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ワールドカップとファントークン
今回のワールドカップは、各国チームの勝敗だけでなく、ファントークンの値動きにも注目が集まる大会となった。
ファントークンとは、スポーツチームなどが発行するブロックチェーン上で運営される暗号通貨のようなデジタル資産だ。ファンジブル(fungible)であるため、NFTとは異なる。
たとえば、アルゼンチンのナショナルチームの「Argentine Football Association Fan Token」は、ARGというシンボルでいくつかの暗号通貨取引所で取引されている。
対米ドルでの価格は、発行当初の2021年8月頃は4ドルほどだったが、2022年は下落トレンドが続き、ワールドカップ直前まで1ドルほどで推移していた。
ワールドカップの機運が高まった夏頃から価格は上昇を始め、大会が開始されるまで5〜7ドルで推移。一時8.6ドルまで上昇するなど、夏頃までの値動きに比べボラティリティが高い状態となった。
注目がさらに高まったのは、11月22日のアルゼンチン対サウジアラビアの試合。この試合では、サウジアラビアが2対1でアルゼンチンに勝利するという番狂わせが起こり、ARGが急落する事態となったのだ。
11月19日に8.6ドルを付けた直後、12月9日かけて2.6ドルまで下落を続けた。一方、サウジアラビアに破れたものの、アルゼンチンチームは決勝戦まで駒を進め、それにともない価格は、12月16日時点で5.4ドルまで回復した。12月18日のフランスとの決勝戦の結果次第で、価格はまた乱高下することが予想される。
アルゼンチンのほかには、ブラジルナショナルチームのファントークン(BFT)、ポルトガルナショナルチームのファントークン(POR)、スペインナショナルチーム(SNFT)のファントークンなどが存在する。
ブラジルチームのファントークンBFTは、2021年8月にリリースされたもので、ワールドカップ直前まで0.2〜0.6ドルで推移してきた。2022年9月末に急上昇を始め、ワールドカップ大会までの間1ドルほどで推移していた。しかし、決勝戦進出の機会を失ったことで、価格は急落し、現在0.06ドルで取引されている状況だ。
ファントークン普及を仕掛けるブロックチェーンスタートアップ
このファントークンという仕組みを様々なスポーツチームに提供しているのがマルタ発のブロックチェーンスタートアップChilizだ。
上記のようなナショナルチームだけでなく、パリ・サンジェルマンFC、アトレティコ・マドリード、ガラタサライ、ASローマ、FCバルセロナなどの有名サッカークラブチームのファントークンの発行・運営を担いつつ、事業範囲を拡大している。
インテル・ミラノ、バレンシアCF、マンチェスター・シティFC、アーセナル、エバートンなどもChilizの顧客リストに名を連ねている。
また、Chilizはサッカー以外のスポーツ領域にも積極的に進出。米国総合格闘技団体UFC、米プロバスケットリーグNBA、アメリカンフットボールリーグNFL、米ナショナルホッケーリーグなど、米国のプロスポーツチームを多数顧客に抱えるようになっている。
プロスポーツチームのファントークンはニッチ市場であり、競合もほとんどおらず、Chilizは独占状態で事業を拡大中だ。その好調ぶりは、同社の雇用数にもあらわれている。
「クリプトの冬」といわれる状況下、暗号通貨/NFT市場は低迷し、レイオフに踏み切るクリプト系企業が増える中で、Chilizの社員数は大幅に増加しているのだ。
2022年10月17日時点の情報によると、Chilizの社員数は前年比70%増の300人以上に拡大。米国マイアミのほか、スイス、ロンドン、ミラノ、サンパウロで新拠点を開設し、新規雇用を進めた。またマドリード、マルタ、リオン、イスタンブールの既存拠点でも新規雇用を進めているという。
Chilizは2021年に米国事業拡大に向け5000万ドルを投資。また2022年8月には、FCバルセロナのデジタルコンテンツ部門Barca Studiosの株24.5%を1億ドルで取得しており、特に欧米での事業拡大に意欲的であることがみてとれる。
Barca Studiosは、NFTなどウェブ3コンテンツプロダクションを担当する部門。同スタジオの動向は、プロスポーツチームのウェブ3に関する取り組みの試金石として注目を集めている。
プロスポーツチームに広がるファントークン
プロスポーツチームの多くが発行し始めているファントークンには、さまざまな特典が付与されており、これらがファンの取り込みにどのように作用するのかが注目されるところ。
FCバルセロナのファントークン保有者は、バルセロナ戦のVIPチケット、商品、選手に会うイベントへの参加権、勝利後に歌うチームソングの投票権などが与えられる。同チームのファントークンは、2020年2月に発行され、2022年8月時点までで、累計3900万ドル相当がファンによって購入された。
一方、インテル・ミラノのファントークン保有者には、ゴールを祝う歌の投票権、チームバスの選択投票権、ジャージデザインの投票権など、またマンチェスター・シティFCではホームスタジアムのプレイヤーエリアに掲げられる写真を選択する投票権などが与えられる。
CryptoSlamのデータによると、2020年4月のファントークンの販売額は32万ドルにとどまるものだったが、2021年4月には54億ドルに拡大、その後も30億~50億ドルで推移している。2022年3月には94億ドルに跳ね上がるなど、一時的な急騰も観察され、全体的には2021年の水準を維持しており、「クリプトの冬」の影響はほとんどないように思われる。プロスポーツの世界でファントークンはどこまで普及するのか、今後の動きにも注目していきたい。
文:細谷元(Livit)