11月16日、NASAが新型ロケット「Space Launch System(以下、SLSロケット)」を打ち上げ、アルテミス計画で使用する宇宙船「オリオン」の安全性を確認する無人月周回飛行試験「アルテミスⅠ」を実施しています。

21日にはオリオン宇宙船がフライバイを実施し、月から約130km地点まで接近しました。ミッション期間は約3週間。12月11日に地球に帰還・着水する予定です。

オリオン宇宙船の太陽電池アレイに取り付けられたカメラから撮影された写真 Credit : NASA

相乗りした衛星「オモテナシ」。月面着陸は断念するも、軌道上実験を目指す

SLSロケットには、アメリカ7機、日本2機、イタリア1機の合計10機の超小型衛星・探査機が相乗りしました。日本の衛星は、JAXAの超小型探査機「OMOTENASHI(オモテナシ)」と「EQUULEUS(エクレウス)」です。

OMOTENASHIのミッションは、月面着陸技術の開発・実証およびSLSロケットから切り離されてから月に向かう間の放射線環境の測定でした。

SLSロケットの打ち上げ後、OMOTENASHIはロケットからの分離には成功しました。ところが、機体が計画に反して高速で回転し、電波の強度が弱く受信しづらい状況であることがわかりました。機体の一面にのみ付属している太陽電池に太陽に当たらないため、発電ができず、十分な電力を確保できません。

月面着陸を実施するのに必要な軌道制御のラストチャンスは、11月21日23時55分頃。JAXAの運用チームは電波回復を目指していましたが、回復には至らず、OMOTENASHIは月面に向かう軌道制御を実施できないまま太陽公転軌道に入りました。

OMOTENASHIが高速で回転した原因は明らかになっていません。JAXAは「OMOTENASHI運用異常対策チーム」を設置し、原因究明や今後の対応、超小型衛星開発分野に資する知見等の取りまとめを行っていく予定です。

OMOTENASHIを通して得られた実績。会見資料より

月面着陸は断念したものの、OMOTENASHIの挑戦は続きます。OMOTENASHIの姿勢の推定から、2023年3月ぐらいから太陽電池に光があたる可能性があり、バッテリへの充電が開始されることが期待されています。最も太陽の方向を向くと推定されている7月で、地上との通信が届く距離に入っている見通しだといいます。

長期にわたっての運用は想定されていなかったため、機体の性能が維持できるかどうかは不透明であるものの、JAXAは地球磁気圏外での放射線環境測定などの各種実験を行う考えです。

関連して、日本発のスタートアップ・ispaceは11月30日に月着陸船を打ち上げる予定で、月面着陸を巡る日本の取り組みには、引き続き注目が集まりそうです。

「エクレウス」は順調に運用中。水推進エンジンによる軌道制御にも成功

一方、OMOTENASHIとともにSLSロケットに相乗りした、超小型探査機「EQUULEUS」は順調に飛行を続けています。

超小型探査機EQUULEUSのイメージ Credit : 東京大学

EQUULEUSのミッションは、地球-月系のラグランジュ点L2点への飛行を通じて、太陽-地球-月圏での軌道操作技術を実証することです。

JAXAによると、EQUULEUSは11月22日に計画通り月フライバイを実施し、ラグランジュ点L2点へ向かう軌道に投入されたことが確認されました。JAXA宇宙科学研究所 学際科学研究系 教授兼東京大学大学院 船瀬龍准教授は、

「打ち上げ直後わずか1日のチェックアウト運用の後、すぐに月フライバイに必要な軌道制御を完遂・成功させなければならないという難しい運用をやってのけたEQUULEUS運用チームを誇りに思います」

とコメントを発表しました。今後は約1年半かけてラグランジュ点を目指します。

また、EQUULEUSは水を蒸気として排出する、いわゆる「水推進エンジン」が採用されています。水を推進剤とする推進系による地球低軌道以遠での軌道制御成功は世界初です。

宙畑メモ
衛星の推進剤として主流のヒドラジンは、毒性があり取り扱いに注意が必要だというデメリットがありました。

水推進剤は、衛星の小型化やコストの削減につながることが期待されています。今回、水推進エンジンがEQUULEUSで活用されたことで、さらに衛星事業者からの注目を集めるのではないかと期待されます。

今週の宇宙ニュース

参考

Artemis I Liftoff

NASA Artemis I 搭載JAXA超小型探査機OMOTENASHI及びEQUULEUSの状況について

超小型探査機OMOTENASHIの今後の運用と対策チーム設置について

JAXA超小型探査機EQUULEUSの初期運用期間終了について