オミクロン変異株の感染拡大、続くロシアのウクライナ侵攻などを材料に、今後1年の間に世界が景気後退に直面する可能性が高まっている。

米国では、一時解雇の状況を追跡調査するlayoffs.fyiによれば、飛ぶ鳥を落とす勢いのテクノロジー関係のスタートアップ60社がここ1カ月ほどで1万6000人以上を一時解雇。景気後退を示す一例として話題になっている。

一方、オーストラリアを見てみると、6月の失業率は3.5%。前月の3.9%や、予想されていた3.8%を下回り、過去48年間で最低の水準となった。雇用ブームの到来ともいわれ、人材獲得競争が激化しているとも報道されている。

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米国のように景気後退には陥らないだろうともいわれるオーストラリア。他国と一線を画す同国の経済の好調ぶりは何に支えられているのだろうか。

オーストラリアの経済成長率は4.8%

国際通貨基金(IMF)は4月、オーストラリアは他の先進国を追い抜く経済成長を見せると予測した。これは、IMFの「世界経済見通し(4月)」上での発表だ。

ウクライナ戦争とインフレの高騰で、各国とも経済成長率の見通しが切り下げられた一方で、オーストラリアの推定成長率は上げられ、4.2%とされた。2023年には世界第12位の経済大国になると見込まれている。

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オーストラリア統計局(ABS)によれば、同国の経済は今年の3月期に0.8%、過去1年間で3.3%の成長を遂げたという。ロイター通信が取材を行った経済学者のほとんどは、四半期ベースで0.5%、3月31日までの1年間では2.9%の成長を見込んでいた。結果的に成長率は予想を良い方向に裏切ったことになる。

コロナからの回復著しい労働市場

中でも、労働市場は新型コロナウイルスまん延以前の水準と比較しても、より強力に回復している。

6月の純雇用者数は5月の6万600人から8万8400人へと急増。年間では43万8千人増となった。失業率は3.5%で、過去48年間で最低。労働参加率は過去最高の66.8%に上昇。失業者数も異例の5万4300人減で、解雇も限定的にしか行われていないという。専門家は、これらを不況とは無縁の水準だと評価する。

2022~2023年の政府予算の具体案の一番最初に取り上げられているのが、労働市場だ。「より多くの仕事と強い経済」という見出しがついており、失業率をコロナ以前のレベルかそれ以下に下げるという、政府の財政戦略の初期段階は予定より早く達成できたとしている。

そして、戦略の第二段階である、GDPに占める債務の安定化と削減に移るという。財政緩衝を再構築することで、国の債務を長期的に持続可能なものとし、将来起こり得る危機に対応できる状態を確保しようというのだ。

コロナ規制からの解放で、交通サービスへの支出大幅増

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経済成長には、家計消費の上昇も貢献している。ABSによると、オミクロン変異株や、オーストラリア東部を襲った豪雨による洪水による混乱があったにもかかわらず、昨年12月期と比較し、1.5%増加した。

選択的消費者物資・サービスの消費は4.3%増え、コロナ流行前の水準を初めて上回った。娯楽・文化活動は4.8%、ホテル・カフェ・レストランは5.3%の伸びを見せた。自動車の購入は、供給制約が緩和したことで、13%増となった。3月上旬に西オーストラリア州の州境が、2月下旬に国境が開いたことで、交通サービスに対する支出は60%という大幅な伸びを示した。

州別では、家計消費が好調だったのは、昨年後半にデルタ株流行の影響で規制を最も受けた東部の州だった。3月期に伸びを見せたのは、オーストラリア首都特別地域(3%)、ビクトリア州(2.7%)、ニューサウスウェールズ州(1.9%)だった。

オーストラリアの公共ニュース配信サービスABC NewsにABSは、3月期は消費者の裁量支出がコロナ以前の水準を上回るまで回復した初めての四半期だと強調している。

急成長するアジアにアプローチしやすい位置

アジア開発銀行(ADB)の報告書「アジア2050-アジアの世紀は実現するか」によれば、世界のGDPに占めるアジアの割合は、1981年の20%から着実に増加し、2026年には45%近くに達すると予測されている。

また、米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所が昨年発表した「この10年間でトップ30になる消費者市場はどこか? 見過ごされている5つのアジア市場」によれば、2032年までに22億人にまで増えるとみられる中産階級の消費者が、急成長するアジアの経済力を支えるという。そして注目に値するとしているのは、バングラデシュ、パキスタン、ベトナム、フィリピン、インドネシアとすべてアジアの市場だ。

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アジアに近いという地理的位置を生かし、オーストラリアはすでに現在、北東アジアと東南アジアの国々を主要な輸出先としており、企業は16の自由貿易協定を通し、これら市場に優先的に進出している。急成長しつつあるアジア市場を相手とすれば、オーストラリアの資源、エネルギー、農業、教育・観光サービスの輸出は今後も増大していくことは予想に難くない。

サービスを中心に、多様な産業を基盤とする経済

オーストラリアの経済力は、さまざまな産業によって支えられている。特に2020~2021年の6月期の総付加価値額(GVA)において大きな割合を占めるのはサービス業で、約81%と突出している。続いて消費財産業(農業・林業・漁業、鉱業、manufacturing)が約19%、金融サービスが9.3%、住居の所有が8.9%、医療・社会補助が8.2%となっている。

GVAに占める割合の第1位のサービス業は、2021年6月までの30年間に、毎年3.3%の割合で伸びている。特に情報・メディア・通信分野の成長が最も速く、過去30年間の年平均成長率は5%、専門・学術研究・専門サービス分野が4.8%、医療・社会補助分野が4.5%だった。

GVAに占める割合の第2位である消費財産業は、近接していて地理的に有利なアジア市場への輸出品となっており、同市場を支える中産階級の消費者の増加と共に、オーストラリアの経済成長に貢献するものと考えられている。

31年間景気後退知らずのオーストラリア

1990年代前半から2000年代初期にかけて起こったインターネット・バブルだけでなく、1930年代に起こった世界恐慌以来の景気後退といわれた世界金融危機の際も影響を受けなかったオーストラリア。世界金融危機では、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、2四半期連続でマイナス成長を経験せずに済んだ3カ国のうちの1つであり、年末のマイナスGDP成長を免れた2カ国のうちの1つでもあった。

オーストラリアが前回景気後退を経験したのは1991年のことだ。それ以来31年間、経済成長を遂げてきた。アンソニー・アルバネーゼ新首相は景気後退を回避できると言っている。専門家の意見は分かれるところだ。

オーストラリア貿易投資促進庁は、回復力のある同国経済を支えるのは、労働力、国民の消費、地理的位置、多様な産業だとした。「世界経済見通し(7月)」でIMFが、今年の世界成長率を3.2%と下方修正し、「見通しは暗く、先が見えない」という世界経済にあって、今回もまたオーストラリアは景気後退を避けることができるだろうか。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit