ザッカーバーグ氏のメディア露出
マイクロソフトやメタが参加する「メタバース標準化フォーラム」が発足するなど、メタバースをめぐる動きが活発化している。
メタのマーク・ザッカーバーグCEOが積極的にメディアに登場するようになっているのも変化の1つ。米メディアでは6月20日頃から、ザッカーバーグ氏が同社のVRヘッドセット開発動向やメタバース構想を語る記事が急増しているのだ。
たとえば、The Vergeは6月20日の記事でメタのVR開発部門「Reality Labs」が実施したVR関連イベントにおけるザッカーバーグ氏のインタビュー記事を公開。この記事では「プロジェクト・カンブリア」だけでなく、メタが開発する様々な次世代VRヘッドセットについて詳述されている。
また6月22日には、ザッカーバーグ氏は、米主要ビジネスメディアCNBCの取材に応じ、10億ドル以上ともいわれるVR・メタバースへの投資事情について説明、今後のビジョンを語っている。
こうしたザッカーバーグ氏のメディア露出が増える少し前に中国バイトダンス傘下のVR企業Picoが米国市場での投資を加速するとの報道があり、これに触発された可能性は否定できない。
VRヘッドセットの開発状況説明イベント
The Vergeが6月20日に報じた「Reality Labs」のイベントは、メタが同社のVRヘッドセット開発現状を伝えるために実施した報道陣向けのイベントだ。大手を中心に米国の主要メディアが多数参加しており、各メディアからイベントのレポートニュースが報じられている。
このイベントは主に、メタがこれまで開発してきたVRヘッドセットのプロトタイプの変遷を紹介するもの。同社はこれらがVR開発の歴史を示していることから「タイムマシン」と呼んでいる。プロトタイプの数は20以上に及ぶ。1つ1つがVRヘッドセットにおける特定の機能をテストするために開発されたもの。中には、手で支えないと利用できないほど大きなヘッドセットもある。
現時点におけるメタの主力VRヘッドセットは2020年にリリースした「オキュラス・クエスト2」だ。一方、2022年中にはコードネーム「プロジェクト・カンブリア」のもと開発されている新しいヘッドセットのリリースが予定されている。新ヘッドセットは、高解像のVR映像だけでなく、外部の映像をヘッドセット内に高画質で投影できる機能を売りとするプログレードのモデル。
ザッカーバーグ氏は今後、オキュラス・クエスト2のようなコンシューマモデルとプロジェクト・カンブリアのようなプログレードモデルによる2つのラインで、VRヘッドセットビジネスを展開することを計画しているという。
CNBC看板番組にも出演
このイベントに続き、ザッカーバーグ氏は2022年6月22日、CNBCの看板番組に登場し、同社が実現を目指すメタバースの世界について詳述した。2025年以降、メタバースが同社のビジネスにおいて、大部分を占めるようになるとの予想を語っている。
また、メタバースにおけるユーザーのアクティビティに関して、多くの人々がメタバース内で事業を展開し、お互いがデジタルグッズやデジタルコンテンツを購入するような世界を想定していると説明。デジタルファッションやデジタルホーム用のグッズ、また生産性を高めるためのデジタルツールの販売などが起こるエコシステムの構築を目指すという。
こうした動きに加え、ほぼ同じタイミングで同社はメタバースでの利用を想定したアバターを販売するストアをオープン、さらにメタのクリエイター向けマネタイゼーションシステムを刷新したほか、支払いシステムであるフェイスブックペイをメタバースでの利用を想定したメタペイにリブランドするなど、立て続けに重要な発表を行っている。
活発化する競合の動きに触発か
ザッカーバーグ氏がVRやメタバースに関する重要な発表を立て続けに行いメディアの注目を集めているが、その理由として背後で活発化する競合の動きがあると考えられる。
メタが注視するのは、中国ソーシャルメディアTikTok運営企業バイトダンス傘下のVR企業Picoの動きだろう。
Protocol6月10日の報道によると、Picoが米国VR市場での攻勢を強めていることが明らかになってきているというのだ。
現時点でPicoは、ベイエリア、シアトル、サンディエゴなどで計40件以上の求人情報を掲載しており、人材集めに奔走しているという。その多くは、Pico Studio責任者、海外コンテンツエコシステム責任者など、コンテンツ関連のポジションだ。また、同社はVRコンテンツのクリエイター/プロデューサーにアプローチし、資金力(tons of money)によりコンテンツの強化を進めているという。
アップルからもM2チップを搭載したMRヘッドセットがリリースされるとの憶測が流れるなど、VR・AR、そしてメタバースをめぐる動きは一層にぎやかになってくると思われる。
文:細谷元(Livit)