レイオフを行った企業のリストに含まれている。

年末に急激に増加。暗号通貨企業のレイオフ

上記のようにテックセクターでは世界各国でレイオフの嵐が吹き荒れる中、クリプト関連企業は他テック分野と比べて、今年11月上旬まではさほどレイオフ数は伸びていなかった。

しかし、12月の暗号通貨取引所大手クラーケンによる全社員の30%にあたる1100人のレイオフがあったことで、11月までの集計結果であるCoinGeckoの調査レポートに対し、クリプト分野の現状のレイオフ数は23%増と大きく増加することとなった。

2021年末以来、暗号通貨市場は3兆ドルから1兆ドル未満へと規模が大幅に落ち込み、ビットコイン価格も65%も下落するなど「暗号通貨・冬の時代」が到来。この夏には世界最大手のNFTマーケットプレイス「OpenSea」が20%、世界100カ国以上に展開する暗号資産取引所「Coinbase」が約18%の社員をレイオフと、もともとあった業界全体の冷え込みにさらに追い討ちをかけたのが、11月の著名暗号資産取引所FTXの崩壊だった。

この夏に大きなレイオフがあったコインベースの提供する暗号資産取引サービス(コインベース公式YouTubeチャンネル)

世界第2位の取引所FTXの崩壊と規制強化

「創業者のサム・バンクマン・フリード氏、バハマで逮捕」のニュースが、12月半ばに世界を駆け巡った。かつて世界第2位の暗号資産取引所FTX(とその関連会社)の崩壊は、同社の顧客だけでなく、暗号通貨セクター全体にとっても大きな衝撃となった。

FTXは今年11月11日、アメリカで破産申請を行っており、メディアはこのような取引所の破産は珍しいことではないものの、そのずさんな資産管理と経営体質がクリプトセクター全体の信用に負の影響を及ぼし、人員削減の動きを波及させるのではないかと報じている。

このFTXの破綻によって、比較的緩いとされてきたアメリカのクリプト関連の規制を批判に晒し、規制の強化への動きが強まる可能性が示唆されている。日本のような元々規制が厳しい国においては、緩和への動きがより慎重になるとも言われている。

有名取引所が次々とレイオフを発表

クリプト関連企業もレイオフが年末に増えている(UnsplashJievani Weerasingheより)

このFTXの破産の影響もあり、11月末から12月には、名のある暗号通貨取引所からのレイオフの発表が相次いでいる。

11月末、大手NFTショップCandy Digitalも100人規模の大規模レイオフを実施。オーストラリアに拠点を置く取引所Swyftxは、12月5日に全従業員の約40%にあたる90人のスタッフを削減。CEOのアレックス・ハーパー氏は「来年上半期に世界の取引量がさらに大きく減少するという最悪のシナリオ」に備える必要があることを強調した。

同様に12月はじめ、ドバイ拠点の取引所Bybitは、2022年2回目となるレイオフで、従業員の30%の一時解雇を発表、南米の暗号取引所大手のLemon Cashも推定38%の人員を解雇した。

FTX破綻の影響がはっきりするまではまだ時間がかかりそうだ(UnsplashPierre Borthiry – Peiobtyより)

日本も含め、世界中の暗号通貨関連企業にさらなる影響を与えると言われている、この11月の暗号資産取引所FTXの破綻。

暗号資産レンディング(貸し付け)企業Global Capitalの融資部門が11月16日、「前例のない市場の混乱」を理由として、払い戻しと新規融資を一時停止するなど、FTX崩壊による混乱が波及する中、その影響と各国の規制当局の動きがより明確になるまでは、まだ時間がかかりそうだ。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit