世界経済がリセッションに陥る可能性があるといわれる中で、先月末にAppleの4~6月期の業績が発表になった。

売上高は830億米ドル(約11兆2000億円)と、4〜6月期としては過去最高を記録。これをけん引したのが、iPhoneとサービスだった。日本だけでなく、世界のスマートフォン市場全体が景気低迷の影響を受けているのとは対照的だ。

「iOS vs Android」で比較すると、日本は以前からiOS比率が他国に抜きん出て高いことで知られているが、世界のどの地域や国でiPhoneは優勢なのだろうか。

部品不足や社会情勢に翻弄された、今年第1四半期のスマホ市場

2022年第1四半期である1~3月の世界のスマートフォン出荷台数は、前年同四半期比で7%減、前四半期比12%減の3億2800万台だったと、TMT(テクノロジー・メディア・通信)業界の専門調査を行うカウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチが報告した。

出荷台数のトップはSamsungで23%を占めた。それに、18%のApple、12%のXiaomi、9%のOppo、8%のVivoが続いた。

徐々に改善されてきてはいるものの、依然としてスマホの部品供給が滞っていることだけが原因ではない。同四半期中には新型コロナウイルスの再流行、中国のロックダウンによる需要低迷、ロシア・ウクライナ戦争勃発と、それに伴うロシアからのOEM撤退などの問題が浮上し、台数が落ち込んだ。

5Gスマホの出荷台数に関しては、Appleがけん引し、前年同四半期比で16%増。第1四半期の5Gスマホの全出荷台数の81%を、トップのSamsungから第5位のvivoまでの上位5ブランドが占めている。

「今年第2四半期は、スマホ業界にとって苦難の時」という専門家も

続く2022年第2四半期の出荷台数は、前年同四半期比9%減、前四半期比10%減の2億9500万台とさらに落ち込んだ。四半期の出荷台数が3億台を下回ったのは、コロナ初期にあたる2020年第2四半期以来のことだそう。トップは前期と同様、Samsungだ。そしてApple、Xiaomi、Oppo、Vivoが続く。

ロシア・ウクライナ戦争がもたらす地政学的な不透明感が続き、経済状況は悪化する一方。コロナの大流行や部品不足をまだ完全に克服していないスマホ業界を、さらに脆弱化させる結果を招いている。

スマホのトップ5のブランド中、前年同四半期比で成長を見せたのはSamsungのみで、8%増。出荷台数では3ポイント増の21%になった。

Appleの出荷台数は、市場が縮小する中でシェア率は上昇したものの、前年同四半期比5%減となった。それでも、Xiaomiが25%、Oppoが15%、Vivoが22%減になっているのと比較すれば、比較的小幅な減少で食い止めることができたといえる。

2022年第2四半期の市場動向について、カウンターポイントの参事であるジャン・ストリジャック氏は、「当四半期は世界のスマホ市場にとって厳しいものとなった」と、また同社シニアアナリストのハミート・シン・ワリア氏は、「トップ5以外のブランドの業績はまちまちだった」と指摘し、当四半期の出荷台数が前年同四半期比79%増となり、トップ5に次ぐ、世界第6位になったHonorの健闘ぶりをたたえた。

スマホ業界不振でも、前進するApple

Appleの最高経営責任者、ティム・クック氏は先月後半、4~6月期の業績の830億米ドル(約11兆2000億円)と前年同四半期とを比較し、2%増収したことを発表した際に、これを難しい事業環境でも同社が効率的にビジネス管理ができる証拠として、高く評価している。

AppleのCEO、ティム・クック氏 Photo by Austin Community College (CC BY 2.0)

携帯電話・スマートフォンおよびタブレット機器の購買・使用動向調査を行うカンターによるコムテック調査によれば、米国、中国本土、オーストラリア、日本、ヨーロッパの5市場(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)のスマホの売り上げを調査したところ、Androidの売り上げシェアは英国を除くすべての国で、ほぼ横ばいであるにも関わらず、iPhoneの売り上げは伸びていることを明らかにしている。これは売れ行きが良いiPhone13によるところが大きいという。

iPhone13の成功の理由を、カンターのコムテック調査は、消費者の求めに応じ、問題点を解決していることにあると分析する。向こう6カ月以内に新たにスマホを購入する予定の消費者は、バッテリー寿命、ストーレージ容量、カメラの品質が手持ちのiPhoneの問題点と考えており、同社はこれらへの対応を、iPhone13に反映させているそうだ。ヨーロッパの消費者はこのほかにスクリーンサイズ、耐久性、OS機能を高く評価し、iPhone13を購入しているという。

アジア市場でiPhone SEは救世主となるか

Webトラフィック解析を行うウェブサイト、StatcounterによるGlobalStatsによれば、世界の市場におけるモバイルOSのシェア率は先月現在で、iOSは約28%、Androidが約72%となっている。

アジア市場を見てみると、iOSは約18%、Androidは約81%。同市場はSamsung、Oppo、Vivo、Xiaomiなどとの競争が厳しいエリアだ。日本では依然として、iOSは約65%と圧倒的なシェアを維持している。

スマホ所有で世界一の中国では、iOSのシェアは約29%に留まっている。しかし、2022年第1四半期に、ここ数年来、チップや部品の不足に悩まされているHuaweiの販売シェアが前年同四半期の24%から15%にまで落ち込んだ。その恩恵を受けたのがiPhone。わずか2%とはいえ、Huaweiの販売台数を上回った。

また今年3月に発売が開始された5G対応のiPhone SEは、429米ドル(約5万8000円)とiPhoneの中で最も安価なデバイスだ。アンドロイドと競合するには最適と、金融サービス会社のコーウェンのアナリストらに評価された。特に、販売で成功することを期待されているのが、アジア市場。価格に敏感な消費者の間でシェアを拡大するだろうと予想されている。

Photo by Joe Chau on Unsplash

中国だけでなく、iOSのシェアが約4%で、競合のOppo、Vivo、Xiaomiが主流というインドでも、この第3世代SEは好評を得ることが期待されている。

インドでは「デジタルインディア」プログラムという政府の機関プログラムが2015年から始まり、現在も継続中だ。これにはデジタルで強化された社会と知識経済を国内にもたらそうというビジョンが掲げられている。安価なiPhone SEは、他社のAndroidと肩を並べて、新たにスマホを購入しようという人たちを獲得するのに役立つ。

Appleのおひざ元、北米ではスマホの半分以上が‘iPhone 

北米市場でのiOSシェアは約52%と、Androidをしのぐ割合となっている。2022年第1四半期には、前四半期より出荷数が約20%もの伸びを見せている。

Appleは2021年第4四半期、他エリアでの販売を優先的に行ったものの、世界的に需要が明確にならなかったため、在庫を北米に移した。その結果、北米エリアでの需要に対応することができ、2021年第4四半期にバックオーダーになっていたデバイスを納品することができたと、IT系市場調査会社のカナリスのアナリスト、ブライアン・リンチ氏は分析する。

また、iPhone SEはミリ波に対応していないものの、米国内の通信業者がCバンドと6GHz未満の周波数帯への投資を増やしているため、iPhone SEは北米市場で成長していくとリンチ氏は予想している。

欧州では来年秋にコネクター1本化という問題

TMT業界に特化した国際的な調査会社、カウンターポイント・リサーチによれば、欧州における2022年第1四半期のスマホの出荷台数は、2013年以来最低を記録した。第2四半期もまた、2020年の第2四半期以来の低さとなった。前年同四半期比で11%、前四半期比で13%減少している。

欧州市場では、iOSは約32%を占める。Appleの欧州市場での成長率は、前年同四半期比で約21~24%、前四半期比で3%だ。カウンターポイント・リサーチは、 Appleは5Gに接続できないiPhone SEのおかげで、出荷台数、市場シェア率が前年同四半期比で増加した。しかし、前四半期比では減少している。これはロシア市場からの撤退が原因だ。

6月にEU諸国とEU議員はスマホ、タブレット、カメラのモバイル充電ポートを一本化することに合意した。複数のデバイスに1つの充電器を使用できるようにし、生活の簡便化を図り、廃棄物を削減しようという狙いだ。2024年秋までに、有線ケーブルで充電するタイプのものは、USB-Cポートの搭載が必須となる。

この法律の最も大きな影響を受ける可能性があるのは、iPhoneをはじめとするAppleの製品。同社の製品の充電には、独自規格のライトニングケーブルが使われているからだ。最近iPadとMacBookにはUSB-Cポートが装備された。しかし、今回の法規制に対してAppleの広報担当者は、米国のニュース専門放送局、CNBCに「1種類のコネクターだけを義務付ける今回の規制は厳しい。これでは技術革新を促進するどころか、阻害している」と話し、関係者と話し合いを続けたいとしている。

iPhone12が人気のオセアニア、低価格帯のスマホが主流のアフリカ、5G導入が順調に進む南アメリカ

オセアニア市場でのiOSのシェアは、約42%。オーストラリアでは約57%に上る。2021年上半期のスマホの国内販売台数は、前年上半期を4%上回った。この増加に貢献しているのがiPhone12で、5G端末の販売台数の増加のほとんどを占める。iPhone12の販売の影響で、スマホの平均価格は前年比12%増と上昇しており、2021年11月現在で780Aドル(約7万円)だ。

アフリカ市場、南アメリカ市場でのiOSシェアは、それぞれ約14%、約12%。アフリカのスマホ市場ではiPhoneは大変高額で、高嶺の花となっている。200米ドル(約2万7000円)未満の低価格帯のものが、約87%を占めた。2020年の第4四半期からは減少したものの、2021年第4四半期、約81%の出荷台数シェアを占め、主流となっている。200~400米ドル(約2万7000~5万4000円)の中価格帯のものの割合は、同期間に約10%から14%に上昇している。

南アメリカ市場でのiOSのシェアは約12%。2022年4月現在、ほとんどの地域で4Gが確立されており、5Gの導入も順調に進んでいる。主にモバイル通信事業者から構成されるGSMアソシエーションによると、スマホの普及率は70%強。これには遠隔地も含まれており、都市部ではその率は80%を大きく上回るという。カナリスによれば、2021年に好調だった南アメリカのスマホ市場は、2022年第1四半期には3%減となったが、それでも引き続き手堅さを維持しているそうだ。iPhoneについては出荷が滞り気味だったが、やっとそれが回復し、iPhone13が売り上げを支える。カナリスによれば、Appleの市場シェアは約5%だという。

消費者だけでなく、Apple自体の期待も大きいiPhone14

CNBCが伝えたところによると、Appleは従来のスケジュール通り、9月のiPhone14発売を目指し、試験生産を終え、今月量産に入ったとされる。同社は好評だったiPhone13同様かそれ以上に、iPhone14は売れ行きが伸びると予測しているようだ。

同社が抱くiPhone 14への期待感は、ウォール街のアナリストにも前向きに捉えられており、「主要経済国が不況に陥り、スマホ業界全体がふるわなくても、アップルは持ちこたえられるだろう」という考え方が広まっている。

先月、円安の影響でiPhoneの日本国内販売価格が値上げになったことは記憶に新しい。このせいでiPhone離れが起きるともいわれたが、iPhone14の発売がもう来月に迫ってきた。果たしてどうなるだろうか。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit