「web3版YouTube」を目指す動画プラットフォームが続々、クリエイターエコノミーを変えるか?

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インターネットの新たな形と言われる「web3」。ユーザーがコンテンツを消費するだけだった「Web1.0」、ユーザーも提供サイドに関わるがビッグテックが中心的な役割を果たす「Web2.0」に続く「web3」は、ブロックチェーン、トークンなどのテクノロジーを取り入れることで、ピア・ツー・ピアの分散型ウェブ世界を構築しようというものだ。

インターネット関連ビジネスの在り方を一新する可能性を秘めているとして注目を集めている「web3」には、すでに様々なアプリケーションが登場しているが、次世代のYouTubeを目指す動画配信プラットフォームもいくつか登場し、クリエイターエコノミーを変えることも期待されている。

2022年は「web3元年」? さまざまなサービスがリリース

「web3」の明確な定義づけをすることは難しいが、基本的には、多数のユーザーに同一のデータを分散保持させる仕組みであるブロックチェーン技術を応用し、ユーザーとアプリケーションの間で、分散型のコミュニケーションとインタラクションが可能なインターネット上のサービスや取引を指す。

これまでのようにサービスの運営会社が中央集権的に情報を独占管理するのではなく、複数のユーザーが相互に接続されネットワークを構築して管理を行う点が特徴だ。

2022年は「web3元年」とも言われ、多額の資金調達を成し遂げるweb3関連スタートアップも数多く現れており、そのポテンシャルと危険性について議論を呼びながらも、注目度が非常に高い分野となっている。

web3は動画プラットフォームの在り方を変える可能性

なにかと話題にはなっているものの、まだまだ一般のインターネットユーザーにとっては身近とは言えないweb3関連サービス。

しかし、このところインドアエンターテイメントの中心的存在であるYouTubeの次世代版となる可能性を秘めた動画プラットフォームもいくつか登場し、より親しみやすい存在になりつつある。

動画クリエイターからは、自分がアップロードしたコンテンツがすべてYouTubeのサーバーにあり、YouTubeのアルゴリズムに基づいてオススメされ、自分の動画やチャンネルが収益化できるか否かのコントロールが困難であった従来のクリエイターエコノミーを変えうる存在として、注目されているようだ。

web3は動画クリエイターの収益にも影響?

子どもに人気の職業として名前が上がるYouTuberなど動画クリエイターだが、その現実は厳しい。

ドイツの市場調査専門企業Statistaによると、2022年の第1四半期、YouTubeの全世界の広告収入は69億ドル(前年比14%増)だった。にも関わらず、2022年8月のデータによると、高額の手数料を支払わなければならないこともあり、YouTuberの97.5%が米国の貧困ライン12,140ドルを稼げていない。

既存の動画プラットフォームではクリエイターの現実は厳しい(UnsplashAQVIEWSより)

きらびやかなインフルエンサーとしてのYoutuberはごく一部であり、ほとんどは副業としての収益をあげるのにすら必死と言える状況だ。

そして、クリエイターが収益を得る、つまり企業スポンサーを確保するか、広告に大量の視聴者をひきつけるためには、プラットフォームのアルゴリズムとルールに沿ってコンテンツを作る必要があるが、その変更は完全に運営会社の管理下にあり、多くの場合、詳細は公開されていない。そのため、突然再生回数が激減する、アカウントが停止されるなど、クリエイターは常に不安定な立場にある。

独自通貨でクリエイターに収益を還元「Odysee」

そんな現状に一石を投じるweb3動画プラットフォームの1つが、2020年12月にサービスを開始した「Odysee(オディシー)」だ。

YouTubeにそっくりなweb3動画プラットフォーム「Odysee」(Odyseeウェブ版より)

見た目はYouTubeに非常に似ているが、異なる点は管理会社でなくユーザーコミュニティが管理を行う分散型配信制度を採用し、独自の仮想通貨「LBRY」によりクリエイターへの収益の100%還元を行っている点だ。

広告はないため、コンテンツの視聴回数、平均再生時間、コンテンツの種類、エンゲージメントなど明示されたルールに基づいて算定される視聴報酬を稼ぐか、投げ銭を受け取るかで収益を得ることとなる。

Youtubeのような運営会社によるコンテンツチェックはないため、ポルノ、暴力、著作権侵害など、違法コンテンツに関するガイドラインに明確に違反しない限り、突然の動画の削除やアカウントの停止もない。

ユーザー数は約900万人とYouTubeと比べると圧倒的に少ないが、今後コンテンツ数が増加すればユーザーの増加も期待できるかもしれない。

「DTube」はユーザーの裁量の大きさが特徴

「D Tube」も注目度の高いweb3関連のプラットフォームだ。

管理はユーザーの投票によって選出されたリーダーが中心となって行う「D Tube」(D Tube Web版より)

こちらも一見YouTubeによく似た動画プラットフォームだが、「Odysee」と同じように分散型の管理を行っており、管理はユーザーの投票によって選出されたリーダー(現在は10人)を中心になされている。

「DTubeコイン($DTC)」という独自の仮想通貨で収益還元する仕組みが特徴。クリエイターは自身の裁量で動画内に広告を出すこともできるが、主な収益は動画への人気投票に基づいて選ばれた上位の動画に$DTCが付与され、それがクリエイターに支払われる形で発生する。

オススメも運営会社が作成するアルゴリズムではなく、ユーザーの視聴と投票に基づく推薦システムに基づいたコミュニティベースの形をとっている。

深いファンエンゲージメントを通じてクリエイターを支援「RALLY」

「Rally」も注目株。イーサリアムブロックチェーンを利用したこのプラットフォームでは、クリエイターが独自のクリエイターコインを立ち上げることが可能。

クリエイターエコノミーの支援を表明する「Rally」(Rally Web版より)

ファンはこのコインを購入したり販売したりと、ブロックチェーン上のプラットフォームで通貨として使用できる。

この仕組みにより、「Rally」はこれまで以上に深いファンエンゲージメントと報酬を通じて、クリエイターが生計を立てることを可能にすることを目指すと謳っている。

議論を呼ぶ運営会社によるコンテンツチェックの不在

このようにweb3版YouTubeを目指して次々とリリースされる動画プラットフォームだが、議論を呼んでいるのは、運営会社によるコンテンツチェックが行われない点だ。

ITビッグ・ファイブ、あるいはGAFAMと称されるGoogle、Amazon、Meta、Microsoft、Appleの5大グローバルIT企業が多くのウェブコンテンツを管理下においている現状では、自社のプラットフォームに相応しい、あるいは相応しくないコンテンツを決める権限はこれらの大企業にある。

このことは大企業による検閲、言論の自由の侵害として非難されてもきたが、同時に有害なコンテンツを社会に広く拡散させないために一定の役割も果たしてきた。

web3では、このような企業に代わってユーザーのコミュニティがコンテンツを審査することになるが、陰謀論、偽医療、ヘイトスピーチや暴力の扇動などの拡散をどの程度防げるかについては、懸念の声も上がっている。

Instagram、Twitterにもあらわれるweb3版代替サービス

分散型の管理を行うweb3版Instagram、Twitterなども登場(UnsplashShubham Dhageがより  )

去年から今年にかけては、「Decentralized Social(DESO) ブロックチェーン」と呼ばれる、分散型ソーシャルアプリを拡張するためにカスタム構築されたブロックチェーンも登場。

これを活用したweb3版Instagram「Supernovas」や、web3版Twitter「Diamond」など動画以外でも新しいプラットフォームが誕生している。

「web3」は、オンラインコンテンツのクリエイターにとっては、自分のコンテンツが大企業のコントロール下に渡らない点、収益化の可能性が高まる点が魅力と言えるが、さまざまな問題点も指摘されている。引き続きその動向に注目だ。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

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