2022年、米労働関連で生まれた新トレンド
米労働市場では「大退職」という言葉が昨年末頃から注目を集めてきたが、2022年は「クワイエット・クイッティング」を含め労働関連の新トレンドが次々と生まれた。
1つは「クワイエット・クイッティング」だ。一時このトレンドはフェイクだという主張も見受けられたが、複数の調査レポートがクワイエット・クイッティングが実際に起こっていることを示唆する結果を示しており、概ね実在するトレンドとして認識されている
また、米国の掲示板サイトRedditでは、「Antiwork」や「Act Your Wage」と呼ばれる労働トピックが人気を集めており、新たなトレンドとして認識されつつある。「Antiwork」と「Act Your Wage」は、クワイエット・クイッティングに似た概念で、社員の不満の高まりを反映するトレンドとして捉えられている。
クワイエット・クイッティングの発信源
「クワイエット・クイッティング(quiet guitting)」とは、与えられた職務以外の仕事はやらないという社員のスタンスを指す言葉だ。
米国では2022年春ごろからソーシャルメディアで拡散し始め、夏から秋にかけてビジネスメディアで取り上げられるようになった。
このトレンドが実在するのかどうかという議論もあったが、これまでの実施された多くの労働関連調査では、概ね実在することが示されている。
米国発祥のトレンドと考えられているが、同様のトレンドが2021年すでに中国で発生しており、発信源は中国とする議論もある。
中国では多くの企業で長時間激務が一般化し、「996労働」などという言葉が登場した。996とは、朝9時に出社し、夜9時に退社、週6日労働することを指す言葉だ。996労働を強いる企業の多くでは、残業代が支払われていないともいわれている。
こうした長時間激務の労働環境に対し、反旗を翻したのが中国の若い世代だ。2021年4月には国内ソーシャルメディアに、長時間激務を批判する投稿がなされ、若い世代を中心にまたたく間に拡散した。このトレンドは「Tang Ping(lying flat)」と呼ばれ、日本でも「寝そべり族」として紹介されるようになった。
現在も続くクワイエット・クイッティング
発祥に関する議論はさまざまあるようだが、米国における「クワイエット・クイッティング」は、同国の労働環境を反映したユニークなトレンドとして進展している。
2022年12月に発表されたLendingTreeの調査レポートから、米国のクワイエット・クイッティングの現状をみていきたい。この調査は、2022年10月18日に米国在住の2,033人(18~76歳)を対象に実施されたものだ。
まず、意識的にクワイエット・クイッティングを行っているとの回答は30%であることが分かった。このうち、57%がクワイエット・クイッティングを行うことで、ワーク・ライフ・バランスが向上したと答えている。また、18歳以下の子供を持つ親では、この割合は65%と高い数値となった。
いくつかのメディアはこの調査結果を受け、クワイエット・クイッティングは現在も続くトレンドであると解釈している。
同調査では、クワイエット・クイッティングに対する意識についても質問が実施された。2,033人中、クワイエット・クイッティングをポジティブに捉えている割合は22%、ネガティブに捉えている割合は30%だった。一方、最も多いのは、40%の中立的という回答だった。
興味深いのは、ポジティブ/ネガティブの意識は、年齢層によって大きく異なる点だ。Z世代では、ポジティブに捉える割合が28%と全年齢層で最も高かった一方、団塊の世代は10%と最も低い割合だった。
Z世代の仕事観が他の世代と異なることはこれまで多くの調査で示されてきたが、クワイエット・クイッティングも他の世代とは異なる視点で捉えられていることが示唆されている。
クワイエット・クイッティングが起こる理由
クワイエット・クイッティングがなぜ2022年のトレンドとなったのか。その決定的な要因は不明であるが、米国では労働者の不満水準が歴史的に高い状態となっており、これが影響している可能性が指摘されている。
CNBCが伝えたギャラップのグローバル調査(米国を含む)によると、仕事へのエンゲージメントが低い(emotinally detached at work)との回答割合は60%に上ったことが明らかとなった。また、19%が惨めさを感じると回答しており、80%近くが仕事上ネガティブな感情を持っていることが分かったのだ。一方、仕事に高いエンゲージメントを感じるとの回答は33%と2020年を下回る水準となった。
特に米国では、仕事上ネガティブな感情を持つ人が多く、50%がストレスを感じる、41%が不安を感じる、22%が悲しみを感じる、18%が怒りを感じると報告している。
これらのネガティブな感情は、労働時間、ワーク・ライフバランス、仕事の場所に関わらず観察されており、ギャラップは労働者らの不満の源泉は「仕事における不公平な待遇(unfair treatment at work)」にあると指摘している。
また、管理不可能な仕事量、マネジャーとの不明確コミュニケーション、マネジャーのサポート不足、不当な時間的プレッシャーなどマネジャーを起因とする要因も仕事の不満/燃え尽き症候群につながる傾向があると説明している。
冒頭でも触れたが、Z世代ユーザーが多く集まる米国の掲示板サイトRedditでは、クワイエット・クイッティングだけでなく「Antiwork」や「Act Your Wage」というトピックが盛り上がっている。
Antiworkは「仕事のない生活を楽しみたい人」や「仕事を辞めることに興味がある人」を指す言葉。一方、Act Your Wageは、その名が示す通り、与えられた職務・給与に即して、それ以上それ以下の労働には携わらない態度のことを指す。
Redditでは、2021年9月以来でAntiwork関連の投稿数が104%増加、またAct Your Wageも95%増加しており、Z世代の間で特に高い関心事になっている。
雇用者側はこの現状にどのように対処していくのか。2023年の米労働市場における注目トピックの1つとなるはずだ。
文:細谷元(Livit)