インド発ユニコーン企業急増予想、英国抜いて世界3位
2023年に中国を抜き人口が世界最多となることが予想されるインド。
若年層が多い人口構成となっており、市場としての期待は非常に大きなものとなっている。
また市場としてだけでなく、新しいビジネスが多数立ち上がっており、スタートアップ領域の盛り上がりも注目に値する。
インド地元紙Business Standardが2022年6月29日に報じた「ASK Private Wealth Hurun India Future Unicorn Index 2022」のデータによると、今後2〜4年でインドのユニコーン企業数は、122社に達する公算が大きいという。
2021年8月時点の国別ユニコーン数は、米国が402社でトップ。これに中国が158社、インドが40社、英国が31社と続いた。
Hurunの予想が実現すると、インドにおけるユニコーン数は、2021年8月時点と比較して3倍増加することになる。
Hurunは、ユニコーン候補の条件を、2000年以降の創業、かつ未上場で現時点の評価額が2億ドル(約276億円)以上としている。また、2年以内にユニコーンになる可能性が高い企業を「ガゼル」、4年以内にユニコーンになる可能性が高い企業を「チーター」と呼び、それぞれの動向も追っている。
Hurunの主任研究員によると、インドのユニコーン数はこの1年で65%増加し、現時点では84社に増加、一方ガゼル企業は59%増加し51社に、チーター企業は31%増加し71社に増えたという。同主任研究員は、パンデミックが既存ビジネスにおけるディスラプションを加速させ、スタートアップ企業の増加に寄与した可能性が高いと指摘している。
ユニコーンになる可能性が高い企業の半数以上が、ソフトウェア関連のビジネスに従事。モノを扱う企業は17%にとどまる。一方、67%がB2B、37%が消費者向けのビジネスを展開しているという。
都市別にみると、最もユニコーン候補企業数が多いのはバンガロールで、実に46社が本拠地を構えている。次いで、デリー首都圏(NCR)が25社、ムンバイが16社と続く。
ASK Wealth AdvisorsのサルジャCEOによると、インドでは2021年だけで44社のユニコーン企業が誕生、史上最多を記録した年となった。同氏は、これによりインドのスタートアップエコシステムの規模は、米国、中国に続き、世界3番目に躍り出たと述べている。
またサルジャCEOは、景気低迷の影響により、評価額を下げたり、レイオフをせざるを得ないスタートアップが出てくることから、短期的にはインドのスタートアップ企業の成長に若干の停滞が見られるかもしれないが、同国のスタートアップエコシステムは強靭であり、長期的に見ると成長が加速する余地は十分にあると指摘している。
インド、既存のユニコーン企業
インド発のスタートアップで現時点でもっとも評価額が高いのが教育テック企業「BYJU’s」だ。2022年6月20日時点のCBInsightのデータによると、同社の評価額は220億ドル(約3兆円)。
2011年創業で、2017〜2018年頃に評価額10億ドルを超え、インドで初めての教育テックユニコーンとなった。
主にプレスクールから高校生までのオンライン学習コンテンツを世界95カ国で展開。2021年12月時点の情報によると、同プラットフォームで学習するユーザー数は1億1500万人に上る。
インドで2番目の評価額を誇るのがフードデリバリーのSwiggyだ。2014年創業で、現時点の評価額は107億ドル(1兆4785億円)。CBInsightのデータでは、同社がユニコーンリストに入ったのは、2018年6月21日となっている。
Swiggyは、インドで2021年7月にIPOを実施したフードデリバリー大手Zomatoの競合と目されるスタートアップで、現在急速にその事業範囲を拡大中だ。インド地元紙National Herald India2019年10月7日付の記事では、Swiggyはサービス展開する都市数を500以上に拡大し、Zomatoに並んだと報じられている。
インドのフードデリバリー市場は、ZomatoとSwiggyの2社がシェアの大半を占めている状況。BBCによると、2社によるシェアは95%に上る。市場シェアが高いことから、2022年4月にはZomatoとSwiggyに対し、独占禁止法違反の疑いがかけられ、インド当局の調査が実施された。
このほか、旅行スタートアップOyo Rooms(評価額90億ドル)、ゲーミング企業Dream11(80億ドル)、フィンテック企業Razorpay(75億ドル)、配車アプリOla Cabs(75億ドル)などが既存ユニコーンとして注目を集める存在となっている。
注目ガゼル企業、Shiprocket
Hurunによるインドユニコーン候補として、どのような企業が注目を集めているのか。
ガゼル企業リストのトップに位置するのは、ロジスティクス企業のShiprocketだ。
ソーシャルセラーや中小企業向けのデリバリー支援プラットフォームとして2017年に登場。Shopifyなどのショッピングウェブサイトと提携運送会社とをAPIで統合し、注文、発送ラベル、支払いなどを一元管理できるサービスを提供している。またインド国内20カ所以上で倉庫を運営しており、フルフィルメントサービスも提供している。同プラットフォームを介して商品を受け取る消費者は年間7000万人以上で、毎年2.5〜3倍の勢いで増えているという。
2021年12月には、シリーズEラウンドでZomatoなどから1億8500万ドル(約255億)を調達。同社から公式な評価額は公表されていないが、関係筋によると評価額は9億〜9億5000万ドルほどと推定されている。
注目ガゼル企業Zeptoも評価額9億ドル
ガゼル企業リスト2番目に位置するのは、クイックコマース企業Zeptoだ。
10分以内の商品デリバリーを売りとする同社、2021年12月にシリーズCで1億ドルを調達し、評価額は2カ月前の2億2500万ドルの2倍以上となる5億7000万ドルに達した。
また、2022年5月に実施したシリーズD調達ラウンドで2億ドルを調達、評価額は9億ドルに跳ね上がったと報じられている。
今後2年以内にユニコーン企業になるとされるのがガゼル企業だが、この2社に限っては、2年よりも早いペースでユニコーンになる公算が非常に大きいといえる。
このほかガゼル企業リスト上位には、Turtlemint、Ather Enegy、Vivriti Capitalなどが名を連ねており、今後注目度が高まっていくものと思われる。
文:細谷元(Livit)
- ガゼル企業
- 2年以内にユニコーン(2000年以降の創業、かつ未上場で現時点の評価額が2億ドル(約276億円)以上)になる可能性が高い企業を指す。また、4年以内にユニコーンになる可能性が高い企業を「チーター」と呼ぶ。