スーパーコンピュータ「富岳」、処理速度の国際的ランキングにて6期連続の世界第1位を獲得 「TOP500」では2位に

理化学研究所(理研)と富士通(富士通)が共同で開発し、2021年3月より共用を開始したスーパーコンピュータ「富岳」は、世界のスーパーコンピュータの性能ランキングで、産業利用など実際のアプリケーションでよく用いられる共役勾配法の処理速度の国際的なランキング「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」で6期連続の世界第1位を獲得したと発表した。

なお、「TOP500」では「Frontier」(米国)が第1位となり「富岳」は第2位となった。また人工知能(AI)の深層学習で主に用いられる単精度や半精度演算処理に関する性能ベンチマーク「HPL-AI」においては「Frontier」(米国)が第1位となり「富岳」は第3位であったとのことだ。

これらのランキングは、現在米国テキサス州ダラスのケイ・ベイリー・ハッチソン・コンベンション・センター・ダラスおよびオンラインで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「SC22」において、11月14日付(日本時間11月15日)で発表されるという。

「HPCG」における6期連続の第1位獲得および「TOP500」の第2位と「HPL-AI」の第3位の性能は、引き続き「富岳」の世界最高の総合的な性能を示すものであり、新たな価値を生み出す超スマート社会の実現を目指すSociety 5.0において、シミュレーションによる社会的課題の解決やAI開発および情報の流通・処理に関する技術開発を加速するためのHPCインフラの役割を「富岳」が十分に発揮できることを実証するもの。

スーパーコンピュータ「富岳」

1.「富岳」測定結果

(1)HPCG
「HPCG」の測定には「富岳」の432筐体(158,976ノード)を用いて、16.00PFLOPS(ペタフロップス)という高いベンチマークのスコアを達成し、今回「富岳」は6期連続の世界第1位を獲得。この結果は、「富岳」が産業利用などにおいて実際のアプリケーションを効率よく処理し、高い性能を発揮することを証明しているという。

なお、2022年11月時点の「HPCG」のランキング第2位は米国の「Frontier」で、測定結果は14.05PFLOPS。すなわち、今回「富岳」は第2位に約1.1倍の性能差をつけたことになるとのことだ。

<関連リンク>
HPCGランキング:https://www.top500.org/lists/hpcg/
HPCG:https://hpcg-benchmark.org

(2)TOP500
「TOP500」リストに登録した「富岳」のシステムは、432筐体(158,976ノード)の構成で、ランキングの指標となるLINPACK性能は442.01PFLOPS(ペタフロップス)、実行効率は82.3%で世界第2位であったという。

なお、2022年11月時点の「TOP500」リストのランキング世界第1位は米国の「Frontier」で、測定結果は1,102PFLOPS。

<関連リンク>
TOP500ランキング:https://www.top500.org/lists/top500/
TOP500:https://www.top500.org/

(3)HPL-AI
「HPL-AI」は、倍精度演算器の能力を測定する「TOP500」や「HPCG」などと異なり、AIの計算などで活用されている単精度や半精度演算器などの能力も加味した計算性能を評価する指標として、2019年11月に制定されたベンチマーク。
この測定には「富岳」の432筐体(158,976ノード)を用い、2.004EFLOPS(エクサフロップス)のスコアを記録し世界第3位となった。

なお、2022年11月時点の「HPL-AI」のランキング第1位は米国の「Frontier」で、測定結果は7.9EFLOPS。

<関連リンク>
HPL-AI:https://hpl-mxp.org/

2.スーパーコンピュータのランキングについて

(1)HPCG
「TOP500」は、密な係数行列から構成される連立一次方程式を解く、重要な性能指標であり、演算能力を主に評価するベンチマークとして長年親しまれてきたという。しかし、プロジェクトが発足した1993年から20年以上が経過し、近年、実際のアプリケーションで求められる性能要件との乖離やベンチマークテストにかかる時間の長時間化が指摘されているとのことだ。

そこで、ジャック・ドンガラ博士らにより、産業利用など実際のアプリケーションでよく使われる、疎な係数行列から構成される連立一次方程式を解く計算手法である共役勾配法を用いた新たなベンチマーク・プログラム「HPCG」が提案されたという。

2014年6月のISC14で世界の主要なスーパーコンピュータ15システムでの測定結果の発表を経て、同年11月に米国ニューオーリンズで開催されたHPCに関する国際会議SC14から正式なランキングとして発表されたとのことだ。

(2)TOP500
「TOP500」リストは、LINPACKの実行性能を指標として世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年に発足し、スーパーコンピュータのランキングを年2回(6月、11月)発表しているという。

LINPACKは、米国のテネシー大学のジャック・ドンガラ博士によって開発された行列計算による連立一次方程式の解法プログラムであり、「TOP500」リストはこのプログラムを処理する際の実行性能を指標としたランキング。

多くの科学技術計算や産業アプリケーションで使用される倍精度浮動小数点数の演算能力を測ることで、コンピュータの計算速度ランキングを決定。なお、同ベンチマークで高いスコアを出すためには、大規模ベンチマークを長時間測定する必要がある。そのため、LINPACKによる高いスコアは、計算能力と信頼性を総合的に示していると一般的に言われているとのことだ。

(3)HPL-AI
「TOP500」と「HPCG」では、連立一次方程式を解く計算性能でランクをつけてきたという。どちらも科学技術計算や産業利用の中で多く用いられてきた倍精度演算(10進法で16桁の浮動小数点数)のみで計算することがルールに定められていたとのことだ。

近年、GPUや人工知能向けの専用チップで低精度演算(10進法で5桁、もしくは10桁)の演算器を搭載し、高性能化した計算機が多数現れている。これらの高性能演算能力が「TOP500」に反映されないとの実情があり、ジャック・ドンガラ博士を中心にLINPACKベンチマークを改良し低精度演算で解くことを認めた新しいベンチマーク「HPL-AI」が2019年11月に提唱されたとのことだ。

「HPL-AI」はLINPACKが連立一次方程式をLU分解を用いて解く際に低精度計算で実施することを認めている。しかしながら、倍精度計算よりも計算精度が劣ってしまうため、引き続き反復改良と呼ばれる技術で倍精度計算と同等の精度にすることを求めているという。つまり、2段階の計算過程で構成されたベンチマーク。

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