東海大学(静岡キャンパス)海洋学部水産学科の後藤 慶一教授、および富士通の共同研究グループは、冷凍マグロの重要な品質指標の一つである鮮度について、超音波AI技術を活用することで、冷凍状態のまま非破壊で評価することに世界で初めて成功したことを発表した。
マグロ産業の成長と国際化は近年急速に加速しているが、冷凍マグロの品質の判別は、マグロの尾の断面を熟練者が目視で確認する尾切り選別をはじめとする破壊的検査が主流であり、検査可能なタイミングや場所、検査者が限定されている。
一方で、超音波を用いて身を切ることなく非破壊で鮮度を検査する手法は、冷凍マグロの肉質による超音波の減衰の影響が大きいことが課題となっていたという。
この課題を解決するため、共同研究グループは、まず冷凍マグロの超音波検査が可能な超音波の周波数帯を発見したのち、正常な検体に比べて鮮度不良の検体では中骨からの反射波が特徴的であるという点に着目し、機械学習を用いて非破壊で鮮度の判定を行うことに成功したとしている。
同研究成果は、マグロの身を切ることなく冷凍マグロの価値を維持しながら、場所を問わず誰でもマグロの品質評価を行うことを可能にし、国際化の進むマグロの流通にトラストをもたらすことが期待されるとのことだ。
なお、同研究は、2022年12月22日、23日に広島県広島市で開催される超音波研究会にて両者から発表予定としている。
【 共同研究について 】
研究期間:
2022年4月1日から2023年3月31日(2023年度以降も継続予定)
研究概要:
はじめに、冷凍マグロの超音波検査に最適な超音波の周波数を検討するため、いくつかの周波数で試行した結果、500kHz程度の比較的周波数の低い超音波が最適なことを明らかにした。
次に、正常な検体と鮮度不良の検体からそれぞれ取得した超音波波形を比較したところ、鮮度不良の冷凍マグロから取得した波形では中骨からの反射が大きいことが判明し、同結果を用いて中骨からの反射波を活用した鮮度の判別を試みた。
ただ、図1のように目視で判別可能な波形だけでなく、図2のように判別が困難なものもあるため、このような波形も含めて超音波AI技術による鮮度不良の判別を目指したとしている。
具体的には、正常と鮮度不良のマグロの輪切り検体合計10個から取得した222個の超音波波形のうち、中骨からの反射波を切り出して機械学習を実施。
さらに上記の検体に加えて、正常と鮮度不良の輪切り検体合計6個から取得した126個の超音波波形を用いて鮮度不良度スコアの値を算出し、正常検体の波形と鮮度不良の波形を区別できるかを検証した結果、鮮度不良度スコアに有意差が認められたとのことだ。
また、同機械学習モデルの性能を鮮度不良スコアが作るAUC-ROC(Area Under the Curve of the Receiver Operating Characteristic curve)を用いて評価したところ、性能が発揮できるとされる「0.7」を超える「0.791」の値を獲得。
これは約7割から8割程度の確率で正しく判定できる性能であり、冷凍マグロを超音波AIにより非破壊検査することに成功したとしている。
想定される利用シーン:
●水産商社が漁師からマグロを購入する際に、ハンディターミナル形式で数カ所かざすことで全体の鮮度を容易に検査可能。
●漁港などでベルトコンベア形式の検査に本技術を適用することで、冷凍マグロの鮮度について自動一括検査を実現。
今後の展開:
両者は今後、マグロの検体数を増やすことで超音波AI技術の精度向上を図るとともに、血栓や腫瘍などの鮮度不良以外の異常検知にも取り組んでいくとしている。
さらに、水産加工工場などの現場での実証実験を進めるとともに、冷凍物を扱う畜産業や医療・バイオ分野などへ本技術を幅広く応用する研究を行っていくとのことだ。