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子どものメンタルヘルスに害を及ぼしているとして、コンテンツ規制の必要性を訴えるフェイスブックの内部告発が米国で大きな話題になるなど、コンテンツの管理に厳しい目が向けられている米国の大手テック企業。一方、欧州においてもコンテンツ規制の厳格化の波に直面している。
今年6月、フェイスブックを運営するメタ、マイクロソフト、ツイッター、グーグル、アマゾン傘下のトウィッチなどの大手テック企業、およびクラブハウス、ヴィメオなどの中小企業、その他多くの業界、市民社会団体など30を超える企業や団体が、欧州の偽情報対策規範「Code of Practice on disinformation」に署名。潜在的に有害ではあるが、違法とまではいえないオンラインコンテンツに対処する具体的な措置を実施することとなった。
この欧州の新しい規制への署名で、大手テック企業や市場にはどのような影響が予想されるのだろうか。
オンラインでのフェイクニュースやプロパガンダの拡散が社会問題に
このオンラインプラットフォーム上の新しいコンテンツ規制規範「Code of Practice on disinformation」は、「偽情報に関する行動規範」と銘打たれているだけあって、その目的は、フェイクニュースやプロパガンダといった「偽情報」の拡散対策にある。
欧州委員会の担当者は、新型コロナパンデミックとロシアのウクライナ侵略戦争における、オンラインでの偽情報の拡散から学んだ教訓がこの規範をつくりあげるに至った背景にあると明確に述べている。
パンデミックにおいては、様々な偽医療情報がSNSで拡散し、たとえば、イベルメクチンがコロナの特効薬であるといった偽情報を信じた人々が、家畜の駆虫薬として販売されているものを自己判断で服用し、中毒で入院に至るなどの事件を引き起こした。
今年のウクライナ侵略戦争においても、ロシア政府が侵略を正当化するプロパガンダを拡散しているとして、EUは3月、ロシアの国営ニュース専門局であるロシア・トゥデイとスプートニクを域内で禁止としたが、その後もSNSなどを通じたロシア政府の発信する偽情報拡散は続いている。
新規制は広告収入の削除や第三者ファクトチェッカーを導入
この新規範の内容には、偽情報による様々な潜在的被害を防ぐことを目的とした44項目の具体的な取り組みが含まれ、署名した企業はその遵守に尽力することが要求されるとともに、EU加盟国とより詳細なデータを共有が求められる。
以下はその規範の一部だ。
- 政治的広告を検索可能なライブラリーの作成
- フェイクニュースサイトの広告収入の排除
- フェイクニュースサイトの廃止
- 偽情報の拡散に使用されるボットや偽アカウントの数の削減
- 偽情報にフラグを立て「信頼できる情報源」にアクセスするためのツールをユーザーに提供
- 研究者にプラットフォーム上のデータへのより良好で広範なアクセスを提供
- 独立したファクトチェッカーと緊密に連携して、情報ソースの検証を実施
実行状況のチェック機関とタスクフォースも同時に設置
フェイスブックやインスタグラム、ツイッターなどには、コロナワクチン関連の投稿をした際に公式情報のリンクが表示される機能があるなど、上記の行動規範は、米国のハイテク企業の多くがすでにこれまでに採用しているものではある。
今回の「Code of Practice on disinformation」によって、EUは、各IT企業が提供するプラットフォームが偽情報拡散の場となっていないかのチェックを強化することを目指している。
また、規範の実施状況をチェックする機関が新たに設置され、さらに、改善案や新しい要件を提案するタスクフォースも設置することで、刻々と変化する社会情勢とそれに伴って生じる偽情報拡散が起こす社会問題に対応することも目指している。
規範の遵守は任意から罰金制に
パンデミックとロシアによるウクライナ侵略という激動の数年間が生み出したこの「Code of Practice on disinformation」だが、EUでは、その前の2018年に「偽情報に関する実践規範」が前身として作られている。
しかし、こちらは実行が完全に任意だったこと、内容に不足があったことから、より厳格な、いわば強化版として規範の数を元の21から44まで増やして作られたのが、今年の「Code of Practice on disinformation」だ。
また、新規範はEUの新しいデジタルサービス法(DSA)による取り締まりの一環でもあるため、定められている規範を繰り返し破り、リスク軽減策を適切に実行しない超大型プラットフォームに対しては、世界売上高の最大6%の罰金を科す可能性も示されている。
「偽情報」規制、対象となる企業は広告収入減不可避か
この規制で、対象となる企業、そしてオンラインプラットフォーム業界全体において、今後影響が大きく、問題になってくるのは「広告収入の排除」という部分だろう。
昨年のフェイスブックの内部告発において、「プラットフォームの運用において利益が最優先された結果、子どものメンタルヘルスに害を及ぼしている」との訴えがあったように、偽情報に限らず、何らかの潜在的な問題があるページや投稿の厳しいチェックに運営がこれまで消極的だった大きな理由のひとつは、広告収入を失いたくないためと言われている。
センセーショナルな偽情報は、報道機関や政府機関の公式発表よりも多くの閲覧数やシェア数を稼ぐことも多く、その広告収入が運営の売り上げのかなりの割合を占めている可能性がある。
EUの新しい偽情報規制の限界とこれから
2018年の旧規範と比較し、参加企業・団体数が30を超え、およそ2倍になっている今回のEUの偽情報規制規範だが、まだ署名に至っていない有名企業が残っている背景には、この広告収入への甚大な影響の可能性が挙げられる。
広告ビジネスが急成長していると言われるアップルは、その未署名企業のひとつだ。アマゾンも現在のところ参加していない。ロシア発プロパガンダと関連が深いメッセージアプリのテレグラムも不参加だ。
EUは、参加企業・団体が増えることが望ましいとしており、引き続き新規署名を受けつけているが、広告収入という重要な面への大きな影響が予想される以上、ユーザーなどからのプレッシャーがない限り、これからも署名へと踏み切らない企業が少なからず残ることが予想される。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)