アルファベット決算
米国では2022年4~6月期の決算が次々と発表され、多くのメディアがこぞってその結果を報じている。
決算発表前には多くのアナリストらが、テック業界における成長減速を懸念し、ネガティブな決算予想を行っていた。予想される通り成長減速が著しく、株価を大きく下げる企業があった一方で踏みとどまる企業もあり、同じテック業界でも決算結果は珠玉混合の様相となった。
前者の例として挙げられるのはスナップだろう。同社は4〜6月期決算で、4億2200万ドルの損失を計上、また雇用減速などが影響し、決算発表を受け株価は25%も下落した。
一方、成長速度は減速しているものの、減速度合いが予想を下回り、株価を上げた企業も存在する。グーグルの親会社アルファベットがその1つだ。
英Guardianが報じたRefinitiveによるアルファベットの売上予想は、698億8000万ドルだった。これに対し、実際の売上は696億9000万ドルと予想を若干下回る程度となり、投資家からはポジティブな反応を呼び、決算日の株価は3%上昇する結果となった。
Guardianは、アルファベットの決算を受けた市場の反応は、リセッションの可能性が取り沙汰される中でも、アルファベットが検索/広告ビジネスで難局を乗り切れるだろうという投資家の期待があらわれたものだと説明している。
アルファベットの今期売上696億9000万ドルは、前年同期比で13%の増加となり、また2022年1〜3月期の売上高680億1000万ドルを上回るものだ。
アルファベットの決算が懸念された理由
2022年4〜6月期の決算予想で、アルファベットに対する懸念が膨らんだ理由はいくつかあるようだ。
1つはドル高の影響。現在、アルファベットの収益の55%は米国外で生み出されており、強いドルが決算にマイナスに作用。ドル高の影響がなければ、今期の売上高は720億ドル近くに達した可能性があるという。
アルファベットの最高財務責任者ルース・ポラット氏は、決算におけるドル高の影響は7〜9月期にさらに大きくなる可能性を指摘している。
このほか、各国における規制強化、アンドロイドアプリの利用低下、ロシアでのグーグルサービス停止などが懸念要素となっていた。
FactSetのアナリスト予想データによると、グーグルクラウド部門の売上予想は64億ドル、YouTubeの広告売上予想は75億ドルだったが、それぞれ63億ドル、73億ドルと予想を下回った。
今期のYouTubeの売上に関しては、前年同期比での成長率が7%増と予想されていたが、実際は4.8%増にとどまり、成長率はこの2年で最低を記録したとも報じられている。
YouTubeなどが注目されるが、主軸ビジネスは依然検索広告
グーグルクラウドやYouTubeなどで予想を下回る成長率となったアルファベット。
だが、世界的な広告デジタルシフトを取り込んでいること、また広告のデジタルシフトが継続していることなどを背景に、主軸となる検索広告事業は今後も伸びる公算が大きい。
YouTubeなどに注目が集まりがちなアルファベットの事業だが、主軸は依然としてグーグル検索広告事業である。
The Vergeによると、アルファベットの今期売上高696億9000万ドルのうち、「Google Search & Others」項目に計上された売上高は約407億ドル。アルファベット全体におけるグーグル検索広告事業のシェアが60%近くを占めている計算となる。
Guardianが伝えたInsider Intelligenceのデータによると、世界のオンライン広告市場の規模は6020億ドルに上るが、グーグルは29%のシェアを占めており、この12年間シェアトップを独走している。
Insider Intelligenceのアナリストは、巨大な市場シェアを背景に、グーグルはこの先の難局を乗り切る上で、よいポジションに位置していると評価している。
広告のデジタルシフト定着を示唆するアルファベット決算
コロナ禍、様々な市場でデジタルシフトが加速したが広告市場も例外ではない。
アルファベットの決算から広告市場におけるデジタルシフトの流れの一端がみえてくる。
流れが加速したのは2021年だ。
Statistaがまとめたアルファベットの通年決算データによると、グーグルの検索広告事業(Google Search & Others)の売上高は、2017年に698億ドル、2018年に852億ドル、2019年981億ドル、2020年1040億ドルと漸進的な成長を見せていたが、2021年に1489億ドルと大きくジャンプした。
またYouTube広告売上高も2019年の151億ドル、2020年197億ドルから、2021年に288億ドルと大幅な増加となった。
広告のオンラインシフトは現在も続いており、グーグルにとってはこの先も追い風が続く格好となる。
業界別にみると、2022年4〜6月期のグーグル検索広告売上に貢献したのは、観光業界とリテール業界。
観光業界に関しては、広告支出が2021年に24%増、2022年には36%増加することが見込まれている。また、観光業界では広告支出全体に占めるデジタル広告の割合が2020年の63%から2023年には70%に達するとみられている。
ZenithMediaによると、2020〜2023年の観光産業における広告支出は、広告市場全体に比べ6倍速いスピードで成長する見込みという。
デジタル広告市場は、2025年に米国だけで3000億ドルを超える可能性があるともいわれる巨大な市場。アルファベット/グーグルのパフォーマンスを追う上で、デジタル広告市場の動きがより重要になってくるはずだ。
文:細谷元(Livit)