気候変動がもたらす海面上昇は、多くの人間の命を奪ってきた。主に海に面した発展途上国の被害が顕著で、バングラデシュでは毎年1万9000人以上の子どもが溺れて亡くなっているほどだ。これは、同国で1日あたり平均53人の尊い命が犠牲になっていることを意味している(※1)。
こうした幼い命の危機に一風変わったデザインの救命胴衣を制作し、立ち向かおうとした一人の学生がいる。英国・ノーサンブリア大学のEwan Morrell(イーワン・モレル)の画期的な発想を皆さんに紹介しよう。
「Bot lifejacket (ボット・ライフジャケット)」と名付けられたそれは、人命を救助する以外に、気候変動の原因になっている「廃棄物処理問題」へもアプローチできる救命胴衣だ。
バングラデシュには、世界的なファストファッションブランドの大規模工場が多い。モレルの制作した救命胴衣の材料は、そうした工場から廃棄された生地からつくられた。彼は、各企業に慈善事業として「ボット・ライフジャケット」を製造し、配布することを提案。これは、バングラデシュの土地に工場を持つグローバル企業が、地元の環境保全に取り組めるようにする戦略でもある。
モレルによれば、現地で活動する企業は現在、使用済み生地を燃やしたり、断熱材として安く売ったりしているという。その環境負荷に比べれば、彼の制作した救命胴衣は、企業にとって最小限のコストで済む解決策なのである。
さらに、「ボット・ライフジャケット」は、大気汚染・海洋汚染の原因ともなっている廃棄ペットボトルを再利用しているという点でも優れている。救命胴衣の前面にペットボトルを3本、背面に1本いれるだけで、仮に突然の水害に襲われたときでも、人が水に浮くのに十分な浮き輪代わりとなるのだ。
このシンプルなデザインと、ペットボトルの利用により、発泡プラスチックなどを使用することもなく、コストを抑えた制作が可能になった。また、500ミリリットルのペットボトルより小さいサイズでコンパクトに収納できるため、配布もしやすい。
「ボット・ライフジャケット」はデザインもシンプルながら、1台のミシンと6つのパターンで作ることができ、制作方法もシンプルだ。固定用のバックルやベルトなども低価格帯のものを使用しているため、貧困地域にいる人々にも手が出しやすい価格設定にすることができる。本当に必要な人たちの生活、環境、ニーズまでを考慮した製品のデザインといえるだろう。「ボット・ライフジャケット」は、現在ケニア、英国、インドで製品テストを行っているという。
今後は原材料の供給など、製品それ自体の初めから終わりまで考え込まれた製品が増えていくだろう。私たちが日常的に手に取る製品に対しても、そうした目線を忘れずにいたい。
※1 Monsoon floods push millions of children into uncertainty amid COVID-19
【参照サイト】Bot lifejacket uses waste plastic bottles to prevent drownings dezeen
【参照サイト】ライフジャケットの種類と特徴 国土交通省
(元記事はこちら)IDEAS FOR GOOD:ペットボトル3本で命を救う。英国の学生がごみから作った救命胴衣