音楽ストリーミングにもweb3が台頭 「分散型ストリーミング」は音楽業界をどう変えるか?

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分散型インターネット「web3」の存在感が増しつつある今、音楽業界にもその波は寄せ始めている。ここ数年で音楽視聴方法のメインストリームとなった「ストリーミング」。SpotifyやApple Music、YouTube Musicといった“Web2ストリーミング”が広く浸透する中、ブロックチェーンを搭載した分散型ストリーミングサービスが台頭しつつある。

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売上が急増、音楽業界の”主役”に躍り出たストリーミングサービス

現在、音楽業界の売上の半数以上を占めているのはストリーミングサービスである。2015年頃から頭角を表し、2017年には右肩下がりの「フィジカル(CDやレコードなどの販売)」を追い抜いた。スマートフォンの普及やコロナ禍の巣篭もり需要なども相まって、2021年には収益全体の約65%をストリーミングが占めるまでに成長している。

1999〜2021年の音楽業界全体の売上額推移(グローバル)。濃紺がストリーミング、赤はCDやレコードなどの「フィジカル音源」(出典:IFPI Global Music Report 2022
音楽業界(グローバル)の収益源(2021年)。ストリーミングが全体の65%を占めている(出典:IFPI Global Music Report 2022

ストリーミングの登場によって、私たちの音楽ライフは大きく変わった。手軽に世界中の音楽やチャートにアクセスできるようになり、家にいながらいつでも好きな音楽を楽しめるようになった。また、アーティストにとっては業界参入への敷居が下がり、市場が成熟していない国や地域でもグローバルにファンを獲得できる可能性を開いた。ストリーミングサービスの功績は大きい。

「アーティストの収益配分が少なすぎる」ことが問題に

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そんな業界の“メインストリーム”に躍り出たストリーミングプラットフォームだが、その裏で話題となっているのが「不透明な収益配分」だ。特にアーティストやクリエイターへの報酬が低すぎることが世界中で問題視されている。

BBCによると、2021年7月、英国の議会では「ストリーミングが音楽業界に与える経済的問題」が議論された。同国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省がまとめた報告書によると、「アーティストへの一般的な報酬額は収益の16%」であり、「50%まで引き上げるべきである」と提言。Appleはじめ各社は慎重な姿勢を見せたが、ストリーミングが持つ課題は広く周知されるようになった。

2022年2月、アメリカの人気歌手カニエ・ウェスト(イェ)は新作アルバム「Donda 2」をApple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスで配信しないと発言。「アーティストの収益はわずか12%。今こそこの抑圧的なシステムから音楽を解放するべきだ」と反意を表した。日本でもシンガーソングライターの川村真琴さんが自身のツイッターで、音楽サブスクリプションの配当が少なすぎることを投稿して話題となった。

Spotifyもこの動きに敏感に反応し、プレスリリースサイト「Loud&Clear」では、2021年の決算報告の際に同社の収益配分システムについても動画付きで解説している。

これによると、Spotifyからはシステム上、アーティストへの直接配分は行うことができないが、収益の3分の2が権利者(ライツホルダー)に支払われ、そこからアーティストを含む多くのステークホルダーに振り分けられるという。

また、2021年には100万ドルの収益を上げるアーティストが1040組に上り、5年で2倍以上に増えていること、そして同年までに300億ドル以上のロイヤルティを音楽業界に支払っていることなどを説明している。

ブロックチェーン搭載のweb3ストリーミングプラットフォーム「Audius」

2019年よりサービスを開始したAudius(オーディウス)は、「アーティストの手に力を取り戻す」ことを謳った、ブロックチェーン搭載の音楽ストリーミングサービスだ。ローンチ以降ユーザーは徐々に増えていき、2021年9月には月間アクティブユーザー数が600万人を突破した。

Audiusでは、アーティストはプラットフォームに曲を無料で直接アップロードすることができる。また、「収益の9割をアーティストに支払う」ことから、多くの報酬を得られることも魅力だ。

Audiusの利益配分には「$AUDIUS」という独自のトークンが使われる。$AUDIUSはブロックチェーンのイーサリアム上に築かれた仮想通貨で(今後はソラナに移行予定)、これを持つことで経営会議の参加にも使えるガバナンストークンとしての役割も持つ。

多く保有するほど投票権も強まることから、大量にトークンを持つ初期投資家に力が集中する事態を避けるため、「スマートコントラクト」を利用して時間とともに発言権が薄くなっていくようプログラムされているという。

2021年8月、AudiusはTikTokとの連携を発表して大きな話題となった。TikTokが音楽ストリーミングサービスと提携するのはこれが初であり、Audiusで配信している楽曲をそのままTikTokで共有することができることから、アーティストにとっては非常に大きなチャンスとなる。

また、同年9月には500万ドルの資金調達に成功した。主な出資者はケイティー・ペリー、リンキン・パーク、ジェイソン・デルーロなど大物アーティストたちであり、Audiusへの期待度が伺える。

web3ストリーミングは既存サービスと比べるとまだメジャーとは言えないが、収益システムやガバナンスの透明性、公平性といった特徴から、一部では「音楽業界のゲームチェンジャーになる」とも囁かれている。

「純粋に音楽をつくりたい」次世代アーティストを支援するシステムづくり

WIREDによると、Audiusの共同創設者であるロニール・ルンバーグCEOは、スタンフォード大学でブロックチェーン技術を学び、卒業後はベンチャーキャピタルに勤務したという異色の経歴を持つ。

小さな頃から音楽が好きだったルンバーグ氏は、Audiusを「純粋に音楽をつくりたい、次世代アーティストのためのプラットフォームにしたい」という。

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これまでも同様の情熱を持った多くのストリーミングサービスが勃興してきたが、規模が大きくなるにつれ、“しがらみ”が増えたり、経営が困難になったりして輝きを失っていったものも少なくない。

ルンバーグ氏は、Audiusが「アーティストファースト」であること、一部の投資家や運営者に権限が集中しないこと、運営者(自分)がいなくなっても健全に運営されることを標榜し、そのためのシステム構築やサービスの提供をしたいと意欲を示している。

2022年10月、Audiusはバーチャルライブプラットフォーム「SoundStage.fm」を買収し、仮想空間でのコンサート事業にも乗り出した。

注目のweb3音楽ストリーミングプラットフォーム

Audius以外にも様々なweb3ストリーミングプラットフォームが登場している。

イーサリアムブロックチェーン上に構築されたEmanateは、高品質のサウンドが売りのプラットフォームだ。アーティストは楽曲をNFTとして販売することもでき、アプリにはウォレットも内蔵されているためユーザーはNFTを1か所に保存することができる。Emanate内では独自トークンの「$EMT」が使用される。

同じくイーサリアム上に構築されているOPUSは、スマートコントラクトを使用することでアーティストへの公正な報酬や信頼できる配当ルールを謳っている。OPUSは収益の90%をアーティストに支払うと明言。ファンはプレイリストを作ってシェアすることで、プラットフォームを通して自身も稼ぐ機会を得られるという。

このほか、アーティスト自身が楽曲の著作権を持てるTamagoや、収益の一部で植樹をし、カーボンオフセットに貢献しているOneOfなどもある。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)

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