スーパーアプリ運営、東南アジアのテック大手でも大規模レイオフへ

スタートアップから始まったテック業界のレイオフの波がメタやアマゾンなど大企業にも押し寄せている。

多くのレイオフ事例が北米・欧州発のものであるが、この波は東南アジアにまで及んでいる。

東南アジアではスーパーアプリを運営するテック大手がいくつか存在するが、その中でレイオフに踏み切る企業が増えているのだ。

以下では、グローバルでのレイオフ状況を俯瞰しつつ、東南アジアでのレイオフに関する最新動向を探ってみたい。

テック企業のレイオフ、グローバル動向

テック業界におけるレイオフが増加した理由はいくつか考えられる。

1つは、コロナ禍で急速に進んだデジタル化の揺り戻しによる影響だ。ロックダウンやリモートワークの拡大でグロサリー/フードデリバリーが普及したが、現在ではオフィスワークに復帰する企業が増え、需要は縮小傾向にある。これにより直接的にはデリバリー関連企業が、また間接的にはデジタル決済などのフィンテック企業が影響を受けている。

もう1つは、暗号通貨の暴落による影響だ。これにより、暗号通貨関連のテック企業が相次いでレイオフを行っている。

世界各地のテック企業のレイオフ情報をまとめているLayoffs.fyiの2022年11月30日時点のデータによると、2022年中にレイオフを実施した企業数は873社で、レイオフされた社員数は13万9,565人となっている。

同サイトでは、2020年3月からのレイオフデータを集計している。2020年3月から現時点までの累計データでは、レイオフした企業数は1,408社、レイオフされた社員数は23万5,556人となる。

つまり、2022年の数字は、2020年と2021年を合わせた数字を上回るものであり、2022年のレイオフ数が突出して多いことが分かる。

2022年の中で、テック企業のレイオフに関心が集まり始めたのは、ピーク時の評価額が456億ドルともいわれたフィンテック企業Klarnaが全社員の10%に相当する700人をレイオフした5月頃だ。

同時期には、ステーブルコイン「UST」の暴落に端を発する混乱が発生し、暗号通貨関連のテック企業が相次いでレイオフを行っている

現在これらの要因に、インフレとリセッション懸念が加わり、メタやアマゾンに見られるように、レイオフの波がスタートアップからテック大手にも波及している状況となる。

東南アジアにも波及、ユーザー数1億人、インドネシアのテック大手もレイオフ

デジタル化の揺り戻し、暗号通貨市場の低迷、インフレ、リセッション懸念は、東南アジアのテック業界にも影響を及ぼし始めている。

域内で1万人以上の社員を抱えるインドネシアのテック大手GoToは2022年11月18日、インフレやリセッション懸念などのマクロ経済状況の悪化を理由に、全社員の12%に相当する1,300人をレイオフする計画を明らかにした

GoToは、同国配車大手GojekとEコマース大手Tokopediaが2021年に合併して誕生したインドネシア最大規模のテック企業。2022年4月にインドネシア証券取引所に上場した。同社が運営する各種サービスの累計月間アクティブユーザー数は1億人以上、また参加店舗数は1,100万店、ドライバー数は200万人を超える。これらGoToの経済エコシステムの規模は、年間1兆ドルのインドネシアGDPの2%に相当するといわれ、東南アジアの中でも特に注目度が高い企業となっている。

しかし現在まで赤字が続き、財務上の改善の兆しが見えず、さらにここにきてマクロ経済要因で先行きが不透明化したことで、レイオフに踏み切らざるを得ない状況になったようだ。

株価は、上場当初400インドネシアルピア(IDR)をつけることもあったが、7月以降下落トレンドが続き、現在は151IDRまで下がっている。

2022年11月21日の7〜9月期の四半期決算報告では、同年1〜9月の純損失が12億9,000万ドルと前年同期比で75%拡大したことが報告されており、さらなるコスト削減が必要な状況であることが浮き彫りとなった。

シンガポールのスーパーアプリ「Grab」の動向

一方、GoToに並ぶ東南アジアのスーパーアプリ「Grab」では現在のところ、大規模なレイオフには至らないとの見方が優勢となっている。

Grabは、配車サービスから始まったアプリだが、現在ではフードデリバリー、Eコマース、支払いサービスなどを扱うスーパーアプリとして、東南アジア域内で広く利用されている。2021年末時点での社員数は8,800人。域内でも特に、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイ、ベトナムでの利用者が多い。

域内の経済活動が再開しつつある中で、純損失額は縮小傾向にある。直近の四半期報告では、純損失が5億7,200万ドルと前年同期の8億100万ドルから下がったことが報告された

域内では、シンガポール拠点のテック大手Seaの動向にも関心が集まっている。同社に関しては、今年に入りこれまでに3回のレイオフを実施していることが報じられてきたが、レイオフ数は公表されておらず、その規模は分からないままだった。

しかしThe Infomationは2022年11月、情報筋の話として、Seaが過去6カ月間でレイオフした社員数が全社員の10%に相当する7,000人以上であると報道。これより、レイオフの規模が明るみに出た格好となった。

SeaのEコマース部門Shopeeは、東南アジアだけでなく中南米市場で急速に市場シェアを拡大してきたが、ここにきて成長に急ブレーキがかかっている。ロイター通信は、Shopeeがアルゼンチンから撤退する可能性やチリでのオペレーション部門閉鎖の可能性があると伝えている。

東南アジアは、インフレやリセッション懸念が払拭されていないが、デジタル経済の成長に期待が集まる地域。レイオフが続くのか、欧米とは異なる成長軌道となるのか、今後の動きが注目されるところだ。

文:細谷元(Livit

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