リクルートマネジメントソリューションズは、新型コロナウイルスの発生以降、現在も同じ会社で勤務しており、従業員規模300名以上の企業に勤務の正社員493名に対し、2022年9月に「職場のシェアド・リーダーシップに関する実態調査」を実施し、その調査結果を公表した。

さまざまな環境変化にすばやく対応することが求められる今日の企業において、職場のリーダーが強い影響力を発揮するだけでなく、メンバーがお互いに影響力を発揮し合う「シェアド・リーダーシップ」が注目されている。

シェアド・リーダーシップが職場で実現すれば、ビジネスの正解がない時代に1人の組織上のリーダーだけが方向を示すことの限界を緩和することができるだろうと期待されているという。

一方で懸念点もあることから、「シェアド・リーダーシップ」に関する問いを明らかにするため、リクルートマネジメントソリューションズは同調査を実施したとのことだ。

■8割以上がシェアド・リーダーシップは「重要」と回答

職場でのシェアド・リーダーシップの重要性について、考えを尋ねたところ、「とてもあてはまる(9.7%)」「あてはまる(37.5%)」「ややあてはまる(36.9%)」の合計は84.2%で、8割以上がシェアド・リーダーシップを重要だと回答した。

シェアド・リーダーシップの重要性についての考え

■職務特性によってはポジティブ回答が9割以上

シェアド・リーダーシップを重要だと考える傾向は、回答者の年代、職場の形態、職場人数の違いによって、分布に有意な差は見られなかったが、職務の特徴により差が見られた。

職場で主に行われる職務の特徴として、「自律性(創意工夫の余地)」「相互依存性(協働の必要)」「多様性要求(多様な意見の必要)」が高いと回答した高群は、そうでない低群と比べて、シェアド・リーダーシップが重要だと考える割合が有意に高く、「とてもあてはまる+あてはまる+ややあてはまる」が、9割を上回っている。

シェアド・リーダーシップの重要性についての考えと職務特性

■統制の必要性が高い職場ではシェアド・リーダーシップに否定的な意見も

シェアド・リーダーシップの重要性を高いと考える、あるいは低いと考える理由を、具体的に調査。主なものを抜粋したものが以下の通りとなる。

シェアド・リーダーシップについての考えに対する理由

■半数以上のメンバーがリーダーシップをとる職場は約5~6割

シェアド・リーダーシップの測定方法はいくつかあるが、今回は、先行研究を参考に、3種類のリーダーシップについての項目を、それぞれどのくらいのメンバーがシェアしているかを次のような選択肢で調査。

変革型リーダーシップ(目的や高い理想を掲げて行動し、周囲の挑戦を喚起する)、支援型リーダーシップ(周囲の自主的行動やチームワーク、自己啓発を促す)、統率型リーダーシップ(目標や指示命令を出す)の3項目について、それぞれ4段階で回答を得た。

・9項目のうち、自職場の半分以上の人が行っている割合が多かったのは支援型リーダーシップの「5.職場内でコミュニケーションが活発に行われるよう促している(62.3%)」となった。

次いで変革型リーダーシップの「1.職場の目的について積極的に意見を述べる(57.4%)」、統率型リーダーシップの「9.他のメンバーの仕事にミスや誤りがないかチェックする(56.0%)」という結果に。

上位3つが、3種類のリーダーシップそれぞれに該当し、メンバーのリーダーシップにも、さまざまなタイプがあることが分かる。

また、少なかったのは、統率型リーダーシップの「8.他のメンバーの仕事の目標を決定して伝える(47.3%)」「7.他のメンバーの仕事のやり方について指示を行う(49.3%)」と、支援型リーダーシップの「4.他のメンバーが新しいことを学ぶよう促している(48.5%)」となっている。

特に「8.他のメンバーの仕事の目標を決定して伝える」は、「ほとんどのメンバーは行っていない」が約2割見られ、これらは公式のリーダーが行うことが多いとしている。

シェアド・リーダーシップの実態

■シェアド・リーダーシップに影響する条件

シェアド・リーダーシップの発揮を示す値として、メンバーのリーダーシップ行動9項目を平均して1つの尺度として用いて、リーダー、メンバー、風土の特徴との関係を確認。

その結果、「リーダーのリーダーシップ(変革型、支援型、統率型)」「メンバーの知識・スキルの高さ」「企業の包摂的風土」において、シェアド・リーダーシップの発揮との関係が見られた。

リーダーのリーダーシップは、メンバーのリーダーシップ項目をリーダー向けの表現に調整したものを用いて測定し、「変革型リーダーシップ(3項目6件法)」「支援型リーダーシップ(同)」「統率型リーダーシップ(同)」とリーダーシップタイプごとに尺度化して用いている。

いずれのリーダーシップにおいても、高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られ、どのタイプのリーダーシップも、職場や状況に応じてうまく発揮されれば、メンバーのリーダーシップを促すといえるという。

一方、メンバーにおいては、「保有している知識・スキルが総じて高い(単項目、6件法)」の高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られた。

それぞれのメンバーが知識・スキルを高めることは、シェアド・リーダーシップの発揮につながると考えられ、「異なる視点を大事にする文化がある」「従業員の意見を積極的に取り入れる」といった「企業の包摂的風土(6項目6件法)」も、高群、低群で、シェアド・リーダーシップの値に有意な差が見られている。

シェアド・リーダーシップとリーダー、メンバー、風土の特徴〈n=493〉

■リーダーに求めるのは明確な指示と意見の傾聴

シェアド・リーダーシップの発揮とリーダーのリーダーシップの関係については、別の観点からも調査を行い、「一般にリーダーに望むこと」について、12項目から上位3つまで選択してもらった。

その結果、シェアド・リーダーシップ高群、低群ともに、「2.指示が明確である(高群49.4%、低群57.5%)」「12.メンバーの話に耳を傾ける(高群50.2%、低群55.5%)」の項目が高くなっている。

シェアド・リーダーシップの発揮が高い職場でも、そうでない職場と同様、リーダーに対して、「明確な指示を出すこと」と「メンバーの話を傾聴すること」の両方が望まれているという結果は、先の「変革型」「支援型」「統率型」リーダーシップがいずれもシェアド・リーダーシップを促進する、との結果と呼応するとのことだ。

なお、シェアド・リーダーシップ高群が低群に対して有意に高かった項目は1つあり、「10.多様性を重んじる(高群19.2%、低群9.4%)」となった。

リーダーに望むこと

■職場パフォーマンスに効くリーダーシップ

「成果/貢献」、「変革/実行」、「やりがい/成長」の値は、いずれも、シェアド・リーダーシップ高群と低群間に、有意な差が見られている。

また、リーダーのリーダーシップの程度も加味して確認したところ、リーダー、メンバーともにリーダーシップが発揮された群は、『成果/貢献』『変革/実行』『やりがい/成長』のいずれにおいても、他群と比べ最も高い値を示した。

【左】シェアド・リーダーシップと職場のパフォーマンス
【右】リーダーとメンバー双方のリーダーシップとパフォーマンス(n=493)

■リーダーとメンバーが相互に影響し合う職場を

リーダーの重要性に関する2項目について「6.とてもあてはまる」から「1.まったくあてはまらない」の6段階で調査。

シェアド・リーダーシップの重要性についての回答の高群と低群別に平均を見ると、「組織業績はリーダーの良し悪しで決まる」「難しい状況では、リーダーが明確な方針を出すことが大事だ」のいずれも、シェアド・リーダーシップの重要性_高群の方が有意に高い結果となった。

リーダーの重要性についての考え

【調査概要】

<参考>
リクルートマネジメントソリューションズ『職場のシェアド・リーダーシップに関する実態調査