QOLに直結。健康寿命の延伸に欠かせない若年層からの“オーラルケア”の重要性

人生100年時代を生きる私たちは、健康寿命を延ばすために予防医療(ヘルスケア)への意識・関心をより一層高めていく必要がある。健康をつかさどる要素はたくさんあるが、今回注目したいのは歯とお口の健康だ。

毎年の歯科健診を義務化し、すべての国民の健康寿命を延ばす取り組みとして、政府が「国民皆歯科健診制度」の導入を検討していることがわかった今、改めて歯とお口の健康について考えてみたい。特に若者は歯とお口の健康に対する意識が低く、半数近くに口腔(こうくう)機能が十分に発達していない疑いが持たれていることはご存知だろうか。

公益社団法人日本歯科医師会が全国の15歳〜79歳の男女1万人を対象に行った「歯科医療に関する一般生活者意識調査」(2022年)の結果をもとに、将来のQOL(生活の質)をも左右する歯とお口の健康の重要性についてみていく。

若年層ほど低い傾向にある、歯とお口の健康への意識

健康への高い関心を持っている人もいるが、歯とお口の健康については後回しになっているケースも多いのではないだろうか。しかし、歯とお口の健康は日頃のオーラルケアの延長線上にあり、私たちの身体にさまざまな影響を及ぼすものだ。超高齢化社会を健康的に過ごすためにも、早い段階から目を向けてケアしていくべきである。

しかし「歯科医療に関する一般生活者意識調査」によると、若年層であるほど歯とお口の健康に対する意識が低い傾向にあることがわかる。

例えば「歯周病の予防には定期的な管理が必要」に関して、全体の4割弱(36.3%)が必要だと認識しているようだが、10代では19.5%、20代では24.0%と低い結果が見られた。また「糖尿病になると歯周病になりやすく、歯周病になると糖尿病になりやすい」に関しては、10代が10.0%、20代が11.7%と、いずれも1割程度しか認知しておらず、口腔に関わる健康問題について若年層の意識が低いことがわかる。

それに比例するように、10代・20代と若年層であるほど「将来歯を失うかもしれないこと」をイメージできておらず、歯科医院にて定期的なチェックを行っている割合は4割弱と、年代別に見ると一番低い結果が示された。

10代の半数、20代の4割が「口腔機能発達不全」の疑いあり

若年層の歯とお口の健康に対する意識の低さが見られたが、以下の6つの症状を調査したところ、10代・20代にもすでに憂慮する健康問題があるようだ。今回公開された「歯科医療に関する一般生活者意識調査」のなかでも注目すべき問題として取り上げられている。

① 滑舌が悪くなることがある
② 口の中が渇きやすい
③ むせやすい
④ 食べこぼしをすることがある
⑤ 食べていて飲み込めないことがある
⑥ 飲み込みにくい

15歳〜79歳の男女1万人に聞く、「歯科医療に関する一般生活者意識調査」より

どれか1つでも当てはまる人を算出すると、10代では48.3%と半数が、20代では40.6%と4割が何らかの症状を経験しており、「口腔機能発達不全」の疑いがある結果が示された。「口腔機能発達不全」とは、食べる・話す・呼吸するといった口腔に関わる機能が十分に発達していない状態を表す。

15歳〜79歳の男女1万人に聞く、「歯科医療に関する一般生活者意識調査」より

原因について日本歯科医師会に問い合わせたところ、子どもがミルク・離乳食・食事を取る際に能動的に摂取するのではなく、親が必要以上に補助して与えてしまうことや、日常的に鼻呼吸ではなく口呼吸をしてしまうことなどが原因となり、口腔機能が十分に発達しないまま成長してしまうのだという。

また、上記の症状のほかに「噛む力」にも問題ありと思われる結果がある。

食事に関して、2人に1人が「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」と回答。4人に1人が「子どもの頃から硬い物を食べる習慣があまりなかった」と答えており、現代人の“硬い食べ物離れ”が指摘されている。なかでも10代の回答を見ると「硬い食べ物より柔らかい食べ物が好き」が53.6%、「硬い物を食べるときに噛み切れないことがある」が40.3%と、ほかの世代に比べ「噛む力」に対する懸念が最も多い結果となった。

こうした幼少期からの習慣や食の好みが若者の「口腔機能発達不全」を引き起こす要因となっているようだ。日本歯科医師会常務理事の小山茂幸氏によると、口腔機能が十分に発達していないか、正常に獲得できない状態のまま年齢を重ねると、オーラルフレイル(口腔機能の衰え)だけではなく、全身の老化を加速させる要因のひとつになり得るため注意が必要だという。

日頃から意識したい適切なオーラルケア

むし歯や歯周病が原因となり歯を失ってしまった場合、付随してさまざまなものを失くしてしまう可能性がある。「食事の楽しみ・おいしい物を食べる機会」が57.4%、「見た目の若さ」が48.3%、「全身の健康」が36.7%と、多くの方が歯以外のものを失くす可能性があることを認識している。若年層では特に「笑顔」「メンタルヘルス」「QOL(生活の質)」を失くしたくないと考えているようだ。

誰もがおいしいく食事を頂き、若々しさを保ち、健康的に笑顔あふれる生活を送りたいもの。そのためには歯とお口の健康にもしっかりと向き合う必要がある。まずは何と言っても毎日の正しい歯みがきが必要不可欠だろう。そして小山氏曰く、口腔機能の低下を防ぐためには、舌を含めた口周りの筋トレが重要だという。口腔機能を守るためのトレーニングとして以下の3点を紹介している。どれも日頃から簡単に取り入れられるものだ。

30回の咀嚼(そしゃく)

まずは、食事の際によく噛むことから。目安は30回。

口腔体操

口内を清潔に保つ唾液の分泌と、スムーズな舌の動きや飲み込む力を養うには口腔体操をおすすめしている。特に「口腔機能発達不全」が疑われる場合は、口腔体操を積極的に取り入れると良いだろう。

ブクブクうがい/ガラガラうがい

うがいによって口腔内を清潔に保つことは、感染症予防につながることが知られてきているが、口腔機能を守るうえでもうがいは有効であるようだ。頬をふくらませて行うブクブクうがいや、喉の奥で行うガラガラうがいが、舌や頬の筋力を高める働きがあるという。そのほか、早口言葉やガム(砂糖不使用)を噛むことも効果的だと伝えている。

人生100年時代の超高齢化社会。健康的に長生きするためには、自分の身体が抱える健康課題を知り、適切にケアしていくことからはじまる。特に歯とお口の健康は、予想以上に私たちの身体にさまざまな影響を及ぼす。日頃の適切なオーラルケアに加え、むし歯や歯周病がないか、口腔機能が正常であるか、かかりつけ歯科医を見つけて定期的に歯とお口の健康をチェックしていきたいものだ。

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