メタ、グーグル、アマゾンといったテック大手による大規模レイオフや新規雇用の停止のニュースが大きく報じられ、テック業界の低迷が強く印象づいた2022年下期。ブロックチェーン界隈を取り巻く状況も厳しく、22年Q3(7-9月)のブロックチェーンスタートアップへの投資額は、2期連続で大幅下落中だ。
しかし、この22年Q3にも大型調達を達成したスタートアップはいくつかあり、厳しい市場環境下で投資を勝ち取った存在として、今後の展開に期待が寄せられている。
ブロックチェーンスタートアップへの投資総額は35%減少
CB Insightsのレポートによると、22年Q3の世界のブロックチェーンスタートアップへの投資総額は46億ドルと、前四半期比で約35%もの減少となった。21年Q1に急増し、その後22年Q1まで毎四半期順調に伸び続けていた投資総額は、この半年で急減し、22年Q1の半分以下の規模となっている。
1億ドル以上のメガラウンド調達件数も急減しており、22年Q1の28件に対し、22年Q3はわずか7件だ。平均調達額を見ても、21年年間平均の2,200万ドルに対し、22年のここまでの平均は1,700万ドルと、23%の減少となっている。
22年Q3にメガ資金調達を達成したブロックチェーンスタートアップの顔触れ
このように厳しい環境下ながら、1億ドル以上の資金調達というメガラウンドを達成したブロックチェーンスタートアップには、これまで以上の注目が集まっている。
まず22年Q3で最大の調達額となったのは、米Mysten LabsのシリーズBで3億ドル。次に米Limit BreakとLootMogulの各2億ドルが続く。4位は米Aptosの1.5億ドルで、5位はスイス・Velasの1.35億ドル。そして英5ireとジブラルタルのSafe各1億ドルの計7社だ。
そしてMysten Labsと5ireが、ユニコーン企業(評価額10億ドルを超える設立10年以内の未上場ベンチャー)の仲間入りを果たしている。
ブロックチェーンSuiの開発を手掛けるMysten Labs
22年Q3でブロックチェーン業界最大のディールとなったMysten LabsのシリーズB。21年12月のシリーズA(3,600万ドル)から9か月での大規模調達となった。
Mysten LabsはL1ブロックチェーン「Sui」の開発を行っているスタートアップだ。Meta(旧Facebook)社でデジタル通貨のプロジェクトDiem(旧Libra)に携わっていたメンバーが、2021年にシリコンバレーで設立した。
Meta社は2022年1月にDiemの開発を断念したことを正式発表しているが、Mysten Labsの手掛けるSuiには、Diemの特徴が多数引き継がれている。また、MetaがDiemブロックチェーンのために開発したプログラミング言語であるMoveが使われており、先行するSolidityと比べ、安全性に優れるとされている。
Suiは2種類のトランザクションによる並行処理を取り入れているため、他のブロックチェーンと比較して処理能力に優れる。そのため、スピードが重視されるゲームなどの分野で強みを発揮することが期待されている。
Mysten Labsと同じくMeta出身メンバーが手掛けるAptos
Mysten LabsのSuiと並び、元Metaメンバーによる「Diem系」ブロックチェーンとして注目されているのがAptosだ。Aptos社も22年Q3に1.5億ドルをシリーズAで調達した他、これまでに合計3.5億ドル以上を調達している。
Aptosブロックチェーンは並列処理やMove言語の使用など、Suiとよく似た特徴を持ち、プロジェクトの進捗状況としてはSuiの一歩先を行っている。Aptosは3回のテストネット期間を経て、22年10月にメインネットをローンチ。既に100以上の分散型アプリがAptos上で構築されており、DeFiやNFT、ゲームなど多くの分野での利用が見込まれている。
Limit Breakでゲーム業界の大物が仕掛けるWeb3型ゲームの新モデル
22年Q3でMysten Labsに次ぐ2億ドルの調達を行ったのがLimit BreakとLootMogulだ。
Limit BreakはWeb3型ゲーム開発スタートアップで、「ゲーム・オブ・ウォー」「モバイルストライク」「ファイナルファンタジーXV」などの人気モバイルゲームを手掛けたMachine Zone社の共同創業者2人によって、2021年に設立された。その一人であるGabe Leydon氏は、現在のモバイルゲームの主流であるFree to Playモデル(基本プレイ無料に課金アイテムなどを組み合わせる)のパイオニアでもある。
現在Web3型ゲームは、Play to earn (遊んで稼ぐ)モデルがトレンドとなっている。ゲームをプレイして獲得したNFTを売り抜いたり、ゲーム内通貨を換金することで稼げるという仕組みだ。
しかしGabe Laydon氏はこのモデルには永続性が無いとし、Limit Breakでは新たな「Free to Own」(無料で所有する)モデルを提唱している。ゲームのローンチ前に無料でNFTをリリースすることで、その価値の上昇とゲームの成功を願うプレイヤーを獲得し、長い目でゲームを楽しんでもらうというやり方だ。22年8月にはDigiDaigakuというコレクションのNFTを無料配布し、Free to Ownモデルを始動している。
メタバース空間でのスポーツコミュニティ作りを行うLootMogul
Limit Breakと同じく22年Q3で2億ドルの資金調達を行ったLootMogulは、スポーツ系メタバースの注目スタートアップだ。LootMogulは200人以上のプロアスリートとパートナーシップを結び、各スポーツチームやアスリートとファンを結びつけるメタバースコミュニティを手掛けている。
アスリート側はメタバース空間にバーチャルスポーツシティを作り、ファンはアバターを通してそこでゲームやトレーニングなどに参加することができる。スポーツシティのオーナーはメタバース上でイベントを開催したり、デジタル・リアル両方の物販を行うことも可能だ。プロアスリートに加え、近々150万人以上のハイスクールやカレッジのアスリートもLootMogulのパートナーに加わる予定だ。
ブロックチェーンスタートアップへの投資判断はシビアになっていくか
厳しい市場環境下で22年Q3に大規模調達を達成したブロックチェーンスタートアップの顔触れを眺めると、やはり事業内容や目指す世界観に、より確固とした基盤が求められているように見える。
Meta社が莫大なリソースを注ぎ込んできたDiemプロジェクトの経験値を受けつぎ、より安全でスケーラブルなブロックチェーンインフラを構築するMysten LabsとAptos。ゲーム業界の大物がWeb3に舞台を移し、業界に新たなビジネスモデルを提示しているLimit Break。LootMogulにしても、既に実在のアスリート200名以上を巻き込んでいるという点が、実績として効果的だろう。
テック大手の失速や暗号資産市場の混乱など、テック業界を取り巻く厳しい環境はまだ続きそうな気配を見せている。ブロックチェーン界隈の右肩上がりの勢いも一旦止まり、有象無象のプロジェクトでも無条件に資金が流入するようなフェーズは過ぎ去ったのかもしれない。確固たるビジョンと裏付けとなる技術を持ちあわせたスタートアップのみが次のフェーズに進み、ブロックチェーン業界をけん引していくことになるのだろうか。
文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit)