物価高騰による実質賃金の減少などを背景として、 連合(日本労働組合総連合会)は2023年の春季労使交渉で、28年ぶりの高水準となる5%の賃上げを求める方針を固めたという。また経団連は2023年の春闘に臨むにあたり、物価動向を最重視して、手当や賞与、一時金などを含めた賃上げを呼びかけるとのことだ。

一方で政府は、10月28日に閣議決定された総合経済対策において、物価上昇をカバーする賃上げの実現を目標に掲げた。こうしたなか、食料品や光熱費などの相次ぐ値上げに対応するため、従業員の生活支援を目的とした「特別手当」を支給する企業が出てきている。

そこで、帝国データバンクは、インフレ手当についてアンケートを実施。

<アンケート結果(要旨)>

1.物価高騰をきっかけとして従業員に対して特別手当(インフレ手当)を「支給した」企業は全体の6.6%となった。また「支給を予定」は5.7%、「支給を検討中」は14.1%となり、全体の4社に1社(26.4%)がインフレ手当に取り組んでいる。他方、「支給する予定はない」は63.7%

2.インフレ手当のうち、「一時金」の支給額(予定・検討中含む)の内訳をみると、「1万円~3万円未満」が27.9%で最も多く、平均支給額は約5万3,700円。「月額手当」(同)は、「3千円~5千円未満」と「5千円~1万円未満」が30.3%で最も多く、平均支給額は約6,500円

インフレ手当を支給した企業は6.6%、予定や検討中も含めると全体の4社に1社が取り組む

物価高騰をきっかけとして、従業員に対して特別手当(インフレ手当)の支給を実施または検討しているか尋ねたところ、「支給した」企業は全体の6.6%という結果に。

また「支給を予定している」は5.7%、「支給していないが、検討中」は14.1%となり、合わせると全体の4社に1社(26.4%)がインフレ手当に取り組んでいる。他方、「支給する予定はない」は63.7%となった。

既に支給した企業からは「物価の高騰が続き、社員やパート社員の生活が困窮しないように一時金を全従業員に支給」(事業サービス)と、記録的な円安水準や原材料価格の高騰を背景に、食料品などの値上げラッシュが続くなか、実質賃金の減少を補うために支給するとの声が聞かれたという。

また「物価高騰のなかで少しでも社員のモチベーションアップにつながればよい」(工業用薬品卸売)、「食費・光熱費などの負担増は現実問題であり、人材流出の防止策としても実施する予定」(建物売買)とあるように、従業員のモチベーションアップや人材定着といった狙いもうかがえるとのことだ。

支給する予定はない企業からは、「インフレで会社の営業収支が悪化しており、まずはそちらの対策が優先と考えている」(建築工事)と、企業の仕入れコストが上昇傾向にあるなかで自社業績が悪化し、従業員へ金銭的な補填をする余裕がないとの声も聞かれた。また「特別手当としてではなく、4月に実施する定例の賃金改定時に賃上げを予定」(自動車操縦装置製造)というように、特別手当でなくベースアップにより、物価上昇への対応を予定する企業もあった。

平均支給額は一時金が5万3,700円、月額手当が6,500円

インフレ手当の支給方法および支給額(予定・検討中の企業を含む、複数回答)について尋ねたところ、インフレ手当に取り組む企業のうち「一時金」と回答した企業は66.6%、「月額手当」は36.2%となった。企業からは「月額手当にしてしまうと、手当を下げねばならない時にインパクトが大きくなるので、賞与に追加して今をしのいでもらいたい」(鉄鋼卸売)との声が聞かれた。

そのうち「一時金」の支給額は、「1万円~3万円未満」が27.9%で最も多く、「3万円~5万円未満」および「5万円~10万円未満」が21.9%。「10万円~15万円未満」は9.1%、「15万円以上」は7.3%と、10万円以上を支給する企業は15%超にのぼったとのことだ。

「一時金」の平均支給額は約5万3,700円。企業からは「冬季賞与にプラスして0.5カ月分のインフレ手当を予定」(ソフト受託開発)と賞与にプラスして支給する声が寄せられたという。

「月額手当」の支給額は、「3千円~5千円未満」と「5千円~1万円未満」が30.3%で最も多く、「3千円未満」(26.9%)が続き、1万円未満が全体の9割に。「1万円~3万円未満」は11.8%、「3万円以上」は0.8%となった。「月額手当」の平均支給額は約6,500円。月額手当を選択した企業からは、燃料価格が高止まりするなかで「通勤手当以外にガソリン高騰による補填分として支給」(機械修理)との声が一部で聞かれたという。

「インフレ手当を支給・予定・検討中」の企業の声

【一時金を支給】
夏季賞与、決算賞与、冬季賞与にて支給実施。社員からは感謝の声が多かった(貸事務所)
今期は思いのほか業績が良かったため、決算賞与を初めて出した。物価高騰が金額算出の根拠にもなった。一人1万円×12か月で12万円、全員一律(印刷)

【一時金・月額手当を検討中】
基本給の大幅な増額はできないが、一時金か期間限定での支援は考えている(成形材料製造)

【月額手当を支給】
2022年8月より通勤手当の20%増額を2023年3月支給分まで期限付きで実施。それ以降の対応は今後検討していく(工業用ゴム製品製造)

【月額手当を検討中】
会社の業績が上がるなかで、利益を還元することも経営者の責任と思い検討中。毎月支給する形で5,000円程度(化学製品卸売)
インフレ率を2%程度と仮定して、給与に対する相当額を支給する予定(ソフト受託開発)

「インフレ手当を支給しない」企業の声
●会社自体も電気代などのコストが上昇しており、それら全てを製品に価格転嫁できていないなかで、社員に対して手当を出すことは難しい(金属プレス製品製造)
●今年の昇給額を例年より高めに設定しているので、特別手当は考えていない(肉製品製造)
●一時金なら賞与、月額なら基本給に含めたほうが効果的と感じる。一過性の手当の場合は手当がなくなる時期の影響が心配(ソフト受託開発)

同アンケートの結果、インフレ手当を「支給した」企業は全体の6.6%となった。「支給を予定」(5.7%)と「支給していないが、検討中」(14.1%)を含め、全体の4社に1社がインフレ手当に取り組んでいる。支給方法(予定・検討中含む)は「一時金」が取組企業の66.6%、「月額手当」が36.2%で、平均支給額(同)は「一時金」が約5万3,700円、「月額手当」が約6,500円となったという。

手当支給の目的として、物価高騰で実質賃金が低下する従業員の生活を下支えする、モチベーションアップ、人材の定着があげられる。ただし本来、物価の上昇分は特別手当でなくベースアップとして賃金に反映するのが望ましいとのことだ。

帝国データバンクが実施した調査では物価動向などを理由に5割を超える企業で賃金改善を見込んでいた一方で、コスト上昇分をすべて販売価格に転嫁できず収益が低迷していることが、ベースアップや手当支給に踏み切れない1つの要因となっている。このため政府は、企業が価格転嫁しやすい環境の整備や賃上げを促す支援策の実行などが求められるという。