日本初のプラスサイズ女性のビューティーコンテストが開催。大切なのは“心のサイズ”。優勝者が伝えたい思いとは?

TAG:

2022年9月19日(月)東京の山野ホールにて、昨年に続き2度目の開催となるプラスサイズ女性のビューティーコンテスト『The Today’s Woman Plus Size Beauty Contest 2022』(以下:Today’s Woman)が開催された。Today’s Womanは、ミス・インターナショナルの吉松育美やはるな愛など数々のビューティークイーンを輩出し、カリスマトレーナーとして日本のみならず海外のコンテスト界からも引っ張りだこのスティーブン・A・ヘインズ氏が創設・主宰する。“日本初”の同コンテストは、今後“日本発”のコンテストとして海外にも展開していく予定だ。

スティーブン・A・ヘインズ氏を囲む2022年の優勝者ダイアナ・L・バーさん(左)と齋藤ちひろさん(右)

欧米では体型による差別をなくそうとする“ボディポジティブ”のムーブメントがあり、広告にプラスサイズのモデルが起用されることも多くなってきた。しかし、日本ではスリムであることへの憧れや執着が強く、プラスサイズの方々がビューティーアイコンとして活躍できる場は非常に限られている。まだまだ画一的な美がフィーチャーされる世の中に一石を投じるべく、Today’s Womanが生まれた。

今年ファッションメインスポンサーを務めたのは、アメリカ発グローバルファッションブランドのSHEIN(シーイン)だ。「ファッションスタイルに関係なく、誰もが無条件に自分自身を表現できる」と掲げるブランド理念と、今年の年間テーマである「SHEIN FOR ALL」がToday’s Womanが目指す姿と重なり協賛を決めたという。

コンテストはSophisticated Class(18歳〜39歳)とElegant Class(40歳以上)の2つのカテゴリーで行われ、2名のグランプリが誕生。栄冠を手にしたお二人に、コンテストに挑戦した経緯やグランプリとして伝えたい思いを伺った。

スクラップ&ビルド。それまでの自分を終わりにする挑戦だった

Sophisticated Classでグランプリに輝いたのは、今年1月に奄美大島へ移住した齋藤ちひろさん。パートナーと共に来年オープン予定のゲストハウスづくりに勤しむ日々を送っている。そんな彼女がToday’s Womanに参加したきっかけは何だったのだろうか。昨年は観客として会場を訪れ、友人の八つ橋まりこさんに声援を送っていたという。

Sophisticated Classグランプリ:齋藤ちひろさん

「それまでコンテストにはバトルがあると勝手に思っていたのですが、八つ橋さんがライバルたちに心から拍手を送っている姿を見て、コンテストへのイメージが覆されたんです。そして、なぜか自分もステージに立っている姿が頭の中に浮かんでいました」

八つ橋さんが今年も出場することを知り、導かれるように参加を決めたちひろさん。優勝する自信はあったのかと問いかけると、彼女の口からコンテストに挑戦するまでの苦悩が溢れ出てきた。

「自信なんてありません。私自身、今までの生き方を続けていくのに限界を感じていたんです。例えば美しさを表現したいと思う自分を許せませんでした。記憶を辿っていくと、子どもの頃にセーラームーンの服を着ていた私を否定されたことを思い出します。様々なことが積み重なり、気づいたら自分を女性として受け入れられなくなっていました。心では美しいものを求めているのに現実では逃げている……。仕事も上手くいかず、離婚も経験しました」

そんなちひろさんの姿を見た現在のパートナーが「どうしてそんなに女性である自分を拒絶しているのか。一度しっかり向き合ってみたら?」とアドバイスしたという。そしてちひろさんは、Today’s Woman挑戦への扉を開くことになる。

「自信があるかどうかのレベルではなく、それまでの自分を終わりにするための挑戦でした。スクラップ&ビルドのように、自分の生き方のパターンを終わりにして新しい自分へと立て直そうとしたんです」

コンテストに参加した今は自信を持てるようになったが、その自信とは、この挑戦が間違いではなかったと思える確信だと語る。

SNSでは、SHEIN のファッションに身を包みながら“美しさ”を体現した投稿を求められたが、フォロワーからの反応に怯えて体調を崩してしまったちひろさん。しかし「美を意識した投稿は苦手で怖い」と複雑な胸の内を吐露しながらも発信を続けていくうちに、自分のちぐはぐだった心と現実が統合されていく感覚を覚えたという。次第に「勇気をもらいました」「私もちひろさんみたいに自分を出したい」といったコメントが届くように……。周囲のポジティブな変化を受け取ったことで「自分の行動は間違いではなかったと確信できた」と、コンテストへの挑戦を振り返った。

“I am Beautiful”と自分を信じられるようになった

「当初コンテストに懐疑的だった」と語るのは、Elegant Classで優勝を果たしたダイアナ・L・バーさん。ダイアナさんは今回2度目の参加でクラウンを手にしたチャレンジャー。普段は福岡県の小学校で英語を教えており、オペラとジャズを歌うアーティストの顔も持っている。

Elegant Classグランプリ:ダイアナ・L・バーさん

「最初はプラスサイズ女性のビューティーコンテストだなんて詐欺ではないのかと思ったのです。でも主宰のスティーブンについて調べたり説明会に参加したりするなかで、本物のコンテストだと確信することができました」

自閉スペクトラム症を抱えているダイアナさん。自分の感情を理解するのが難しく、人に受け入れてもらうためにジョークを言うこともあるが、本当の気持ちとはかけ離れているため混乱してしまう場面があるという。そんなダイアナさんにとって、思う存分に自身を表現できるステージはなくてはならないものだった。

「普段は感情が溢れてしまい周りから落ち着くように言われてしまいますが、ステージは表現するところ。私にとって安全で自分らしくいられる場所なのです」

プラスサイズであることで「悪である」「負けである」とレッテルを貼られることに悩んできたと振り返るダイアナさんだが、コンテストに参加して変化したのは、自分を信じられるようになったことだと語る。

「家族や友人が自分を肯定してくれるのは当たり前かもしれませんが、第三者が自分の美しさを肯定してくれる経験は自信につながります。コンテストに関わるみなさんに親切にしてもらっているうちに、プリンセスのような気持ちになっていたんです。Today’s Womanを通して、プラスサイズでも“I am Beautiful”と自分を信じられるようになりました」

コンテストを終えた今、伝えたいこと

ダイアナさんは自分を理解するのが難しいと話すが、お二人に共通しているのは発する言葉に迷いがないことだ。コンテスト用に飾った言葉ではなく本心からのメッセージが人々の心を掴み、グランプリを手繰り寄せたのだろう。最後にコンテストを終えた今、Today’s Womanグランプリとして伝えたい思いを伺った。

ちひろさんは「本当の自分は?と問いかけて、そこに正直であることが大切ではないでしょうか。心とプラスサイズであることが交わらない人や、健康が気になる人はダイエットするのでしょうし、プラスサイズの体が好きならそのままでいい。大切なことは心と体がつながっていること。本当に変わりたいのなら一歩踏み出してほしいです」と、変わりたいと願う人たちの挑戦を後押しする。

ダイアナさんは「まず、あなたは独りじゃないと伝えたい。そして、サイズや価値観は社会が決めることではありません。自分がどう在りたいかが大切です。今、自分を信じることができなかったとしても、何か信じられるものを見つけることからスタートしてほしいと思います」と、自身がToday’s Womanのステージを見つけたように、信じる道が助けになると語った。

自分に心地よさを感じることが美しい

昨今、“ありのままの自分が美しい”とするメッセージが溢れているが、Today’s Womanはダイエットに励んだり変わりたいと願ったりする人たちを否定しているわけではない。自分自身に心地よさを感じることが大切で、今心地よさを感じているならそれが美しさであり、誰もがその美しさを謳歌する特権があると主張する。

コンテストのオープニングの様子

主宰のヘインズ氏は「Today’s Womanは内側からの美を表現しており、オープニングではファイナリストの熱い思いをプラカードに明示し、平和的なメッセージをお伝えしました。この新しい挑戦や変化を通して、お互いのことを理解し、どうすれば平等に尊重し合うことができるのかを一人ひとりが考えるきっかけになったら嬉しいです」とコメントを寄せている。

ビューティーコンテストは自信のある人たちの集まりであると思われがちだが、ちひろさんやダイアナさんのように、悩んでいる自分を打破すべく、荒療治としてコンテストの世界に飛び込む者もいる。きっと多くの人たちが彼女たちの姿に触発されたことだろう。来年のToday’s Womanにはどんな女性たちが集まるのか、今からとても楽しみでならない。

モバイルバージョンを終了