世界規模での気候変動を引き起こす温室効果ガス抑制に各国が対策を打ち出す中、2020年10月、政府は2050年までに温室効果(炭素)ガスの排出量を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。経済産業省はエネルギー・産業部門の構造転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取組を後押しするため、関係省庁と連携し、産業政策・エネルギー政策の両面から成長が期待される重要分野についての実行計画「グリーン成長戦略」を推進している。
その重要分野1つ、「住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業」において、注目される取組が太陽光発電や蓄電池などを用いてビルや住宅のゼロエネルギー化を実現する「ZEB(ゼブ)」や「ZEH(ゼッチ)」だ。主に住宅用途のZEHに対し、特にビルや商業・公共施設などでは、オーナー、働く人、訪れる人など、多くのステークホルダーがおり、その全ての人にメリットをもたらすZEBには大きな期待が集まる。そのZEBの実現、普及を進め、建築主に対する業務支援をおこなう「ZEBプランナー」に登録されているパナソニックの第一号案件の紹介を通じて、ZEBの未来を予測したい。
ZEBとは?
ZEBはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で通称は「ゼブ」。快適な室内環境を実現しながら、建物の高断熱化や設備の高効率化による「省エネ」と、太陽光発電等の「創エネ」により、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物だ。2008年11月の洞爺湖サミットにおいて、国際エネルギー機関(IEA)が先進各国にZEBへの取り組み加速を勧告したことが始まり。
具体的な省エネ対象設備としては、空調や換気、照明、給湯、昇降機の5設備が挙げられ、省エネの削減量と創エネの比率に応じて、「ZEB Ready(ゼブレディ)」「Nearly ZEB(ニアリーゼブ)」「ZEB」の3つのカテゴリに分けられる。
ZEBプランナーとしてのパナソニック
ZEBには、実現・普及を進めるために相談窓口を設け、建築主(オーナー)に対する業務支援(建築・設備の設計・施工・コンサル等)をおこなうZEBプランナーなる者がいる。登録者は法人であることが要件されており、家電大手のパナソニックが2019年10月にZEBプランナーに登録。2022年度からパナソニック・エレクトリックワークス(EW)社内にZEB推進チームを発足させ、本格的にスタートを切った。
主な取り組みとしては、
①空調機・照明器具などの高効率化による省エネ促進
②エネルギーマネジメントシステム(EMS)による設備連携・見える化による相乗効果による省エネ性向上
③24時間365日の保守とエネマネ活用による地域電気工事店との連携によるワンストップサービスの提供
④太陽光・水素など創エネによる新たな提案やレジリエンス(復旧)性能向上
⑤画像センサー、入退室管理システム連携による省エネ以外の付加価値を高める周辺サービス
など、多岐に渡る製品やサービスを駆使した同社ならではのアドバンテージを全面に打ち出した。
快適性と省エネ性(ZEB化)の両立を実証
そのパナソニックが一号案件として手掛けたZEBが、沖縄県名護市にある地域密着型特別養護老人ホーム「久辺の里」だ。地上3階建てのRC造で、特別養護老人ホーム(29床)のほか、短期入所生活介護(20床)、デイサービス(29名)を兼ね備えた施設として、2021年6月に開所。運営はビケンテクノグループ傘下の社会福祉法人美健会(びけんかい)が手掛ける。
温室効果ガス排出抑制に寄与する建物づくりをコンセプトに掲げ、特別養護老人ホームという生活を行う施設の観点から、パッシブ・アクティブの両面からアプローチをおこない、快適性と省エネ性(ZEB化)の両立を実証する建築物となっている。また、避難所として名護市と防災協定を締結。レジリエンスとして、災害時は太陽光と蓄電池により、最低24時間の地域住民の電力を確保した。BPI値(建物の断熱性能)は0.83、BEI値(省エネの値)は0.48を達成し、ZEBランクはZEB Readyに認証されている。
施設の特徴として、壁や天井には断熱材が敷かれ、窓は遮熱性の高い複層ガラス。LED照明と高効率空調(いずれもパナソニック製)はセンサーによりさらなる高効率化が図られた。
また、屋上には48枚のソーラーパネルを経由して、避難所用途のための蓄電池設備も導入されている他、特浴等の湯切れ対策として高効率連結型給湯器も導入されている。施設の使用電力量は管理人室に設置されたEMSによりモニタリングできる。
強い紫外線と高温多湿の気候に対応する快適性能だけでなく、“台風銀座”と呼ばれる沖縄での停電時の電力確保は非常に重要なだけに、地域レジリエンスに強い施設とも言える。
今後の推進
矢野経済研究所によると、ZEB市場は2030年には2015年比で40倍に達するとの予測がされており、2030年の市場規模は約7000億円に達するとの推計も出ている。現在、ZEB事業者は全国で約300社。今年度から本格参入し、大手では後発となるパナソニックだが、EW社電材営業統括部の小西豊樹氏は「空調機や照明など幅広い商材に加え、全国に駐在する開発営業マン200名が弊社の強み。販売網を生かしながら各地の電設工務店との連携を強めていきたい」と語り、2022年度の目標、受注プラン40件・受注金額20億円/年から2030年には同280件・220億円/年を目標に掲げる。
ZEB化に際しては平米数を問わず、建設費10%のコストアップとなるが、省エネによる光熱費の削減や補助金の利用により、コスト増分はまかなえると言う。老朽化によるビル建て替えのニーズも高まっている昨今、関心を寄せる中小企業も決して少なくはないはずだ。
現在はビルや住宅など施設ごとのエコ&スマートだけに留まっているが、今後は施設と施設をつなぎ、最終的には街の施設が有機的につながるエコ&スマート網の構築が期待されるなど、カーボンフリーを通して豊かな地域、社会づくりに貢献するZEBの可能性はますます広がりを見せるはずだ。