ブロックチェーン技術を使った分散型の新たなインターネット世界「web3」の本格到来が近づいている。web3といえば、暗号資産やNFTの文脈で語られることが多いが、ソーシャルメディア領域でも新たなサービスが次々に誕生している。近い将来、FacebookやTwitterに匹敵する規模となる可能性を秘めた、web3版ソーシャルメディアの注目株を見ていこう。
Web2.0時代のソーシャルメディアは中央集権的な寡占市場
FacebookやTwitter、Instagram、YouTubeといったソーシャルメディアは、まさに現在のWeb2.0時代を代表する存在であり、同時にweb3がアンチテーゼとする象徴でもある。
ソーシャルメディア上では誰もが発信者であり、双方向のコミュニケーションが可能になる一方で、全てが特定のプラットフォーム上で行われている。そのため、プラットフォームの持ち主であるGoogle社(YouTube)やTwitter社、Meta社(Facebook, Instagram)といった一握りの巨大企業の元に、世界中の人々の個人情報や行動履歴が集まっているのが現状だ。
このような超・中央集権的構造には、プラットフォーム運営側による情報操作が簡単にできてしまう点や、サイバー攻撃等を受けた際の情報漏洩リスクが甚大であるなどの問題点が指摘されている。
分散型でユーザー主体のweb3版ソーシャルメディア
現在のソーシャルメディアの中央集権的な在り方と真っ向から対立するのが、web3版のソーシャルメディアだ。ブロックチェーン技術を使ったweb3の分散型ネットワーク上では、特定の場所に情報が集約されることはなく、強力な権限を持った運営者も存在しない。
ユーザー側が大きなオーナーシップを持ち、対等な立場でコンテンツ管理や意思決定に携わるのが、web3版ソーシャルメディア共通の特徴だ。
すでにローンチされ注目を集めているweb3版ソーシャルメディアのサービスを、いくつか見ていこう。
Facebookのweb3版「Minds」
まずはかつて「アンチフェイスブック」とも呼ばれた「Minds(マインズ)」。2015年にローンチされ、web3業界では古株ともいえるサービスだ。インターフェースや機能はFacebookと似ているものの、Mindsはオープンソースで作られており、その運用方法も既存のソーシャルメディアとは大きく異なる。
Mindsは“Take back control of your social media”「ソーシャルメディアのコントロールを(ユーザーの手に)取り戻す」ことを掲げ、ユーザー側にコンテンツ管理の権利が付与されている。
たとえばあるコンテンツが適切か不適切かを判断するのは、運営側ではなく、毎回ランダムに選ばれる12名のユーザーだ。この12名の「陪審員」の投票により、コンテンツの可否が決定される仕組みとなっている。
またMindsでは、人気コンテンツを作ったり友人を招待するといった貢献を行うと、「MINDSトークン」を獲得できる仕組みになっている。トークンはMinds内で、コンテンツクリエーターに「投げ銭」をして応援したり、自分のコンテンツの露出を上げることなどに使うことができる。
サービス運営側が企業から広告料を得てユーザーに広告を流すのではなく、ユーザーそれぞれがトークンを使って個人広告を打つような仕組みで、まさに非中央集権型の構造と言えるだろう。
YouTubeのweb3版「Odysee」
続いてYouTubeのweb3版とも言われる動画プラットフォームOdysee(オディシー)。2020年末ローンチの新しいサービスだ。
動画クリエイターたちにとって最も恐ろしいのは、YouTube側の検閲やAI判定によって、一方的に自分のチャンネルが閉鎖されたり、コンテンツが削除されたりすることだ。
Odyseeではブロックチェーン上にコンテンツが格納されるため、クリエイターのチャンネルが一方的に削除されるようなことはない。そもそも運営側がコンテンツを検閲するという体制自体がなく、コミュニティによってガバナンスが行われている。
またコンテンツはP2P方式で共有されるため、運営側のサーバーダウンによってサービスが全停止するようなリスクもなくなっている。
音楽配信プラットフォームのweb3版「Audius」
SpotifyやApple Musicに代わるweb3版音楽配信プラットフォームとして注目されているのがAudius(オーディウス)だ。
Audiusが目指すのは、よりアーティストファーストな音楽業界。これまでの音楽市場では、利益の12%程度しかアーティストに支払われず、大部分がレコードレーベルやプラットフォームによって中抜きされる構造となっていた。
Audiusではアーティストがブロックチェーン上に直接音楽をアップロードし配信・管理する仕組みで、レコードレーベルのような中間業者は存在しない。そのためアーティストは、再生回数やヒットチャート順位に応じた正当な還元を直接受け取ることができる。
またレーベルに所属していない無名のアーティストであっても、自分の音楽を配信することが可能になっている。
ブログプラットフォームのweb3版「Mirror」
記事を書いて個人が収益を得られるブログプラットフォームとして日本では「note」が知られているが、世界的には「Medium」が有名だ。そのMediumのweb3版と言われているのが「Mirror(ミラー)」。
Mirrorでは、クリエイターが記事を公開する際にチェックボックスにチェックを入れるだけで、簡単に自分の記事をNFT化することができる。NFTの供給量と価格はクリエイターが自由に設定可能だ。
またMirrorの大きな特徴は、NFTを使ったクラウドファンディングの仕組みが導入されていること。クリエイターはコンテンツ作成のプロジェクトを立ち上げ、暗号資産ETFにより資金を調達する。支援者への返礼としては、独自のERC20トークンを発行して渡すことができる。
記事執筆だけでなく、ドキュメンタリー映画製作のクラウドファンディング成功例もあり、アイディアを共有し資金調達することのできるプラットフォームとして注目を集めている。
Twitterのweb3版「Mastodon」
最後にTwitterと似た短文投稿型SNSの「Mastodon(マストドン)」。
ドイツ発のMastodonは、中央集権型の既存ソーシャルメディアと異なり、管理者も設置場所も異なる多数のサーバーで運用されている。ユーザーは自分で所属サーバーを選び(新たに自分でサーバーを設置することも可能)ネットワークに参加する仕組みだ。
Mastodon全体の利用規約のようなものはなく、全て各サーバーの自治にまかされている。異なるサーバーに属するユーザー間でもやり取りをすることができ、所属サーバーを移動することも可能だ。
奇しくも10月末にイーロン・マスクがTwitterを買収した直後から、Mastodonへのアクセスが急増し、ニュースになっている。Twitterの今後を不安視したユーザーが、Mastodonへ流入し始めているようだ。
「アルゴリズムのオープンソース化」や「運営による検閲やアカウント凍結といった介入を弱める」などイーロン・マスクが掲げるTwitter改革案自体は、web3のコンセプトにも共通する点が多い。
しかし、「イーロン・マスクのように強烈な個性や思想を持った経営者1人によって、運営するサービスの方針が大きく変わる」という構造自体が、中央集権型の現Web2.0ソーシャルメディアの代表的な問題点であり、分散型のweb3がアンチテーゼとするものなのだ。
皮肉なことだが、イーロン・マスクによるTwitter買収は、web3版ソーシャルメディアの持つ「運営側の経営方針や思想に影響を受けない」という特性が爆発的に多くの人に認知され、ユーザー移行が進む大きな転換点となるかもしれない。
文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit)