森永製菓は、認知機能の一部(記憶、注意、見当識などの脳機能)を向上させる効果が認められた(参考文献1)「ラムネ菓子(以下、ラムネと記述)」の研究を進めているという。
今回同社は、西日本工業大学の古門良亮 講師、九州産業大学の萩原悟一 准教授らと共同で新たな研究を行い、ラムネの摂取により認知機能(情報処理速度や持続的注意力)が一時的に向上することを改めて確認したと発表。
また、eスポーツプレイ中の脳波データを解析したところ、ラムネを摂取した時はプラセボ摂取時と比べてSMR波のパワー割合が高いことが明らかになり、ヒトの高い集中状態の維持に有用であることが示されたとのことだ。
このSMR波は、感覚運動リズム波と呼ばれ、リラックスや集中といった心理状態で現れる脳波の周波数帯(参考文献2)。
■研究背景と目的
全世界でプレイ人口が増え続けているeスポーツに関する最近の研究では、ゲームプレイ中の注意力と栄養の関係が調べられている。しかし、ゲームプレイや人間の生理指標にぶどう糖摂取が与える効果については、これまでほとんど調べられていないとのことだ。
そこで、脳神経活動に重要なぶどう糖を必要に応じて補給することは、最適な脳機能レベルを維持するために有効であるとの仮説を立てたという。
なお、人間の心理状態は脳活動によって支えられており、脳波データによって心理状態を推定できることが報告されている(参考文献3)。
そこで、同研究ではラムネの摂取が認知機能に与える効果について検討。また、これに加えてゲームプレイ中の脳波データから感情を推定する手法(Sports KANSEI, Littlesoftware Inc.)を用いて、ラムネの摂取による生理指標への影響を明らかにすることを目的としたという。
■研究方法
健常な成人男性20 名(平均年齢 19.85 士 0.96 歳)を対象に、ぶどう糖(含水結晶ぶどう糖)26.2g を含むラムネ 29g、またはぶどう糖をエリスリトールに置き換え風味を近づけた錠菓(プラセボ)を 29g 摂取してもらい、レースジャンルのゲームプレイ(約30分)前後に認知機能の評価をトレイルメイキングテスト§により行ったという。
つづいて、ゲームプレイ中の脳波データを測定し、ラムネ摂取条件とプラセボ摂取条件との比較で統計解析を実施。
§:コンピューター画面上のランダムな位置に表示される数字や文字を順番に早く正確になぞる試験法
■研究結果・考察
<研究結果>
ラムネ摂取条件では、プラセボ摂取条件よりも認知機能テストのスコアが有意に改善したため、ラムネ摂取は「情報処理速度」や「持続的注意力」の向上に有用であることが改めて確認されたという。
また、ゲーム開始25分後において、様々な周波数帯の脳波データを解析したところ、特にラムネ摂取条件の方がSMR波のパワー割合が有意に高かったことから、ラムネ摂取は、時間の経過を忘れるほど課題に没頭している状態、いわゆるフロー状態をもたらす可能性が示されたという(図1)。
フロー状態については、プロのアスリートやアーティストに限らず全ての人間に共通する感覚で、いわゆる「ゾーン」に入っているとも表現されているとのことだ(参考文献4)。
<考察>
これらの結果から、リラックスと集中のバランスがゲームパフォーマンスに大きく影響すると予想されるため、ぶどう糖の摂取がゲームパフォーマンスに与える影響をゲームスキル別に検証することが必要と考えているという。
また、ぶどう糖の摂取は、脳活動への影響を通じて、認知機能を一時的に高めることが推察されるが、そのメカニズムには未解明な点が多いため、今後、更なる研究を行っていくとしている。
同内容は査読付き国際学術誌「Journal of Digital Life」(2022年7月29日掲載)に、論文掲載されたという(参考文献5)。その他の結果や試験方法などの詳細については論文に記載しているとのことだ。
この結果は健康な成人男性における研究であるという。ラムネに限らず、食事やおやつは栄養のバランスを考慮して食べることが大切であるとし、特に血糖値を気にする人は注意が必要となる。
森永製菓では、今後もラムネ並びにぶどう糖に関する研究に継続的に取り組んでいくとしている。
■参考文献
1) 稲垣宏之 ら. (2020). 健康な成人におけるぶどう糖ラムネ菓子摂取によるワーキングメモリーと注意力の改善―ランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー比較試験―. 薬理と治療, 48(4), 599-609.
2) Heinrich, H., Gevensleben, H., & Strehl, U. (2007). Annotation: Neurofeedback–train your brain to train behavior. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 48(1), 3-16.
3) Lee, Y. Y., & Hsieh, S. (2014). Classifying different emotional states by means of EEG-based functional connectivity patterns. PLoS One, 9(4), e95415.
4) Chen, J. (2007). Flow in games (and everything else). Communications of the ACM, 50(4), 31-34.
5) Furukado, R., Hagiwara, G., & Inagaki, H. (2022). Effects of glucose Ramune candy ingestion on concentration during esports play and cognitive function. Journal of Digital Life, 2, 1-9.
■研究概要
【実施時期】2021年秋
【対象者】健常な成人男性20 名(最終解析対象者20名)
【試験食品】含水結晶ぶどう糖 90%含有ラムネ打錠菓子 29g
【対照食品】 ぶどう糖をエリスリトールに置換した打錠菓子 29g
【試験期間】単回摂取
【試験方法】ランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験
【試験項目】トレイルメイキングテストによる認知機能テスト、脳波データ測定