テック企業はさまざまなビジネスモデルで収益をあげているが、そのなかでも持続可能性が高いとして評価されているのが「SaaS」モデルだ。

2022年以降、「SaaS」モデルを採用している企業を中心に、「ケンタウロス企業」が台頭すると言われている。ケンタウロス企業とはどのような企業を指すのか?

本記事では、Bessemer Venture Parnersのレポートを参考に、ユニコーンに代わり世界の投資家・VCが注目する、新しい評価軸の可能性を探る。

「SaaS」モデルとは?

「Software as a Service」の略称である「SaaS」は、「サービスとしてのソフトウェア」、つまり、クラウドサーバーにあるソフトウェアをインターネットを経由して利用できるサービスを指す。パソコンにソフトウェアをインストールする必要がなく、データをクラウド上に保存したり、複数人のユーザーやデバイスで利用することも可能だ。

投資によって何倍、何十倍ものリターンを得られるビジネスモデルで、「SaaS」モデルはこれまで、多くのユニコーン企業を生み出してきた。SaaSスタートアップの大型資金調達は2019年以降急増し、デジタルトランスフォーメーション化が求められるコロナ禍で、投資の増加と競争がさらに激化している。

新しい評価軸の可能性

そんなSaaSビジネスの恒常的な収益を表すのが、ARR(Annual Recurring Revenue=年間経常収益)という指標だ。その他、成長率、顧客規模別の売り上げ、営業・採用戦略などが、起業家・投資家に総合的に判断される。

ベンチャーキャピタルであるBessemer Venture Parnersは、「SaaS」モデルのスタートアップがどのようにビジネスに取り組んでいるのかを分析し、企業の成長率を表す評価額だけでなく、ARRを評価する新しい方法を提案している。

同社のレポートによると、2021年に誕生したユニコーンは、EC向け物流プラットフォーム「Shippo」、インドのFintech企業「Slice」など、過去最多の520社(前年比118%増)となった。コロナ禍でのリモートワークの流れも手伝い、SaaSモデルを起用したクラウド企業が急成長している。

一方で、現在ユニコーン企業は全世界で1000社を超え、その希少性が下がっていると言われている。また、ほとんどのユニコーン企業のARRは、1億ドルに満たない。

ユニコーン至上主義の陰りとケンタウロスの登場

そこで現在注目を集めているのが、より希少性の高い「ケンタウロス企業」だ。

「各企業の成長見込みをもとにベンチャーキャピタルや投資家が付ける評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業」であるユニコーン企業。それに対し、ケンタウロス企業は、10億ドルの評価額に加え、ARRが1億ドル以上である企業を指す。

同レポートによると、この条件を満たすケンタウロス企業は、世界でまだ150社しか存在しない。ユニコーンの7倍以上の希少性だ。

伝説の生き物であるユニコーンを冠してきたユニコーン企業だが、その数が増え続け、その希少性が薄れるなか、より珍しい存在であるケンタウロスに、ベンチャーキャピタルや投資家の注目は移りはじめている。

「SaaS」モデルを採用するケンタウロス企業の代表例

同レポートによると、2021年にユニコーンとなった企業520社のうち、クラウド系サービスの60社程度が、ケンタウロス企業へと成長した。

プロダクト分析ツール「Pendo」「Salesloft」、画像・動画管理サービス「Cloudinary」、マーケティングツール「Iterable」、デジタルホワイトボードツール「InVision」、B2B予測インテリジェンスエンジン 「6Sense」、D2C支援プラットフォーム「Yotpo」、AIと機械学習のプラットフォーム「Dataiku」などを含む。

同社は、2022年以降、70社程度のケンタウロスが誕生すると予測しており、今後も安定的なケンタウロスの増加が見込まれている。

評価額だけではなく、ARRを重要なマイルストーンに

これまで、投資家やベンチャーキャピタルは、企業の評価額を最も重要な指標として認識してきた。しかし、特に年間契約を結ぶことが多いB2Bビジネスにおいては、継続的・安定的に入る収益である年間の経常収益、定期収益(=ARR)がさらに重要なマイルストーンとなりうる。ARRは、来期以降の収支のシミュレーションに、非常に役立つからだ。

ユニコーンの希少性が低下する現在、ARRという新たな指標を取り入れ、より今後の成長が期待できるケンタウロス企業に注目していきたい。

文:杉田真理子
企画・編集:岡徳之(Livit

ケンタウロス企業
各企業の成長見込みをもとにベンチャーキャピタルや投資家が付ける評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業であることに加え、ARRが1億ドル以上である企業を指す。この条件を満たすケンタウロス企業は世界でまだ150社しか存在せず、ユニコーンの7倍以上の希少性。