ついにGoogleのARグラス実装か リアルタイム翻訳や道案内機能など公開実験へ、拡張現実はより身近に

メタバースに注目が集まる中、3次元仮想空間を実現する技術として「VR・AR」トピックが話題に登ることが多くなっているが、その多くは「VR」にフォーカスした内容となっている。そんな中、Googleは2022年7月19日、開発中のAR対応メガネ型ウェアラブルデバイス(ARグラス)の公開テストを実施すると発表した。

 ARとは、「Augmented Reality」の略称で、「拡張現実」を意味し、実際の風景にヴァーチャルの視覚情報を投影するものだ。大ヒットしたスマホゲーム「ポケモンGO」などで私たちの生活に身近なものとなりつつある。

Googleが注力するARグラスでどのようなことが可能となるのか、ARにおける競合他社の動きをあわせて紹介する。

リアルタイム翻訳や道案内に、拡張現実を通じてシームレスにアクセス

現在、開発が進められているGoogleARグラスは、通常のメガネ風の外観に、透明なディスプレイとマイクおよびカメラを搭載したものになる予定で、現行のプロトタイプが焦点をあてているのは画像や動画ではなく、主に文字情報や音声情報の提供だ。

リアルタイム翻訳で言語バリアを取り除くARグラスの開発  Google公式チャンネルより(動画)

今回実施が予定されている公開テストでは、まずは数十人規模でのフィールドテストが行われる予定で、今年末までには数百人まで対象を拡大するスケジュールとなっている。

このARグラスを通じて、ユーザーはリアルタイム翻訳や道案内にアクセス可能となるとのことで、今や私たちの生活に欠かせないものとなったGoogle翻訳やGoogleマップといったアプリをより便利に使えるようになることが期待されている。

リアルタイム翻訳はマイクで拾った会話の字幕を目線上に表示

Googleの提供する翻訳アプリはまだその精度に不十分な点はありながらも、すでに様々な生活、仕事の場面で欠かせない技術となっている。

当初、スマートスピーカーとディスプレイで展開されたGoogleのリアルタイム通訳モードは現在、Google アシスタントのリアルタイム翻訳機能「通訳モード」で、モバイルでも使用可能となっており、Googleレンズを使用した文字情報の翻訳も海外滞在時に大活躍したという経験がある人も多いだろう。

新開発のARグラスでは、その時進行している会話をマイクが拾い、リアルタイム翻訳し、その文字起こしをメガネ越しの目線の先に字幕のように表示、またメニューや看板といった文字情報もリアルタイムに翻訳されることで、外国語でのコミュニケーションをこれまで以上にスムーズに進めることができるようになる。

メガネを通した現実の風景に直接表示される表道案内

Googleマップのような道案内も、スマホの画面でなくARグラスを通じて提供される事によるメリットは大きい。

これまでもランナーやサイクリスト向けに、集中力維持やワークアウトのフィードバックをリアルタイムで得るためにナビゲーションARメガネが使用されることはあったが、日常生活においては、Googleマップはスマホに何度も目を落として確認するのが一般的だった。

Googleマップは便利だが、スクリーンを頻繁にチェックする煩わしさがあった Photo by CardMapr.nl on Unsplash

このスマホを何度も確認する作業は煩わしいだけでなく、手を滑らせてスマホを落としたり、前方不注意となったりと安全面でも問題があったが、視界を邪魔しない形で道案内を目線の先に提供できるARグラスが実用化されれば、このような問題は解決するだろう。

これまで産業分野が主だったARグラス、一般利用に広がるか?

スマホやタブレット端末を使用するタイプのARは、ポケモンGOやドラクエウォークなどのエンタメ製品がヒットし、知育おもちゃも数多く発売されるなど身近なものになってきたが、このGoogleのARグラスのようなメガネ型ウェアラブルタイプは、これまで産業分野での活用が主だった。

これまでのARグラスは一般利用より産業分野で活用されてきた Photo by Bram Van Oost on Unsplash

Googleがすでに発売している「Google Glass Enterprise Edition 2」は、様々な機器のメンテナンスや倉庫作業の効率アップに活用されており、Googleが巨額投資をしたもののARヘッドセットの売り上げが不振となっているマジックリープも今後、医療や国防、通信分野での活用を主な戦略とすることを発表している。

ARグラスの一般利用につきまとうプライバシーの問題

これまで、ARグラスの一般利用がそれほど浸透しなかった理由のひとつは、プライバシーの問題があるとも言われている。

街で一般の人が、ARグラスのユーザーに許可なく撮影されることが危惧されているのだ。2014年にはGoogleが当時発売していたARグラスを装着した女性が、サンフランシスコのバーで、デバイスの着用を理由に攻撃される事件も起きた。

一般の人が映り込む街でのARグラスの使用にはプライバシーの問題が Photo by Bernard Hermant on Unsplash

今回の新型Googleグラスにもカメラが搭載されており、Googleの説明によると、翻訳や道案内のために物体や画像データを取り込むために使用する可能性があるためとのことだが、ユーザーが許可なくまわりの人を録画・撮影することの懸念は消えておらず、この点は今後、一般への普及を目指す上で課題となってくるだろう。

今回の公開テストに関しては、学校、政府機関、医療施設、教会、抗議活動などでは着用しない方針で進められる予定となっている。

大手IT企業が次々と参戦するARグラス市場。産業分野でリードするMicrosoft

ARグラスの開発には、Googleだけでなく、Apple、Meta、Microsoftなど、他の米国大手IT企業も何十億ドルも投資し、激烈な競争を繰り広げているが、一般消費者への普及を成し遂げた企業はいまだ現れていない。

産業分野で一歩リードしているのが、Microsoftだ。特に医療現場で同社のARグラス「HoloLens 2」は幅広く活用され、リモートで患者の診断情報を複数の病院の専門医がリアルタイム共有したり、没入型手術ナビゲーションシステムの提供により、医療の効率化や正確性の向上を助けている。

医療現場、医療教育に幅広く活用されているMicrosoftの製品 Case Western Reserve University Youyubeチャンネルより(動画)

医学生や若手医師のトレーニングにも有用性が示されており、同社の調査では、手術のトレーニング用デバイスにより訓練中の医師一人あたりおよそ1,440米ドルの訓練コストを削減できると報告している。

これまでケンブリッジ大学、ミシガン大学、シンガポール国立大学などのメディカルスクールが「HoloLens 2」を活用した医学教育を取り入れている。

Appleも早ければ来年にも複合現実感ヘッドセットの発表を予定

Appleはユーザーの目に直接映像を照射する投影型システムを開発か Photo by Bangyu Wang on Unsplash

Appleが開発するARグラス「Apple Glass」も、音声アシスタントSiriのサポートを受けながら、App Storeを通じて独自のゲーム、ビデオストリーミング、コミュニケーションソフトウェアにアクセスできるようになると伝えられており、Appleファンが待ち侘びている製品だ。

しかし、2022年末から2023年初頭に予定されているAppleのAR/VRヘッドセットのリリースの後に、ARグラスの発売が予定されているため、まだ詳細についての発表は待つ必要がありそうだ。

AppleはARグラスに、ユーザーの目に直接映像を照射する投影型システムを採用する可能性を示しており、ARグラスの長時間利用に伴って発生する頭痛、吐き気、眼精疲労などに対応したユーザーフレンドリーなデバイスになることが期待されている。

MetaはARグラスの制御にEMG(表面筋電位)の活用を目指す独自路線

Metaも独自のARグラスの開発を進めているが、その最初の製品は当初期待されていたような一般向けのものではなく、ディベロッパー専用のものになるようだ。

続く第二弾として予定されている「Artemis」は、よりコンパクトかつ高度なディスプレイを搭載した一般向けのARグラスがリリースされる予定となっており、さらにその後に続く予定の「Hypernova」と呼ばれる比較的廉価なARグラスは、近くのスマホと連携して受信メッセージやその他の通知を表示するシンプルなものとなるようだ。

MetaのAR・VR製品で注目すべきは、神経バイオフィードバック技術であるEMG(表面筋電位)の活用に多額の投資を行っていることだ。EMGはこれまで主に医療現場などで用いられてきたが、Metaはセンサーを用いて筋肉の電気的活動を検出・記録し、ウェアラブルデバイスの入力情報に変換するハードウェア技術としてEMGを用いることを目指している。

2000年代後半に広く普及し始めたスマホと、翻訳や道案内、エンタメなど各種アプリは、もはや日常生活の必需品と言って良いものとなった。

現在のARグラスをはじめとするウェアラブルデバイスの進化も著しく、今はまだ成し遂げられていない一般消費者への普及がこれから始まることで、私たちの生活がどのように便利になるのか、期待が高まっている。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

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