CBTがもたらす試験環境の変革。フロントランナー・プロメトリックが提唱するVUCA時代の試験システムとは

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これまで自身のスキル習得度を客観的に把握する方法として、資格試験の活用は多くのビジネスパーソンにとって受け入れられてきた。しかし今は未曽有の災害やパンデミックなど、想定外が立て続けに起きる「VUCA時代(※)」。

われわれビジネスパーソンにとって変化に柔軟に対応できるスキルや資格の獲得が急務になる中、従来のように一斉に限られた場所で、紙で同じ試験を受けるPBT(Paper Based Testing)の限界も明らかになりつつある。そこで大きな躍進をしているのが、1990年代に海外より導入された「CBT(Computer Based Testing)」だ。CBTとは、一定の期間内でいつでも全国に設置されたテストセンターで受験できるコンピューターを使った試験方式を指す。

今回は、このCBTが今の時代においてなぜ重要視されるのか、その新しい標準となりつつあるシステムの可能性について、世界180カ国以上6,000カ所の試験会場でCBTを実施するプロメトリック 日本法人CEOであるジェームズ・ヘーゲンブッシャー氏に話を伺った。

※ VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という四つのキーワードの頭文字を取った造語のこと。変化が激しく、あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、想定外の事象が発生する将来予測が困難な状態を指す。

時代の変化に合わせて注目されるCBT

VUCA時代となり、ビジネスパーソンにとって新しい知識やスキルを「学び直す」必要性が増してきていると実感している方も少なくないだろう。市場ニーズが目まぐるしく変化し、今まで通用していたスキルの陳腐化も起きやすい。へーゲンブッシャー氏によると、ビジネスパーソンに求められるスキルの専門性はどんどん高くなっており、スキルの取得に欠かせない資格試験も、日時と場所に制約のないCBTへと置き換わることが、多くのビジネスパーソンの可能性を広げると言う。

「ビジネスパーソンの資格試験の中には給与や役職に大きく影響を与えるものも増えています。CBTによる受験機会を提供することがビジネスパーソンの学び直しの支援につながると考えています」

プロメトリック株式会社 代表取締役 ジェームズ・ヘーゲンブッシャー氏

また、CBTを活用しているのはビジネスパーソンだけではない。現在の大学生はさまざまな資格の取得に非常に積極的だ。「大学生はベーシック教育のプラスアルファとしてCBTを活用しています」。今や大学教育を終えただけでは就職活動で周りの学生と差をつけることは難しい。そのため、専門性の高い資格を取得する傾向がある。

近年ではコロナ禍において、労働者の働き方が柔軟になり、仕事の場所や時間の多様化が進んでいる。そうした自分のスケジュールに合わせてCBTを受験し、資格を取得してスキルを身に付けることも十分に可能だ。また、学習のペースは一人一人異なるため、自身のニーズに応じて学習の計画も柔軟に設計できる。

PBTとCBTの主な違い

データドリブンで試験を改善、紙ではできないITを活用した仕組み

CBTが注目されているのは、日時や場所を自由に選択できる利便性だけではなく、試験の背後にあるITを活用したシステムの有用性にもある。

「CBTでは受験者からさまざまなデータを取得することができます。そのデータを基に、PDCAサイクルを回すことでより良いテストの制作を実現させることができるのです。また、CBTでは知識だけを問うナレッジベース問題だけではなく、技量を問うパフォーマンスベース問題も組み込むことができるため、テスト実施者のあらゆるニーズに柔軟に応じることが可能です」

同社は、CBTを主催する団体向けに管理者機能を提供している。そのダッシュボードでは予約データ抽出や受験資格者管理を効率的に行えるだけではなく、「受験者別データ」「分野別データ」「設問別データ」に大別されるさまざまな試験結果の詳細データを分析・検証することで、今後のテスト作成に関する迅速な判断の材料を提供している。これによって、継続的な試験制度の品質向上が可能だ。

自宅のPCで受験できるIBT(Internet Based Testing)でも、データドリブンな試験の改善は可能だ。しかしたとえ遠隔監視付きのIBTであっても、なりすましやカンニングなどの不正受験を完全に防止することは難しく、CBTと違って国家資格のような厳格な監視下で受験するようなことには不向きである。

実際、就職試験の「1次関門」として多くの企業が利用しているウェブテストは遠隔監視付きのIBT方式であるが、「替え玉受験」が行われ、2022年11月21日に初の逮捕者が出た事件は社会に衝撃を与えた。就職試験や国家資格試験のような公平・公正さが求められる試験にはCBTを用いるなど、試験の性質に応じて適切なテスト手法を採択していく必要が出てくるだろう。

CBTは、PBTやIBTと比べて非常にバランスがよい試験であり、社会に広く受け入れられているが、ヘーゲンブッシャー氏によれば、課題に感じる部分もあるという。

「今のCBTは、社会的ニーズに完全に応えられているとは言えません。背景には、ビジネススキルの多様化や国境を超えた資格試験のシステムの違い、十分なテストの標準化が行われていないことがあります。VUCA時代における試験制度としてCBTが確固たる地位を獲得するためには、まだまだやるべきことがあります」

CBTの「質」を向上させるプロメトリックのアクション

上述した課題に対して、プロメトリックは180カ国に進出するグローバルネットワークを有することを生かして、世界中のさまざまな社会的ニーズに応える形で、CBTの世界の新しいスタンダードを確立しようとしている。

「当社は二つのことに注力しています。一つ目は、心理学と統計学を組み合わせた『サイコメトリック分析』の専門家による試験結果の分析。彼らがバイアスのない非常に公平性の高い試験を作ってくれます。二つ目は、テストセンターの運用手順を徹底して標準化すること。受験者の本人確認や環境整備、セキュリティーについて、厳しく管理して誰にとってもフェアであるCBTを実施します」

プロメトリックが提供する試験実施〜分析・改善までのPDCAサイクル

プロメトリックが絶対に譲れないのが「試験の品質」だ。パートナーの中にはコストの削減を求める企業もあるが、絶対にクオリティーでは妥協しないという。同社のサービスは、世界180カ国以上にある約6,000カ所の試験会場で年間700万試験を実施している。蓄積したノウハウやナレッジは一朝一夕でまねできるようなものでないことは明白だ。

CBTを実施する上では、試験会場のセキュリティーに関して厳格かつ公平な運用が行われなければならない。プロメトリックの試験会場では、試験会場スタッフの教育などの運営品質や、試験の厳格性を確保するための標準化された会場環境が維持・改善されるように年1回の会場監査が実施されている。

最近では、AIによる本人確認を行う自動認証システムの運用を御茶ノ水テストセンターで開始するなど、最先端のテクノロジーの導入にも取り組む。このようなAIを用いた認証システムを、CBTが行われるテストセンターの受付に導入するのは日本で初めての試みだ。

このシステムは、運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなどのICチップ内または券面上の顔写真と、それを持参した受験者本人の顔とをAIエンジンによってマッチさせ、正当な受験者であることを認証するというものだ。

また、こうした受け付けのプロセスにとどまらず、テストセンターでのオペレーション全体を大幅に自動化・デジタル化し、「ほぼ無人で完全にデジタルなテストセンター」を目指す構想もあるという。

フロントランナーが提唱するCBTの役割

グローバルに展開するプロメトリックにとって、日本は非常に重要な市場であるという。その理由は「試験」に対する信頼性の確保が他国と比べて、非常に高いレベルで期待されているからだ。これからも上で述べたような新しいテストセンターをどんどん増設していく予定の同社だが、日本での運用が滞りなく進めば、CBTの新しいグローバルスタンダードを日本発で実現できるかもしれない。

「10〜20年後のCBTは、今とは異なる姿になっているかもしれません。スマホやタブレット等の携帯端末を活用したCBTの実施方法が一般的になり、試験時間も短く頻度は多くなると予想できます。そのような環境下でも、国家試験が行われるような進化をCBTはしていくことは間違いありません。当社としては、社会的要請の大きい分野のテストの実施体制を拡充させるとともに、CBTのフロントランナーとして業界をけん引し続ける覚悟です」

VUCA時代に求められるスキルセットを獲得するためにCBTが注目されていると冒頭で述べたが、CBTの品質が社会のインフラを支える重要な要素であることが取材を通じて分かった。PBTやIBTとの役割の違いを意識しながら、CBTが担うべき領域を見極め、世の中のニーズに応えていくことがプロメトリックの今後の挑戦となるだろう。

取材・文:師田賢人
写真:西村克也

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